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人生朝露

人生朝露

マトリックスと荘子 その1。

荘子です。
荘子です。

『Matrix』(1999)。
『Matrix(1999)』と荘子です。『マトリックス』いう映画は、ワイヤーアクションやCGを駆使した、近年では最も成功したSF映画の一つです。仮想現実と現実との対比や、哲学的、形而上学的な示唆に富んだシーンにより、一過性のエンターテインメントに止まらなかった点でも特徴があります。

参照:MATRIX PHILOSOPHY (summary)
http://www.youtube.com/watch?v=C3BwK12hoFc

「ENTER THE MATRIX」 Chuang Tzu。
いろんな哲学者や思想家を引き合いに出して語られた作品ですが、荘子の場合は“Chuang Tzu(チャン・ツー)”として、ゲーム版やコミック版のマトリックスで登場しています。

参照:Chuang Tzu
http://www.youtube.com/watch?v=-bPNbHrRNc4
・・・最初の髑髏は『荘子』の「至楽篇第十八」の髑髏問答からです。

Chuang Tzu (potential) - Matrix Wiki
http://matrix.wikia.com/wiki/Chuang_Tzu_(potential)

もともと、「夢オチ」が多用される映画ですし、似てると感じる人も多いですが、『マトリックス』の最初の1時間は『荘子』の斉物論篇そっくりです。というわけで『荘子』と一致するシーンを列挙。

最初のシーンから言うと、
the matrix neo
"You ever have that feeling where you are not sure if you're awake or still dreaming?"
→「起きてるのかまだ夢をみてるのかはっきりしない感覚って味わったことないか?」

The Matrix - Follow the White Rabbit. . .
http://www.youtube.com/watch?v=Smwrw4sNCxE

Zhuangzi
『昔者荘周夢為胡蝶、栩栩然胡蝶也、自喩適志與。不知周也。俄然覚、則遽遽然周也。
不知周之夢為胡蝶與、胡蝶之夢為周與。周與胡蝶、則必有分矣。此之謂物化。』(『荘子』 斉物論 第二)
→昔、荘周という人が、蝶になる夢をみた。ひらひらゆらゆらと、夢の中では当たり前のように蝶になっていた。自分が荘周という人間だなんてすっかり忘れていた。ふと目覚めてみると、荘周に戻っているではないか。荘周は夢の中で胡蝶になったのか、胡蝶が荘周になった夢をみたのか、分からない。荘周と胡蝶にはきっと区別があるだろう。これを「物化」という。

まず、ここが胡蝶の夢。

これはモーフィアスも言います。
the matrix morpheus.
“Have you ever had a dream, Neo, that you were so sure was real? What if you were unable to wake from that dream? How would you know the difference between the dream world and the real world?”
→現実としか思えない夢をみたことがあるか?ネオ。もしその夢から覚めなかったとしたら、夢の世界と現実の世界をどのように区別できるのだ?

“I can see it in your eyes. You have the look of a man who accepts what he sees because he's expecting to wake up. Ironically, this is not far from the truth. ”
→目を見れば分かる。君は目覚めを予感して、すべてを見定めるようなたたずまいをしている。逆説的にだが、真実は君から遠くはない。

参照:The Matrix (3/9) Movie CLIP - Waking from the Dream (1999) HD
http://www.youtube.com/watch?v=r_O3k-RpV2c

Zhuangzi
「夢飲酒者、旦而哭泣。夢哭泣者、旦而田獵。方其夢也、不知其夢也。夢之中又占其夢焉、覺而後知其夢也。且有大覺而後知此其大夢也、而愚者自以為覺、竊竊然知之。君乎、牧乎、固哉。丘也與女、皆夢也、予謂女夢、亦夢也。」(『荘子』斉物論 第二)
→夢の中で酒を飲んでいた者が、目覚めてから「あれは夢だったのか」と泣いた。夢の中で泣いていた者が、夢のことを忘れてさっさと狩りに行ってしまった。夢の中ではそれが夢であることはわからず、夢の中で夢占いをする人すらある。目が覚めてから、ああ、あれは夢だったのかと気付くものだ。大いなる目覚めがあってこそ、大いなる夢の存在に気付く。愚か者は自ら目覚めたとは大はしゃぎして、あの人は立派だ、あの人はつまらないなどとまくし立てているが、孔子だって、あなただって、皆、夢の中にいるのだ。そういう私ですら、また、夢の中にいるのだがね。

the matrix morpheus.
“Let me tell you why you're here. You're here because you know something. What you know you can't explain, but you feel it. You've felt it your entire life, that there's something wrong with the world. You don't know what it is, but it's there, like a splinter in your mind, driving you mad. It is this feeling that has brought you to me. Do you know what I'm talking about?”
→なぜ君がここにいるのか説明させて欲しい。それは、君が何かを知っているからだ。どう説明したらいいか分からないものの、君は感じているからだ。それは君が生涯ずっと感じていたことだ。この世界は何かがおかしい。それは何ものか分からないが、まるで君をせき立てているかのように心を蝕んでいく。それが君をここまで導いてきた感覚だ。私が何を言いたいのか分かるか?

