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ニッポニア・ナイト

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2005年06月25日
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カテゴリ:あやかし
放送日:1981年11月14日。
作画・演出:前田康成、文芸:沖島勲、美術:門屋達郎

昔むかしのそのまた昔、岩手の北上川上流に、光勝寺というお寺があり、立派な和尚さんが村人に慕われてすんでおりました。中でもおっ母さんと二人ぐらしのおさとは、たいへいん和尚さんになついておりましたので、和尚さんも自分の孫のようにかわいがっておりました。
ある年の、春のまだ浅い頃のことです。おさとはふきのとうやわらびをとりにいく母親について、寺の裏山に登っていきました。ところが、野の花を摘むことについ夢中になって、母とはぐれ、帰り道がわからなくなったのです。
山の中をさまよっているうちに、おさとはいつの間にか沼のほとりに出ていました。この沼は昔から大蛇がすむといわれ、村人たちから恐れられておりました。そんなことなど知らないおさとでしたが、道に迷い、こころぼそくなってしくしく泣き出しました。すると……。「おや、どうしただ?さあ、泣いていねえで、話してみろや。」
と一人の若い男がおさとに声をかけてきたのです。
「おっ母さんのとこへ帰りたい……。」涙を拭っておさとがいうと、男はほほえんで頷きました。「よしよし、おらがおっ母ァのところへ連れていってやる。」
おさとはいわれるまま、男についていくことにしました。
男は道すがら、野の花をつみ、おさとに髪飾りを作ってくれたり、やさしく手をつないでくれて、二人はなかよく野原を歩いていきました。そうして空が夕焼けに染まり、西の山に陽がしずみかけたころ……遠くのほうから、かすかに、「おさとーっ、おさとーっ」と呼ぶ声が風にのって聞こえてきました。声のするほうは進んでいくと、やがて林の向こうにおさとの母親の姿が小さく見えました。
つぼみが開くように顔をぱっとかがやかせ、母のところへかけていこうとするおさとの肩に男が手をそっと置きました。「ちょっと、待ってくれや……。」
振りかえったおさとが、首をかしげました。すると男は、急に悲しげな顔つきになり、しゃがみこんでつぶやきました。「もう、すこし……もうすこしだけここに一緒にいてくれ。」「どうして?一緒におっ母のところへ行こう…。」
が、男はそれにこたえず、ふいにおさとを抱き上げました。
「なんておめえは、かわいい子じゃ」
「なにするだ!やめて、あっ…キャーッ!」

母親は林の向こうからおさとの悲鳴が聞こえたので娘の声のするほうへかけていきました。
ところが、林の奧で見たものは、途方もなく大きい蛇がぬるぬると林の間をぬっていく姿でした。母親はそのあとを追っていきました。すると大蛇はやがて村人達が恐れている、あの沼のほうへとむかったのです。
大蛇は静かに水の中へと入っていきました。沼はぶきみに静まりかえっています。ところが蛇が身を沈めたあたりの水面に、ぽかりと赤い小さなものが浮かんだのです。
それを目にした母親は、「あっ」と叫んで沼のほとりに座り込みました。沼に浮いているのは、おさとの赤いはなおのぞうりだったのです。それを見て、娘が大蛇にのみこまれたとさとった母親は、ぼうぜんとなりました。「お、おさとやぁ…」沼に母親の悲痛な鳴き声が響き渡りました。

おさとの母親からこのことを聞いた和尚は、おおいに悲しみ、大蛇を恨みました。
「なんと、むごいことよ……大蛇めが、勘弁ならん!」
そして大蛇退治のために護摩壇をつくり、断食をして七日間の祈祷に入りました。祈りを続けて六日目の夜のこと、はげしい雨の中をやつれた男が苦しげに息をきらして寺にやってきました。男は和尚の前にひれふすと、うなだれてしゃべり出しました。
「和尚さま……わたしは、裏山の沼にするむ大蛇です。あの子があまりにかわいらしく、いとおしいので、たわむれているうちに思わず飲み込んでしまったのです……。愚かなことをしました。どうか和尚さま、お許し下さい。ゆるしていただけるならこの寺をもっと立派にしてみせましょう。」
しかし和尚はきっぱりとことわりました。「大蛇よ、わしはそんなことをしてもらいたくて祈っておるのではない。おさとを母のもとにかえしてくれさえすれば、おまえの罪はすべて許してやろう。」
すると男は悲しげな顔をして、「おとといまでは、まだ腹の中で生きていました。なんども吐き出そうとしたのですが、出てこないんです。今はもう溶けてしまったでしょう。ですから、おかえしすることができません……。」
「おろかものめ!ならば、すぐに沼から立ち去れい!おまえが沼にいるかぎり、母親の悲しみは続こうぞ。そして去るときは一度たりともふりかえってはならん。それがせめてもの罪ほろぼしじゃ!」
和尚はそう言い放つともう男を相手にせず、一心に祈り続けました。
その夜、沼にもどった大蛇はあまりの苦しさに耐えかねて、ついに長い間住み慣れた沼を去ることにしました。
沼から抜け出た大蛇は北上川へはいると、和尚に言われたとおり、振り返ることなく、水に潜ってどんどん下流へと流されていきました。そして黒岩の里までながされていったときです。沼から遠くはなれても、大蛇はまだ未練がありました。我慢できずに、つい水からニュウッと首をもたげて振り返ったのです。
そのとたん、大蛇の体は固くなり、そのままの姿で石になってしまいました。
今も、北上川のその場所には、石になった大蛇が、上流の沼を見返すようにのこっているということです。

【所感】
あらすじの再現には二見書房「妖怪がでるぞ~」を使用しました。
賢明な読者はもうこのお話が幼女誘拐事件を元にした実話であるとおわかりのことでしょう。いつの世にも幼女に対する性犯罪はあったのです。そしてそれを戒め、用心するためにこのような話を残したのです。ここでは犯行の経緯が詳細に描かれています。前段では男が優しく少女に近づき、少女を安心させます。読んでいる人もいいやつじゃんと錯覚してしまいます。そしてやがて本性を現し犯行に及ぶのです。犯人の本性が大蛇なのはフロイトが論じているとおり、蛇が性的なシンボルだからに他なりません。





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最終更新日  2005年06月26日 15時39分04秒
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