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Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2015/06/28
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カテゴリ:カクテルブック
 ◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

  11.マンハッタン(Manhattan)


 「カクテルの女王」の異名をもつマンハッタン(Manhattan)。誕生の由来には諸説ありますが、数多くのカクテルブックにしばしば登場するのは、「ニューヨークの銀行家令嬢だったジェニー・ジェローム(後の英国首相ウィンストン・チャーチルの母)が、1876年の大統領選の時、マンハッタン・クラブで候補者支援パーティーを開き、そのとき考案された」という説です(考案者はイアイン・マーシャルという医師だったとも、ジェローム自身が考案したとも、無名のバーテンダーだったとも伝わっています)。

 しかし、チャーチル自身が後年著した自伝のなかで、「母はその当時フランスにいて、妊娠もしていたので、その支援パーティーの場にはいなかった」と記しており、後世のつくり話の可能性が高い(出典:Wikipedia英語版)ということも分かってきました。

 考案の時期については、1860年代にはすでにニューヨークで飲まれていたという説や、1884年説(出典:PBOのHP)もありますが、それぞれ裏付け資料は現時点では明示されていません。なお、“カクテルの父”と称されるジェリー・トーマス(Jerry Thomas 1830~1885)は、彼自身のカクテルブック「How To Mix Drinks」の改訂版(1887年刊 ※死去の2年後に出版)で「マンハッタン」を紹介しており、これが現時点では、「活字になった初めてのマンハッタン」と言われています(出典:欧米のWeb専門サイト)。
Manhattan.jpg
 いずれにしても、このカクテル自体は1870年代から1885年までの間に、このマンハッタン・クラブでのパーティーのために考案され、クラブのあった「マンハッタン島」かそのクラブ名にちなんで「マンハッタン」と名付けられ、その名前で世界中へ広まっていったことはほぼ間違いないと思われます。

 他にも、西部開拓時代の1846年、メリーランド州のとあるバーで、負傷したガンマンのためにバーテンダーが気付け薬として作ったという説(欧米の専門サイト情報)もありますが、欧米でも「マンハッタン島」「マンハッタン・クラブ」起源説の方が一般的には知られているます。ちなみにジェニー・ジェロームの息子であるチャーチルはその後、マンハッタンよりもマティーニを愛したことでよく知られているます。

 現代の標準的なレシピでは、ライ・ウイスキー【注1】(またはバーボン・ウイスキー)、スイート・ベルモット【注2】、アンゴスチュラ・ビターズを加えたミキシング・グラスでステアし、カクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾りに沈める、というところでしょうか(写真=Manhattan Cocktail at Bar K)。

 一方、初めて活字になったジェリー・トーマスのレシピは、ライ・ウイスキー1pony(30ml)、スイート・ベルモット1Glass※、キュラソー(またはマラスキーノ)2dash、ビターズ3dash、飾り=レモンスライス、シェイクして小さい角氷2個を入れたクラレット(ワイン)グラスに注ぐというものです(※1Glassの分量は不明です)。

 さて、トーマスの本が世に出た後、ハリー・マッケルホーンの「Harry's ABC of Mixing Cocktails」が刊行される(1919年)までの約30年間には、少なくとも4冊のカクテルブック(下記に例示の2冊目から5冊目)に「マンハッタン」が登場します。しかし、この4冊で紹介されるレシピは判で押したように、「ウイスキー(ライまたはバーボン)とスイート・ベルモットが1:1」です。

 さて、「Harry's ABC Of Mixing Cockatils」でのレシピはどうだったかと言えば、ライ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(シェイクしてカクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾る)です。それまでのカクテルブックとは違って、明らかにベルモットの分量を抑えた「辛口のマンハッタン」に変化しています。

 ベルモットの銘柄は、原著内に「チンザノ・ベルモット」の広告が出ていることから、マッケルホーンはおそらく、チンザノを使っていたものと想像されます(なお、レシピに添えられた但し書きには「カクテル名は、ニューヨーク・シティのマンハッタン島に由来する」としています)。

 ちなみに、1860~1950年代の主なカクテルブック(「How To Mix Drinks」と「Harry's ABC Of …」以外)は「マンハッタン」をどう取り扱っていたのか、どういうレシピだったのか、ひと通りみておきましょう。

・「Bartender’s Manual」(ハリー・ジョンソン著、1882年刊)米 掲載なし

・「American Bartender」(ウィリアム・T・ブースビー著、1891年刊)米 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(ステア)

・「Modern American Drinks」(ジョージ・J ・カペラー著、1895年刊)米 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、ペイショーズ(またはアンゴスチュラ)・ビターズ2dash、レモン・ピール、飾り=チェリー(ステア)

・「Dary's Bartenders' Encyclopedia」(ティム・ダリー著、1903年刊)米 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、ペイショーズ(またはアンゴスチュラ)・ビターズ2dash、レモン・ピール、飾り=チェリー

