東京出張へ行っても、渋谷で飲むことはほとんどない。会社が銀座・新橋に近いので、「わざわざ渋谷まで」という感覚がある。加えて、最近の渋谷が、あまりにもガキがあふれる、大人が遊びにくい街になってしまったこともある。
しかし、今回は東京在住の友人から渋谷で飲みましょうと誘われた。渋谷には馴染みのBARもいくつかある。しばらくお邪魔していないから、丁度いい機会でもあると思い、二つ返事で誘いに乗った。
事前に友人にメールで「どこで待ち合わせしようか?」と尋ねたら、「そりゃぁ、渋谷と言えば待ち合わせの王道、ハチ公前でしょう!」とのご返答。そりゃそうだよね。聞くまでもなかった。久しぶりのハチ公前は相変わらずの混雑ぶり。訳の分からん奇抜なファッションの若者だらけだし、目の据わったおかしな外国人も多い。中国人、韓国人の観光客も目立つ。それが今の渋谷の現実。そんなことを考えていると、友人がどこからともなく現れた。
まず、1軒目はお目当ての店に行く前に、「軽くビールでもひっかけていきましょうか?」という提案で、センター街方面へ歩き出す。5分ほど歩いて連れて行ってくれたのが「TASUICHI(たすいち)」=写真右上=という変わった名前の立ち呑みBAR。
この界隈では激安ランチでも有名な店らしいが、もう一つ、いまはやりの氷温ビールが名物なんだとか。早速、それを注文。空きっ腹に染み渡る旨さだ。店内には大型テレビもあって、W杯サッカーの時などは朝まで賑わうという。
で、少しエンジンがかかったところで、2軒目は「TASUICHI」から歩いて数分、友人が最近一番気に入ってる店という「Bar 公界(くかい)」へ=写真左。引き戸を開けると、まだ開店したばかりで僕らは一番乗りだった。カウンターだけ10席ほどのこじんまりとした店で、Barという名が付いていて内装もBarっぽいが、中身はどちらかと言えば、おしゃれな居酒屋という雰囲気だ。
「公界」は2005年にオープン。宮城県の日本酒と宮城県産の食材を使った料理にとことんこだわった店だという。日本酒は「味の奥行きと香りをしっかり楽しんでほしいから」というマスターKさんの意向で、すべてワイングラスでいただく。もちろん日本酒は丁度良い飲み頃の温度に管理されている。最近、震災復興支援で日本酒と言えば東北の酒ばかり飲んでいるうらんかんろとしては、まさにうってつけの店だ。
宮城の酒にこだわっているだけあって、「一ノ蔵」「浦霞」「日高見」「勝山」などの有名どころだけでなく珍しい銘柄もたくさん揃っている。マスターは当然、今回の震災復興では支援活動もあれこれされているが、「うちは震災の前から宮城の酒を売ってきたので、(支援も)自然体でやってます」と。
フードも日本酒に合いそうな絶妙なメニューが並んでいて嬉しい。石巻のクジラ料理も名物だが、他にも酒粕と仙台味噌の炙り=写真右上、ホヤのミソ焼き、カキのアヒージョ、サメのタタキゆずポン酢、自家製ソーセージ=写真左、鹿肉の味噌カレーとか宮城の食材を使った美味しそうなメニューが目に入ってくる(これは一度の訪問では全部は食べられない。また来なくては…)。ちなみに料理は、マスターの奥様が主に担当しているとか。
店はセンター街の少しはずれにあるので、あの耳障りな喧噪はここまでは聞こえない。心地よい空間で、カウンターに座って美味しいアテをいただきながら、呑む幸せを改めてかみしめた。マスターも気さくで親切だし、最近はあまり渋谷には足を向けようとは思わなかったが、これはまた来なければならない理由が出来てしまった(笑)。「公界」で味わった日本酒は、7月2日の日記ご参照。
「公界」で美味しい料理と酒を堪能した僕ら。「**さん、近くにもう1軒だけお連れしたいおもろい店があるんですよ」と友人が言う。ここも歩いて5分もかからない距離。看板には「丸木屋商店」=写真右=とある。なんだこれは?
