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カテゴリ:映画・TV・演劇
遅ればせながら、ようやく、レイ・チャールズを描いた映画「Ray」をレンタルDVDで借りて、観た。na_geanna_mさんや、きんちゃん1690さんがこの映画のレビューを日記に書いていたのに、触発されたことが大きい。2時間半という長い映画だったが、テンポが良くて長さは感じなかった。
映画は、音楽家レイの単なるサクセス・ストーリーではなく、薬漬けだった前半生など、彼の人生の恥ずべき部分もきちんと描いている(生前のレイも、映画でありのまま描くことを了解していたという)。見終わって、レイ・チャールズの生涯について、あまりにも無知だった自分が恥ずかしくなるような映画だった。 レイ・チャールズは僕が子どもの頃すでに、日本にもその名が轟く米国の一流ミュージシャンだった。「ホワッド・アイ・セイ」「愛さずにはいられない」「我が心のジョージア」などのヒット曲で、確固たる地位を築いていた。だから、彼の幼少の頃や青年時代の苦労などは、残念ながら知る機会はなかった(写真右=映画「Ray」のポスター&サウンドトラック盤の表紙)。 黒人に対する偏見と差別がまかり通っていた1940年代。南部フロリダの貧しい小作農の家庭で育ったレイにとって、生きるということは、差別とのたたかいでもあった。7歳で失明し、15歳で母を亡くしたレイが、音楽で身を立てようと17歳で単身、フロリダから西海岸のシアトルまで、長距離バスで旅立つシーンが印象的だ。 「目の見えない乗客の世話などできない」と乗車拒否をしようとする運転手に、「ノルマンディー(上陸作戦)で視力を失ったんだ」という機転を効かせるレイ。とたんに運転手は尊敬の態度に変わる。そこまで芝居もしないと、弱い立場の黒人は生きられない時代だった。 取り巻きの黒人プロモーターでさえ彼のギャラをごまかすという、安心できない環境の中、レイは持ち前の「生きる智恵」を生かしながら、ゴスペルとブルースを合体させた、独自のR&B、ソウル・ミュージックを創りあげていく(写真左=「Ray」の1シーン。ジェイミー・フォックスはレイそのもの)。 やがて音楽的にも成功し、素敵な妻と子どもに恵まれる。だが、幸せな結婚生活を送れたはずのレイは、人生の古傷を癒すためにドラッグ(ヘロイン)と縁が切れず、体はどんどんむしばまれていく。結婚生活も、愛人との浮気などで崩壊寸前。音楽的な成功はつかんでも、人生は波乱の連続だった。 レイを演じるジェイミー・フォックスが文句の付けようのないくらい、素晴らしい。ピアノを弾くときの体の傾け具合といい、細かい仕草まで徹底的に研究し、ピアノや歌も厳しいトレーニングを積んだというが、モノマネの域を超えて、まるで本物のレイが乗り移ったかのような演技。アカデミー主演男優賞をもらったのは、当然すぎるほど当然かもしれない。 映画は、矯正施設での薬物治療に耐え抜き、かつてコンサートをキャンセルしたレイを永久追放したジョージア州が1979年、「我が心のジョージア」を州歌に制定する際、レイを招いて公式に謝罪するシーンで終わる(写真右下=レイ・チャールズ本人。誰にでも愛されたレイ…、素晴らしい音楽を有難う、レイ!)。 その後もレイは25年、73歳まで生きた(クスリをあれだけやったのに長命だったのは神のご加護か?)。映画では、80年代以降の、彼の反アパルトヘイト運動や、「We Are The World」などの難民支援、ジャズやロックの大物ミュージシャンとのデュエットなど、後半生の幅広い活動にも少し触れてほしかった気もするが、その部分を省いても2時間半だから無理は言えまい。 レイが世を去って(昨年6月10日)、はや1年余。昨今のレイ・チャールズ再評価の動きを、天国の彼はどう思っているだろうか。「僕は、好きな歌を歌ってきただけだよ。これからもそうするさ」って言うのかな。サザンの「いとしのエリー」の英語バージョンでしかレイを知らない若い世代に、僕はこれから機会あるごとに「Ray」を観てごらんと勧めていこう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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