・「Bartenders Guide: How To Mix Drinks」(ウェーマン・ブラザース編、1912年刊)米 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、キュラソー1dash、アンゴスチュラ・ビターズ1~2dash、ガム・シロップ2~3dash

・「173 Pre-Prohibition Cocktails)」 & 「The Ideal Bartender」(トム・ブロック著、1917年刊)米 掲載なし

・「The Savoy Cocktail Book」(ハリー・クラドック著、1930年刊)英 
 ※4種の「マンハッタン」のバリエーションを収録。ワイングラスで提供する「マンハッタン」(シェイク・スタイル)と、カクテルグラスで提供する3種(内訳は、スタンダードなものとスイート、ドライ)の計4種を紹介しています。レシピは以下の通りです。

 クラレット・スタイル=ライ・ウイスキー30ml、ベルモット(スイートとドライをミックス)1glass、キュラソー(またはマラスキーノ)2dash、アンゴスチュラ・ビターズ3dash、レモン・スライスと角氷2個を入れてサーブする(シェイク・スタイル)※ジェリー・トーマスのレシピをベースにしたバリエーションと言える
 スタンダード=カナディアン・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(シェイク・スタイル)、スイート=ライ(またはカナディアン)・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1(ステア・スタイル)、ドライ=ライ(またはカナディアン)・ウイスキー2分の1、ドライ・ベルモット4分の1、スイート・ベルモット4分の1(ステア・スタイル) ※なお、「The Savoy…」もカクテル名については、「マンハッタン島にちなんで名付けられた」と紹介しています。

・「Cocktails by “Jimmy” late of Ciro's」(1930年刊)米 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、レモン・ピール ※「Ciro's」とは、ハリー・マッケルホーンもパリで「Harry's New York Bar」を開業・独立するまで働いていたロンドンの高級クラブ。

・「The Artistry Of Mixing Drinks」(フランク・マイアー著 1934年刊)仏 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット4分の1、ドライ・ベルモット4分の1、

・「World Drinks and How To Mix Them」(ウィリアム・T・ブースビー著、1934年刊)米 ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、オレンジ・ビターズ1dash、アンゴスチュラ・ビターズ1drop、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「The Official Mixer's Manual」(パトリック・ギャヴィン・ダフィー著、1934年刊)米 ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット6分の1、ドライ・ベルモット6分の1、ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」(A.S.クロケット著 1935年刊)米 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1dash

・「Mr Boston Bartender’s Guide」(1935年初版刊)米 ライ(またはバーボン)・ウイスキー1.5onz(約45ml)、スイート・ベルモット4分の3onz(約22~23ml)、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、飾り=チェリー

・「Café Royal Cocktail Book」(W.J.ターリング著 1937年刊)英 ライ(またはバーボン)・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・オレンジ・ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「Trader Vic’s Book of Food and Drink」(ビクター・バージェロン著 1946年刊)米 バーボン(またはライ)・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の2、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、マラスキーノ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「Esquire Drink Book」(フレデリック・バーミンガム著 1956年刊)米 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

 ちなみにマンハッタンは、日本で初めて活字になったカクテルの一つで、飲料商法・西洋酒調合法(伊藤耕之進編、1913年=大正2年)という月刊の業界新聞での連載上で紹介されました。その際のレシピは、「ウイスキー、イタリアン(スイート)ベルモット各ジガー半分、オレンジビターズ、ペイショー・ビターズ、シロップ各1振り、レモン・ピール」というものでした。

 なお、1957年(昭和32年)に出版されたカクテルブック「洋酒」(佐藤紅霞著)では、「マンハッタン・コクテール」として「ライ・ウイスキー2分の1、ドライ・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ、クレーム・ド・ノワヨー(アーモンド風味のリキュール)各2dash」となっています。スイート・ベルモットを使うのは、「スイート・マンハッタン」とわざわざ区別していることから、日本では1950年代でもなお「マンハッタン」のレシピ(定義)は揺れていたようです。

 マンハッタンはマティーニ同様、レシピはシンプルですが、「Bar(Bartender)の数だけバリエーションがある」というカクテルです。酒呑みたちもしばしば、ドライかスイートか、割合はどうか等をめぐってカウンターで議論を交わします。有名なカクテルですが、実は日本のBarで頼む人はそう多くありません。辛口志向、ライト志向の昨今、少し敬遠されているのかもしれませんが、難しいことは考えず、貴方も「マンハッタン」を飲んで、ひとときの間、「女王様」気分を味わってみませんか?

 【注1】ライ・ウイスキーはライ麦を主原料として、主にカナダや米国で生産されるウイスキー。ライト&スムーズな口当たりが特徴。【注2】スイート・ベルモットは長い歴史を持つイタリアを代表する香草風味のリキュール。かつてはイタリアン・ベルモットという呼び方もされた。銘柄名では「チンザノ(Cinzano)」や「ノイリープラット(Noilly Prat)」、「マルティーニ(Martini)」が有名だが、別に他の銘柄を使っているバーも珍しくない。



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Last updated  2021/07/06 11:24:43 AM
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うらんかんろ

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汪(ワン)@ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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