のれんをくぐって中へ入ると、そこはよく酒屋さんが店内でやっているような立ち呑みの光景。しかし、アテのメニューは信じられないほど充実している。おまけに「早い・安い」の缶詰メニューなんかもあったりして、まるで、大阪・天満か京橋のノリだ。
平日(月曜)の夜だというのに、店内は20人ほどの客で満杯。そこへまた新たな客が来れば、ダーク・スタイルになって、すき間をつくってあげる行儀の良さ(これも大阪スタイルだね)。常連のマナーが良い店は概して、居心地が良くて味も確かな店が多いが、ここもそうなのだろう。
渋谷に千円札1枚で楽しめる、こんな大衆的な店があるとは知らなかった。センター街周辺は、居酒屋のサービス競争が激しいエリアとしても知られるが、少し歩いているだけでも、面白い、そそられそうな大衆的な店がいっぱいあることが分かる。
友人は渋谷で働いているので、通勤の行き帰りにいつもこの界隈を通るという。そして、「安くて美味しい、新しい店を1軒、1軒開拓しております」とのたまわる。あぁ、羨ましい!
さて、ようやく3軒のハシゴを終えた僕らは、気分を変えて、オーセンティックなBARで飲もうと決めた。今度は僕が案内人。で、連れて行ったのは老舗の「Bar コレオス」。ご存じ東京のバーテンダーでも最長老格の、大泉洋さん=写真左=が営む店だ(進駐軍のBARで働いた経験もある数少ない現役!)。今年御歳77歳というが、まだまだお元気だ。「大変ご無沙汰しております」とお詫びのご挨拶してまずは一杯、ジン・リッキーを頼む。
大泉マスターは貫禄と威厳たっぷりな雰囲気なので、「話しかけにくい」と誤解されがちだが、実はまったく逆のキャラクラーの持ち主。よく喋る、喋る。ジョークも連発する。時には下ネタも口にするというとても気さくな人柄だ。この日は、僕ら以外に客は一人だけだったので、大泉さんを“独占する”ような状態。おかげで久しぶりにたっぷり、あれこれと積もる話をすることができた。
2杯目は、やはり大泉さん得意のマティーニ=写真右=を久しぶりにお願いする。コレオスのマティーニはご存じの方もいるだろうが、ステアした後、カクテルグラスではなく、大ぶりのショット・グラスに注ぐ。「なぜ、このグラスなのか」。ずっと尋ねてみたかったこの質問を初めてマスターにぶつけた。
すると、「マティーニってカクテルは、まぁ、基本的には男が飲むもんでしょう? だからこうなんですよ」と答えながら、大泉さんは肘を曲げ、拳を握った片腕を上へ突き上げて、ニヤリと笑った。下ネタ好きのマスターに一本とられた感じ。まぁ…こういう理由があってもいい(笑)。
70歳を過ぎても現役でカウンターに立ち、お客を笑わせ、楽しませ、そして美味しい酒を飲ませることに徹する大泉さんに、僕は感銘を受ける。貴方は「日本のBAR業界の宝」です。どうか、一日でも長くコレオスで僕らを楽しませ続けてください。皆さんも、機会があれば、いや、ぜひ機会をつくって渋谷のコレオスにお越しください。そして、ホスピタリティあふれる大泉マスターの話術に酔いしれてください。
【TASUICHI(たすいち)】東京都渋谷区宇田川町33-14 電話03-3463-0077 正午~午後2時、同3時~午前2時(日祝午後4時~午前零時) 無休 【Bar 公界(くかい)】渋谷区宇田川町41-26 パピエビル1F 3780-6773 午後6時~午前4時(土日祝前日~5時) 不定休 チャージ¥300 【丸木屋商店】渋谷区神山町7-5 1F 3467-7668 午後6時~11時 土日祝休 【Bar コレオス】渋谷区宇田川町28-1 高山ランド第15ビル8F 5459-1757 午後5時~午前2時 無休 ノー・チャージ サービス料10%
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Last updated
2021/07/18 09:39:18 AM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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