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人生朝露

人生朝露

ユングと自然(じねん)。

荘子です。
荘子です。

『ユング自伝』の続き。

C.G.ユング
≪1944年のはじめに、私は心筋梗塞につづいて、足を骨折するという災難にあった。意識喪失のなかで譫妄状態になり、私はさまざまの幻像をみたが、それはちょうど危篤に陥って、酸素吸入やカンフル注射をされているときにはじまったに違いない。幻像のイメージがあまりにも強烈だったので、私は死が近づいたのだと自分で思いこんでいた。後日、付き添っていた看護婦は、『まるであなたは、明るい光輝に囲まれておいでのようでした』といっていたが、彼女のつけ加えた言葉によると、そういった現象は死んで行く人たちに何度かみかけたことだという。私は死の瀬戸際にまで近づいて、夢みているのか、忘我の陶酔のなかにいるのかわからなかった。とにかく途方もないことが、私の身の上に起こりはじめていたのである。
 私は宇宙の高みに登っていると思っていた。はるか下には、青い光の輝くなかに地球の浮かんでいるのがみえ、そこには紺碧の海と諸大陸がみえていた。脚下はるかかなたにはセイロンがあり、はるか前方はインド半島であった。私の視野のなかに地球全体は入らなったが、地球の球形はくっきりと浮かび、その輪郭は素晴らしい青光に照らしだされて、銀色の光に輝いていた。地球の大部分は着色されており、ところどころ燻銀(いぶしぎん)のような濃緑の斑点をつけていた。左方のはるかかなたには大きな曠野があった、---そこは赤黄色のアラビアの砂漠で、銀色の大地が赤味がかった金色を帯びているかのようであった。そして紅海がつづき、さらにはるか後方に、ちょうど地図の左上方にあたるところに、地中海をほんの少し認めることができた。私の視線はおもにその方向に向いて、その他の地域はほどんどはっきり見えなかった。雪に覆われたヒマラヤを見たが、そこは霧が深く、雲がかっていた。左手の方はまったく見渡すことができなかった。自分は地球から遠ざかっているのだということを、私は自覚していた。 どれほどの高度に達すると、このように展望できるのか、あとになってわかった。それは、驚いたことに、ほぼ1500キロメートルの高さである。この高度からみた地球の眺めは、私が今までにみた光景のなかで、もっとも美しいものであった。
 しばらくの間、じっとその地球を眺めてから、私は向きをかえて、インド洋を背にして立った。私は北面したことになるが、そのときは南に向かったつもりであった。視野の中に、新しいなにかが入ってきた。ほんの少し離れた空間に、隕石のような、真っ黒の石塊がみえたのである。それはほぼ私の家ほどの大きさか、あるいはそれよりも大きい石塊であり、宇宙空間にただよっていた。私も宇宙にただよっていた。(みすず書房刊『ユング自伝』「幻像(ヴィジョン)」より)≫

青い地球。
ユングは、生と死、夢と現実の狭間で不思議な体験をします。臨死体験のようでもあり、強烈な幽体離脱のようでもあり、単なる大きな夢のようでもあります。1944年のことですから、人類の中で地球を俯瞰して見た人はいません。しかし、ユングは数千キロの上空から「青い地球」を見たと言っています。

Zhuangzi
『北冥有魚、其名為鯤。鯤之大、不知其幾千里也。化而為鳥、其名為鵬。鵬之背、不知其幾千里也。怒而飛、其翼若垂天之雲。是鳥也、海運則將徙於南冥。南冥者、天池也。齊諧者、志怪者也。諧之言曰「鵬之徙於南冥也、水?三千里、摶扶搖而上者九萬里、去以六月息者也。」野馬也、塵埃也、生物之以息相吹也。天之蒼蒼、其正色邪。其遠而無所至極邪、其視下也亦若是、則已矣。』(『荘子』逍遥遊 第一)
→北冥に魚がいる。その名を鯤という。鯤の巨大さたるや幾千里あるかわからないほどだ。化して鳥となり、その名を鵬という。翼を広げた鵬の巨大さたるや、これまた幾千里あるかわからないほどだ。ひとたび鵬が飛び立つとなれば、その翼は天空に雲がたれこめるのと見紛うばかり。大海に嵐が湧き起こるのを見るにおよび、巨鳥はおもむろに南冥へと飛び行く。南冥とは天の池のことだ。怪しげな事象を記述する「齊諧」によれば、『鵬が南冥へと移るとき、三千里の水面を打ち、風の助けを得て、半年もの間休むことなく、九万里の空へと上昇する。』とある。見るがいい、陽炎が立ちのぼり、塵埃が吹き流れ、生物が互いに息づいている地上の様を。空が青々としているのは、本当の「空の色」なのだろうか?限りなく遠いところにあるから青く見えるのではないだろうか?鵬の高みから見下ろせば、この大地は青一色なのだろう。

