15世紀のイングランド王リチャード三世の2012年に発見された遺骨について、並びにレスター大学の研究について、私はこのブログで何度か言及してきた。このたびレスター大学は一応の研究成果を得たので、遺骨を再埋葬することになった。その埋葬式が今日26日にレスター大聖堂で挙行された、とCNNが伝えている。
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再埋葬にあたってレスター大学はおもしろい事実を発表している。イギリスでいま最も人気のある映画俳優の一人、ベネディクト・カンバーバッチさんが、DNA鑑定により、リチャード三世の遠い親戚にあたる 、というのである。
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最近の遺伝子研究は目覚ましく、私たちは(一般論としてではなく、このブログを読んでいる一人一人が)およそ1万7000年前の直接の祖先にたどりつことが可能だ。したがって、カンバーバッチさんの先祖がリチャード三世であるという事実は、遺伝子研究の発展的成果としては何等目新しいことではない。ただその事実が、人気俳優だけに、おもしろいのである。
さらに、(絵描きの私としては)カンバーバッチさんの容貌がリチャード三世の肖像と大変良く似ていることがおもしろい。リチャード三世の肖像として知られる絵は、本人を目の前にして描いたものではない。ずいぶん後に、生前の面影の記憶をたよりに、あるいは伝聞をもとに描かれた肖像画である。それが、カンバーバッチさんの容貌と似ているとは、どういうことか。伝聞や昔の記憶が非常に確かなばかりでなく、いまでこそ名前を忘れられている画家の〈再現力〉の技量の優秀なることの証かもしれない。---ちょっと言葉で言い表せないでいるが、私は画家としてそのことに想いを集中する。
美術史には本人の死後年月を経てから描かれた肖像画、あるいは肖像彫刻が数限りなく存在する。それらが本当に本人と似ているかどうかを確認することはできない。遠い縁戚にあたるカンバーバッチさんの容貌とリチャード三世の容貌との類似を知るような事例は、おそらく肖像美術において異例のことではなかろうか。