第二十七話「ひと段落」

とある雪山の横穴の中……一同は(主にサンダーとグレイの)治療を終えて、一息ついていた。
チョコ「サンダー、リスク技使うのはもうヤメテって言ったでしょ?」
チョコモンは、眉をひそめてそう言った。
サンダー「でもさぁ、アレ使わなきゃ勝てなかったよ?」
サンダーは、キョトンとした顔でそう答える。
モッチー「リスク技って何だッチー?」
モッチーは、首を傾げてそう問いかける。
オルト「リスク技ってのは、技を出す代わりに、それなりの代償を支払う必要のある技なんだ。」
オルトは、そう答える。
モッチー「代償ッチ?」
モッチーは、再び首を傾げてそう聞き返す。
サンダー「代償とは、実現のために必要な犠牲・損害の意。」
サンダーは、辞書に載っているような内容を淡々と述べる。
オルト「誰がお前の脳内電子辞書を引けって言ったよ;」
オルトは、呆れたようにそうツッコミを入れる。
サンダー「…リスク技ってのはね、技を使う代わりに、その技の威力相応のダメージを負うんだ。」
サンダーは少し考えながら、そう説明した。……それに、モッチーは納得したようだった。
 「うぅ……。」
突然した声に一同が振り返ると、グレイが目を覚まして起き上がっていた。
サンダー「グレイ!おはよv 目ぇ覚めた?」
サンダーは、グレイに駆け寄り、満面の笑顔でそう言った。
グレイ「ああ、おはよ。……えっと……アレ……何があったんだっけ?」
グレイは、首を傾げてそう言う。
チョコ「あ、そっか。イービルスパイラルって、着けられてる間の記憶は残らないんだよ。」
チョコモンは、思い出したようにそう言った。
グレイ「…イービルスパイラルを着けられたってトコまでは覚えてんだけどなぁ……;」
グレイは、腕を組んで考え込む。
その言葉に、サンダーは全身で不満の意を表し、オルトは「あーあ」と溜息を吐いた。
ホリィ「まぁ、良いじゃない? 覚えてないなら覚えてないで。」
ホリィは、優しくそう言う。
グレイ「そう言うワケにはいかねェよ。オレは過去だからな。己の身に起こった事ぐらい、把握してねェと……。」
グレイは、強くそう答える。
サンダー「うん、周りに起こった全ての運命(さだめ)を把握した上で乗り越える。それが過去の果たすべき債務だからね。」
サンダーは、グレイの言葉に答えるようにそう言う。
ホリィ「でも、ツライ記憶かもしれないのよ?」
ホリィは、心配そうに問いかける。
サンダー「それでも受け入れて乗り越えるのが、グレイの司るべき宿命(さだめ)だ。」
サンダーは、そう反論する。
グレイ「それに、支払うべき債務だしな。債務を司るサンダーの前で逃れるなんて事しねェ……否、できねェ。」
グレイは、サンダーに続くようにそう言った。
オルト「……相変わらず仕事熱心だよな、お前ら。」
オルトは、苦笑してそう言う。
グレイ「……つーワケで、サンダー。まずはお前の記憶、ダウンロードさせてもらえるか?」
グレイの言葉に、サンダーとオルト以外の一同は、「は?」と聞き返す。
サンダー「グレイは過去だから、他人(ヒト)の記憶を読み取る事ができる、“過去察知”ができるんだ。」
サンダーはそう答えた後、「でも、前に言わなかったっけ?」と呟いた。
グレイ「いや、過去察知じゃなくて、過去既知(かこきち)だって;」
グレイは、そうツッコミを入れる。……勿論、サンダーに言い直す気なんてないが。
オルト「でも良い能力だよな、それ。説明の手間省けるし。」
オルトの言葉に、グレイは自慢げな笑みを浮かべる。
グレイ「ホラ、説明も終わったし、やろうぜ?」
グレイはそう言って、サンダーの額に手を当てて、互いに目を閉じる。
すると、グレイの手の平とサンダーの額が光った。
しばらく後で、その光が治まると、2人は目を開け、グレイはそっとサンダーの額から手を離した。
グレイ「…やっぱり、映像無しだと分かりにくいな……。オルトの記憶も見せてくれるか?」
グレイは、苦笑してそう言った。
オルト「ああ、ベツに良いぜ。」
オルトはそう言ってグレイに歩み寄る。
そしてグレイはサンダーにしたのと全く同じ事をする。
グレイ「ん、サンキュ。よく分かった。」
グレイは、笑顔でそう言った。……が、しばらくして、グレイは1つ溜息を吐く。
オルト「グレイ? どうかしたのか?」
オルトは、軽く首を傾げてそう問いかける。
グレイ「いや……いくら自意識がなかったって言っても、サンダーに負けるなんてなァ……って。」
グレイは、そう言ってまた溜息を吐く。
サンダー「……不満?」
サンダーは、面白くなさそうな顔でそう聞く。
グレイ「うん、メチャクチャ不満。」
グレイはあっさりとそう答える。
それに、サンダーは怒りマークを浮かべて不機嫌そうにそっぽを向く。
グレイ「……だってさ、兄貴ってのは弟を守るもんだろ? それが、事もあろうに助けられるなんてさァ……。」
グレイはそう言って、俯いて大きなため息を吐く。
サンダー&オルト「それは今に始まった事じゃないだろ?」
サンダーとオルトは、そうツッコミを入れる。……当然の如く、グレイはうな垂れる。
グレイ「…っじゃなくってさ、サンダーに余計な心労かけたってのが情けないって思ったんだよ。」
グレイは、取り敢えずそう反論する。
サンダー「ベツに良いよ。それだっていつもの事だろ? おれは護り主なんだから、護るのがおれ自身の債務なんだし。」
サンダーは淡々とそう答える。
グレイ「……まぁ、さ。よく頑張ったな、サンキュー。もう、良いから……大丈夫だからさ……。」
グレイはそう言ってサンダーをそっと抱きしめた。
サンダー「グレイ……。」
サンダーはそう呟くと、グレイの胸元に顔をうずめて嗚咽を洩らした。
「怖かった、不安だった」と、心の中に溜まっていた弱音をグレイに訴えるように。
グレイ「うん、悪かったな。ケド、もう大丈夫だから……。ゴメンな。」
グレイは、幼い子供をあやすように、サンダーを抱きしめたまま、その背中を優しく叩きながらそう言った。