参照:長岡半太郎と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/005007/

C.G.ユング
≪私が岩の入り口に通じる階段へ近づいたときに、不思議なことが起こった。つまり、私はすべてが脱落していくのを感じた。私が目標としたもののすべて、希望したもの、思考したもののすべて、また地上に存在するすべてのものが、走馬灯の絵のように私から消え去り、離脱していった。この過程はきわめて苦痛であった。しかし、残ったものはいくらかはあった。それはかつて、私が経験し、行為し、私のまわりで 起こったすべてで、それらのすべてが、まるでいま私とともにあるような実感であった。それらは私とともにあり、私がそれらそのものだといえるかもしれない。いいかえれば、私という人間はそうしたあらゆる出来事から成り立っているということを強く感じた。これこそが私なのだ。『私は存在したものの、成就したものの束である。』
 この経験は私にきわめて貧しい思いをさせたが、同時に非常に満たされた感情をも抱かせた。もうこれ以上に欲求するものはなにもなかった。私は客観的に存在し、生活したものであった、という形で存在した。最初は、なにもかも剥ぎとられ、奪われてしまったという消滅感が強かったが、しかし突然、それはどうでもよいと思えた。すべては過ぎ去り、過去のものとなった。かつて在った事柄とはなんの関わりもなく、既成事実が残っていた。なにが立ち去り、取り去られても惜しくはなかった。逆に、私は私であるすべてを所有し、私はそれら以外のなにものでもなかった。(同上)≫

老子。
大道汎兮、其可左右。萬物恃之而生而不辭、功成不名有。衣養萬物而不為主、常無欲、可名於小。萬物歸焉、而不為主、可名為大。以其終不自為大、故能成其大。(『老子道徳経』第三十四章)
→大道は氾流のようにあまねく行きわたる。万物はそれを恃みに生きるが、大道が辞することはない。功を成しながらも名を持たない。万物を包み養いながらもその主となることはなく、常に欲がない。ちっぽけなものだと言えるだろう。万物が帰順しながらも、主とならないのは、偉大なものだとも言えるだろう。その終わりまで自らを大としないことで、その大を成すことが出来る。

C.G.ユング
≪またもう一つ、病気によって私に明らかになったことがあった。それを公式的に表現すると、事物を在るがままに肯定するといえよう。つまり、主観によってさからうことなく、在るものを無条件に『その通り(イエス)』といえることである。実在するものの諸条件を、私の見たままに、私がそれを理解したように受けいれる。そして私自身の本質も、私がたまたまそうであるように、受けとる。(同上)≫

Zhuangzi
『予嘗為女妄言之、女以妄聽之、奚。旁日月、挾宇宙、為其脗合、置其滑涽、以隸相尊。衆人役役、聖人愚鈍、參萬歲而一成純。萬物盡然、而以是相蘊。』(『荘子』斉物論 第二)
→「試しに私が妄言を吐いてみよう。あなたもそのつもりで妄聴してほしい。どうだろう、至人は太陽と月と共にあり、宇宙のすべてを抱いている。重なり合ったまま、入り乱れたまま、万物に貴賤の差を設けずにいる。世の人々はせかせかと、聖なる人は愚か者のように、永劫の時と共にありながら純粋なままでいる。渾然とした万物を万物のまま然りとし、その一切を包み込む。」

これでいいのだ。
「あなたの考えは、全ての出来事・存在をあるがままに、前向きに肯定し受け入れることです。それによって人間は重苦しい陰(いん)の世界から解放され、軽やかになり、また時間は前後関係を断ち放たれて、その時その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち『これでいいのだ』と。」(平成二〇年八月七日、森田一義 赤塚不二夫への弔辞より)

参照:弔辞 ( ノーカット版 )
http://www.youtube.com/watch?v=EEbcF__-jSo

こういうのを「自然(自ずから然り)」と言います。

参照:ユングと自然。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/005150/

C.G.ユング
≪病後、私にとって仕事上で実りの豊かな時期がはじまった。私の主要な著作の多くは、この時期にはじめて書かれた。私のもちえた洞察、あるいは万物の終末についての直観が、新しい公式を採用する勇気を与えてくれた。もはや私は、自分自身の意見を貫き通そうとしなくなり、思考の流れにまかせた。このようにして問題の方が私の前に現れてきては、形をなしていた。(同上)≫

老子。
『道常無為、而無不為。侯王若能守之、萬物將自化。』(『老子道徳経』第三十七章)
→道は常に無為であるが、為さないことはない。王がもしその道を守りきれば、万物はまさに自ずから化す。

参照:Let It Be - The Beatles - Lyrics
http://www.youtube.com/watch?v=0714IbwC3HA

今日はこの辺で。


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