平和

ここはタイムネット世界、風の聖域……。
その中央で、この聖域の主である桃色のドラゴン――バサランゴが昼寝をしていた。
と、そこへ……。
「かっざりゅ~! 遊ぼ~!!」
そんな声と共に、バサランゴの腹部にドスンという衝撃が走った。
バサランゴが驚いて目を開けると、そこには無邪気に笑う友――サンダーの姿があった。
「おはよ、風竜v」
「サンダー……。お前、何をしている?;」
全く悪びれる様子のないサンダーの言葉に戸惑いつつも、バサランゴは落ち着いてそう尋ねた。
「風竜と遊ぼうと思って聖域まで来たのに、風竜寝てたから、起こしたの!」
悪びれるどころか自慢げに胸を張る友の姿に、バサランゴはため息を吐いた。
「……風竜、もしかして痛かった?」
サンダーは、ハッと気付いたようにバサランゴの腹部から飛び降りると、申し訳なさそうな顔でそう言った。
「いや、それほどでもないが……。」
バサランゴが起き上がりながらそう言うと、サンダーはホッとしたような表情で「よかった~。」と呟いた。
……と、バサランゴはここで疑問点に気がついた。
そう、サンダーの周りにいつもくっついている筈の2人の姿がない事に……。
「……サンダー、ウェインとヴィンはどうした?」
「あ……。あ~、うん。さっきまでかくれんぼしてたんだけどね、あきちゃったから……。」
「・・・・・・・・・・・・・まさか、何も言わずにこっちへ来たんじゃないだろうな?;」
バサランゴがそう問いかけると、サンダーは黙って目をそらした。
「・・・・・・鬼は?」
「ウェイン、だったんだけど……。」
サンダーの答えを聞いて、バサランゴは少し安心した。
何故なら、もしサンダーが鬼の時にそのまま抜けてきてしまったらあの2人はいつまでも隠れたままでいるだろうが、
そうでなければそのうちここを探し当てることが出来るだろうと思ったからだ。
「それならば、あの2人が探し出せるまで、私とここで遊んでいるか?」
「!やた!! 良いの?!」
「あぁ。どうせなら動かないでいたほうが探しやすいだろうしな。」
「うわ~、ありがと風竜~vv」
サンダーはそう言ってバサランゴに抱きついたすりついた。
「……あ~あ、ぼくも風竜みたいなお兄ちゃん欲しいな~。」
「? ……グレイじゃ不満か?」
「ん~……。不満って程じゃないけどさ、もうちょっとあの過保護なトコどうにかなんないかな~って。」
「確かにそうだな……。」
サンダーの的を得た一言に、バサランゴはクスリと笑った。
「ね~。……でもぼく、グレイの事嫌いじゃないよ。むしろ、大好きv」
サンダーは、満面の笑顔でそう言った。
「あぁ……。知っている。」

――それから数分後……。
「「マスタぁ~~~!!!!」」
そんな声と共に、2つの物体が、サンダーめがけて空から降ってきた。
……そして、そのうちの1つは見事にサンダーに命中した。
「い……ったいよ、ウェイン!!」
サンダーは、命中した物体……もとい、青色のドラゴン――ウェインに向かってそう抗議の声を上げた。
「大丈夫ですか?! マスター!;;」
もう1つの物体……浅葱色をした兎のような生き物――ヴィンは、ウェインをサンダーの上から叩き落とし、
サンダーを助け起こすとそう言った。
「うん、大丈夫。ありがと、ヴィン。」
「いいえ、マスターのお役に立つことが私の至福ですのでv」
ヴィンは満面の笑顔でそう答えた。
「……それよりさ、マスター。こんな所で何してたの? ぼくもヴィンも、すっごく心配したんだよ?!」
「ご、ごめんね、ウェイン……;; ぼく、かくれんぼ飽きちゃって……。」
「それなら、ぼくらに一言“飽きた”って言ってくれれば、他の遊びに変えたのに……。」
「うん、でもぼく、たまには風竜と遊びたいって思ったし……。ごめんね。」
サンダーは、耳をぺしょんと伏せてそう謝った。
「ううん、もういいよ。」
「ええ。マスターがご無事であっただけで、私たちは満足ですから。」
ウェインとヴィンは、満面の笑みでそう言った。
「じゃあ、いい? 風竜と遊ぶって事で。」
「はい。勿論ですよ、マスター。何をして遊びましょうか?」
「あ、じゃあかくれんぼ~!」
ヴィンの言葉に、ウェインは前足を高く上げてそう言った。
「・・・・・・・ごめん、ウェイン。ソレ飽きた;」
「ウェイン、お前はかくれんぼ以外に思いつかないのか?:」
サンダーとバサランゴは、ウェインの言葉に困ったようにそう言った。
「ご、ごめんなさい;;」
「いや、いいけどさ……。」
「じゃあどうしましょうか……。」
「えっとねぇ……。あ! じゃあさ、風竜にご本読んでもらうってのは?」
「いいですね! 私も賛成です!」
「ぼくも~!! お兄ちゃんも、それでいい?」
「あぁ、構わないが……。何を読めば良い?」
「えっとね~……。じゃあ、《セーターになりたかった毛糸玉》読んでよ!」
サンダーはそう言うと、どこからか一冊の絵本を取り出し、それをバサランゴに渡す。
「あぁ。」
バサランゴがそう言って、渡された絵本を開くと、サンダー達はそれぞれ思い思いの場所で聞く体制に入った。
それを確認すると、バサランゴは声に出して絵本を読み始めた。



キールさんのキリリク、NWが黒マントに襲われる前の話ですが、いかがでしたでしょうか?
昔の話という事で、バサディアンがバサランゴとなっております。
NWメンバー全員出せなくて申し訳ありません;;

えっと、最後のほうに出てきた『セーターになりたかった毛糸玉』というのは、私が子供の頃から愛読している、実在の絵本です。
ファンタジーで、心温まるお話なので、もし本屋などで見つけたら、是非手にとって読んでみてください。



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