吸血虫のレクイエム【石田】
長いこと僕の静謐な生活を脅かしていた1匹のハエは先日ようやくどこかへ行った。どこへ行ったのか逆に気になるところだが、とにかくこれで平穏な暮らしに戻れる。と思ったのも束の間、今度は無数の蚊の襲撃を受けることになる。ここ数日の間に、腕や首周りの露出部分には「かゆみの丘」が数多く築かれた。部屋で普通にしていても視界を蚊がよぎる。あるいは耳の周りに、神経を逆撫でするような、あのか細い羽音が近寄ってくる。油断すると腕の上で食事が始められている。もはや勘弁ならん。なにか早急に手を打たねば。だいたい不自然だ。以前は部屋の中を舞う蚊はこんなにも多くなかったのに、明らかに最近、数が尋常ではない。一体どういうことか。何か原因があるはずだと部屋を見回したら、アースノーマットの液がなくなっていることに気づいた。これか。これだったのか。これが効力を失っただけで、我が城はこれほどまでに蚊の侵略を受けるのか。哀しきことなり。本日、コーナンにて、厳かな心持ちで補充用液を購入してきた。どうか今夜は、静かな夜でありますように。