そしてその夜……一同は、横穴内で夕飯の支度をしている。
チョコ「ところでグレイ、この後どうするの?」
チョコモンは、思い出したようにそう問いかける。
グレイ「あ? どうするって?」
とっくに泣き止んでいたサンダーと戯れていたグレイは、その手を休めてそう聞き返す。
アメ「まさか、またワルモンに戻る、なんて言わねぇよな?」
アメモンはチョコモンの代わりにそう答え、「一度操られたんだし……。」と付け足すように呟いた。
グレイ「あーー……どうすっかなぁ……。」
グレイはそう言って、サンダーに視線を戻す。
サンダーは、傍(はた)から見ればただこちらを眺めているようにしか見えないだろうが、
グレイにはそれが不安の意を表すものなのだと感じ取れた。
不安の意思表示
ゲンキ「特に決まってないならさ、おれ達と一緒に来ないか?」
ゲンキは、そう提案した。
スエゾー「ゲンキ!あいつはワルモンの、しかも四天王なんやで?! 操られとったのかて、芝居かもしれへんやないかい!」
スエゾーはそう反論し、それにハムは同意する。
ゲンキ「大丈夫だよ!おれはグレイを信じてる。」
ゲンキは、澄んだ瞳ではっきりとそう言う。
ハム「信じるとか信じないとか、そういう問題じゃないんですぞ!」
ハムは、ゲンキの言葉にそう反論する。
ゲンキ「じゃあどういう問題なんだよ!」
ゲンキはそう返すが、その言葉に反論できる言葉は誰にも見つけられないようで、しばらく沈黙が走る。
サンダー「……おれはヤダな、これ以上グレイと離れるの。」
サンダーは、(いつの間にか)グレイにピッタリと引っ付いてそう言った。
チョコ「サンダーは、グレイが大丈夫だって、罠じゃないって思うんだね?」
チョコモンがそう問いかけると、サンダーは大きく頷く。
サンダー「思うよ。だって、おれとグレイは双子だから。互いの考えている事は、近くにいれば全部ハッキリと分かるし。」
サンダーは、強くそう答えた。
アメ「……まぁ、しばらく様子見てみようぜ。サンダーがこう言ってんだし、安全はほぼ100%保障できるだろうぜ?」
アメモンは、そう提案する。その言葉に、一同全員は納得の意を示した。
ゲンキ「……って言う訳だからさ。来いよ、グレイ♪」
ゲンキは、笑顔で手を差し出して、そう誘う。
グレイ「そう……だな。これ以上、サンダーに心配掛ける訳にもいかねェしな。……宜しく。」
グレイはそう答えた。……しかし、差し出された手の事は無視した。
ゲンキ「ほら、グレイ。握手v」
ゲンキは、理由が分からないのかと思って、そう言って握手を求める。
グレイ「いや……握手は、しない。そう言う主義だ。」
グレイは、そう答えるが、差し出された手を退けようとはしない。
サンダー「あのね、グレイも、“人間恐怖症”なんだよ。」
ハテナマークを浮かべるゲンキに、サンダーはそう説明する。
グレイ「お前と一緒にすんなよ!オレはベツに人間怖いんじゃねェよ!!」
グレイは、サンダーにそう反論する。
サンダー「でも、グレイだって人間に触られんの怖いんじゃん?」
サンダーは、キョトンとした顔でそう言う。
グレイ「違ェよ!オレは人間怖いんじゃねェもんよ!!」
グレイはそう反論する。
オルト「似たようなもんだろ? 人間が怖いのも、人間を傷つけちまうのが怖いのも。」
オルトは、呆れたようにそうツッコミを入れる。
グレイ「オルトロス!!ハッキリ言うなよな!!!」
グレイはそう叫ぶ。
オルト「事実だろ。……大体、お前が喚くから悪いんだろ? 喧嘩両成敗って奴だよ。」
オルトは淡々とそう言って、さらに「お前も昔よくやってたろ。」と付け足した。
グレイ「いや、さっきのは成敗になってねェし;」
グレイはそうツッコミを入れる。
ゲンキ「……グレイ、人間に触られんの怖いのか? だったら、さっきはごめんな。」
ゲンキは、そう言って手を戻して謝る。
グレイ「あ……良いよ、ベツに。第一、オレは人間に触られんのが怖いわけじゃない。」
グレイは、ゲンキの言葉にそう答える。
サンダー「グレイね、前に創り主サマに怪我させちゃった事があってさ。……それ以来、怖いんだって。」
サンダーは、グレイの代わりにそう説明した。
ゲンキ「そっか……ともかく、これから宜しくな。」
ゲンキは、気を取り直して、笑顔でそう言った。
グレイ「……ああ、こちらこそ。」
グレイもそれに、笑顔で答えた。


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