Matrix - The pill
http://www.youtube.com/watch?v=te6qG4yn-Ps

Zhuangzi
『罔兩問景曰「曩子行、今子止、曩子坐、今子起、何其無特操與?」景曰「吾有待而然者邪、吾所待又有待而然者邪、吾待蛇蚹、蜩翼邪。惡識所以然、惡識所以不然?」』(『荘子』 斉物論 第二)
→影のまわりのうすぼんやりした影・罔両が影に尋ねた。「お前は、歩いていたと思えば立ち止まり、座っていたかと思えば立ち上がる。何でお前は節操もなく真似ばかりしているんだ?」 影は答えた「俺はたしかにだれかさんにつられてこうしているが、そのだれかさんもまた何かにそうさせられているのさ。 俺がこうしているのは蛇で言えばウロコ、蝉で言えば羽といったところかな。どうしてそうなるか、どうしてそうならないのかも分からないのさ」

the matrix morpheus.
“Unfortunately, no one can be told what the Matrix is. You have to see it for yourself.”
→残念ながら、何者もマトリックスとは何であるかを教えることはできない。君は君自身でその正体を見つけなければならない。

Zhuangzi
無始曰「道不可聞、聞而非也。道不可見、見而非也。道不可言、言而非也。知形形之不形乎?道不當名。」(『荘子』 知北遊 第二十二)
→道とは耳で聞くことのできないもので、聞いてしまったものはすでに道ではない。道は目で見ることのできないもので、見てしまったものはすでに道ではない。道はまた、言葉に言い表すことのできないもので、言葉に表してしまうとすでにそれは道ではない。万物に形を与えながらそれ自身は形のないものをどう知覚できるのか?道に当たる名前などない。

・・・ここは「知北遊篇」を使います。ただし、後にモーフィアスのセリフに、
the matrix morpheus.
“ What is "real"? How do you define "real"? ”
→現実とは何だ?現実をどう定義するのか?

とあるので、これも『斉物論』からでしょう。

Zhuangzi
『夫道未始有封、言未始有常、為是而有畛也。』(『荘子』 斉物論 第二)
→道(Tao)は初めから限定できるものではなく、言葉は初めから不変ではありえない。故に、言葉は本質的に分別のための道具として存する。
『夫大道不稱、大辯不言』(同上)
→大いなる道は言葉で表せず、大いなる言葉は発せられることはない。

変わり種というとココ。
matrix mouse
Mouse: Do you know what it really reminds me of? Tasty Wheat. Did you ever eat Tasty Wheat?
→分かるかな、あれの感じに似てるよ。「Tasty Wheat」だ。「Tasty Wheat」食べたことある?
Switch: No, but technically, neither did you.
→いいえ。もっと正確に言えばあなたも私も現実に食べたことなんてないわ。
Mouse: That's exactly my point. Exactly. Because you have to wonder: how do the machines know what Tasty Wheat tasted like? Maybe they got it wrong. Maybe what I think Tasty Wheat tasted like actually tasted like oatmeal, or tuna fish.You take chicken, for example: maybe they couldn't figure out what to make chicken taste like, which is why chicken tastes like everything.
→「Tasty Wheat」がどんな味がするのかを機械はどうやって理解する?間違っているかもな。「Tasty Wheat」は現実の世界ではオートミールかマグロの味がするかもしれない。そうするといろんなことを考える。たとえばチキンの味。機械はチキンの味がわからなかった。だからチキンは何の味にも似ているんだ。

参照:Tasty Wheat
http://www.youtube.com/watch?v=v1EcrD5IyxM

Zhuangzi
「且吾嘗試問乎女。三者孰知正處? 民食芻拳、麋鹿食薦,且甘帯、鴟鴉耆鼠、四者孰知正味? 。」(『荘子』 斉物論 第二)
→試しにあなたに聞いてみよう。(中略)人間は家畜を食べ、シカは野草を食べ、ムカデはヘビを美味いとするし、トビやカラスは鼠に舌鼓を打つが、ヒト、シカ、ムカデ、カラスの四者うち、本当の味を知っている者はだれだろう?

今日はこの辺で。


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