カテゴリ:読書
一週間程前のスコットランド独立投票の影響だと思う。
ふとケルトの話が読みたくなって、スコットランドではないが、手元にある唯一のケルト小説『アイルランド幻想』を開いてみた。 それは、全11話からなる短編集で、神話や伝承をベースにしたアイリッシュ・ホラーである。 ケルト音楽が大好きで、これまでコンサートやらリバーダンスに足を運び、その時も感じた霧の中を歩くようなどこか不気味で暗く妖しげな雰囲気と、しかし底辺にある何者にも屈するものかという強い思いが様々な描き方によって、それはリアルに表現されている。 視覚的な怖さじゃなく、そのひんやりとした独特の空気感が気に入って、夏の名残りを感じながらも秋の気配が深まるこの季節に数話づつ読み進めていたのだが、ここらで一気に読みたくなった。 だが、それでも一日に読める量は2~3話程度まで。 しかも通しでは読めなかった。 長編ではないのであるから、頁数でいうならばすぐに読めてしまうはずだ。 しかし、一話一話それぞれインパクトが強く、頭の中のイメージを鮮明に描こうとすればするほど背後に異様な空気の流れを感じ寒くなる。 和訳も自然で見事であるから、 「私は枕から体を起こし、首をそちらに傾けて、耳をすませた。 描写しがたい音だった。 遠くから聞こえてくる歌声を思わせる。 苦悶する魂がすすり泣いているかのような、声を忍ばせた哀悼歌の合唱のような、不思議な音だった。 (『石柱』P16)」 とあれば、本当に何処からか哀愁に満ちたすすり泣きが聞こえてきそうで身震いする。 「私がまだ戸口に立っていたとき、夕暮れの薄明かりをつらぬくように、この世のものとは思えない泣き声が、聞こえてきた。 次第に音量を強めてゆく甲高い軋るような悲鳴であった。 一度、二度、さらに三度と、血も凍るような叫びは響き渡った。 (『髪白きもの』P151)」 「一瞬、彼はそのまま、根が生えたかのようにその場に立ち尽くしていた。 全身の血管の中で、血が氷と化した。 だが次の瞬間、恐ろしさと息の詰まる暗黒に突き動かされて、大声で恐怖の絶叫を上げながら、錆びついている鉄の扉に全身で突進した。 古びた鉄の扉を、素手で乱打し続けた。 助けをもとめて、叫び続けた。 (『妖術師』P313)」 そして、幾度となく登場する<大飢饉(じゃがいも飢饉)>と、イングランドによる非人道的な植民地支配。 それら現実にあった歴史が、アイルランドという風土特有の物悲しさを一層濃くし、そこかしこから滲み出る悲哀をより強くした。 教科書めいた歴史書よりも、ずっと真実を伝えている気がする。 何度も何度も背筋をぞくぞくさせながら、そしてやはりこの独特のひんやりした空気感が好きだなと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.09.26 14:10:44
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