考案の時期については、1860年代にはすでにニューヨークで飲まれていたという説や、1884年説(出典:PBOのHP)もありますが、それぞれ裏付け資料は現時点では明示されていません。なお、“カクテルの父”と称されるジェリー・トーマス(Jerry Thomas 1830~1885)は、彼自身のカクテルブック「How To Mix Drinks」の改訂版(1887年刊 ※死去の2年後に出版)で「マンハッタン」を紹介しており、これが現時点では、「活字になった初めてのマンハッタン」と言われています(出典:欧米のWeb専門サイト)。
現代の標準的なレシピでは、ライ・ウイスキー【注1】(またはバーボン・ウイスキー)、スイート・ベルモット【注2】、アンゴスチュラ・ビターズを加えたミキシング・グラスでステアし、カクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾りに沈める、というところでしょうか(写真=Manhattan Cocktail at Bar K)。
さて、トーマスの本が世に出た後、ハリー・マッケルホーンの「Harry's ABC of Mixing Cocktails」が刊行される(1919年)までの約30年間には、少なくとも4冊のカクテルブック(下記に例示の2冊目から5冊目)に「マンハッタン」が登場します。しかし、この4冊で紹介されるレシピは判で押したように、「ウイスキー(ライまたはバーボン)とスイート・ベルモットが1:1」です。
さて、「Harry's ABC Of Mixing Cockatils」でのレシピはどうだったかと言えば、ライ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(シェイクしてカクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾る)です。それまでのカクテルブックとは違って、明らかにベルモットの分量を抑えた「辛口のマンハッタン」に変化しています。
・「Cocktails by “Jimmy” late of Ciro's」(1930年刊)米 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、レモン・ピール ※「Ciro's」とは、ハリー・マッケルホーンもパリで「Harry's New York Bar」を開業・独立するまで働いていたロンドンの高級クラブ。
・「The Artistry Of Mixing Drinks」(フランク・マイアー著 1934年刊)仏 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット4分の1、ドライ・ベルモット4分の1、
・「World Drinks and How To Mix Them」(ウィリアム・T・ブースビー著、1934年刊)米 ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、オレンジ・ビターズ1dash、アンゴスチュラ・ビターズ1drop、飾り=マラスキーノ・チェリー
・「The Official Mixer's Manual」(パトリック・ギャヴィン・ダフィー著、1934年刊)米 ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット6分の1、ドライ・ベルモット6分の1、ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー
・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」(A.S.クロケット著 1935年刊)米 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1dash
・「Mr Boston Bartender’s Guide」(1935年初版刊)米 ライ(またはバーボン)・ウイスキー1.5onz(約45ml)、スイート・ベルモット4分の3onz(約22~23ml)、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、飾り=チェリー
・「Café Royal Cocktail Book」(W.J.ターリング著 1937年刊)英 ライ(またはバーボン)・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・オレンジ・ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー
・「Trader Vic’s Book of Food and Drink」(ビクター・バージェロン著 1946年刊)米 バーボン(またはライ)・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の2、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、マラスキーノ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー