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雨の日 傘を広げる うなだれている灰色の空から 次々と降ってくる 冷たい粒々に向かって 大きな花模様の傘を広げる ずっと昔 郷里から持ち帰った傘 派手な花柄が何だか恥ずかしくて それから十数年、全く使わないまま 傘立ての奥に仕舞い込んでいた 雨降り続きのこの頃、 なぜかあの傘のことを思い出して 急に使ってみたくなった 今までどんなに雨が降っても 頭の端にも思い浮かばなかったというのに 柄に付いているボタン押すと ポン!・・・と音をたてて広がる ブルー、水色、白の花畑 開けっぴろげな明るさで 頭上を彩っている 素敵な傘じゃない・・・! 思いがけない言葉が ポン!・・・と音をたてて生まれる 大きな花模様なんて・・・と 突っ張っていた思いが 傘の上で 雨と一緒に軽快に弾かれていく きっと この時のために傘を持ち帰ったのだ 空は急に高くなったように感じ 周りの景色には瑞々しい色が戻って来た 私は深々と息をする いつも花柄の傘を広げよう ポン!と勢いよく 晴れやかな花畑を心に咲かせよう 難しい顔して背伸びする私も 寂しさに沈む私も 色とりどりの花で弾いてしまおう 冷たい水溜まりを軽々と飛び越えながら
ふと明るい光を感じて 眼を上げたその先に 金色に輝く銀杏の樹が一本、立っていた 秋の終わり 冷たい雨の日 誰もがうつむき、足早に通り過ぎる 歩道の脇で 誰に求められるのでもなく あたたかい灯で周りを照らしている きっと銀杏の樹は 自分のしていることを知らない 秋になったから葉が色づき 雨や風に打たれるままに ひらひらと舞い落ちるだけなのだろう 自然の理に従っているだけなのだろう そのことが こんなにも 私の気持ちを和ませている 銀杏の樹は今日も明日も ずっとそこに立ち きっと 自分のしていることを知らないだろう
リリリ・・・ リリリ・・・ 庭の草むらで虫が鳴いている 夕方 薄暗くなった部屋の明かりをつける頃 決まったように聞こえてくる リリリ・・・ リリリ・・・ きっと小さな虫なのに 澄んだ声は部屋いっぱいに広がって 耳はびりびりと振動する 本を読んだり食事をしたりして やがて寝る時間になって リリリ・・・ リリリ・・・ まだ鳴いているな と思いながら眠りにつく ある日の夕方 ふと声が途絶えた あれっ どうしたんだろう? 不意に広がる静けさに戸惑っていると しばらくしてリリリ・・・と始まり 何となくほっとする 本を読んだり食事をしたりして 今日も鳴いているな と思いながら眠りにつく 次の日の夕方 また声がしなくなった 最近よく途切れるな と気にしていると 再びリリリ・・・と聞こえてくる ああ良かった! と思う間もなくまた途切れ リリリリリ・・・ 何かを思い出すように少し続いて それから ふっ と消えた それきり草むらは静かになった 遠くの畑でたくさんの虫が盛んに鳴いている 本を読んだり食事をしたりして いつ鳴くのかな と思いながら眠りにつく あの日以来、虫の声を聞かない 草むらにはおしろい花が色あざやかに咲いて 夕方の空気は日ごとに冷たくなっていく
その日、お兄さんは怒っていた 見た目はいつもと変わらず 黙ってリンゴをぱっぱと手早く並べているけど 後ろを向いた肩の辺りがとんがって 話しかけんな! と 背中にシャッターが下りている 仕事で何かあったのか? 私はリンゴを買いたいけれど近寄れない 少し離れて見ていると お客の気配に気づいたお兄さんは 空になった段ボールを持って ささっとお店の裏手に隠れてしまった 後はリンゴが何事も無かったように整列している 私はこわごわ一個に手を伸ばす 冷え切った皮がビリッと指先に痛い でもリンゴの丸みは掌にやさしくて やあ、いらっしゃい!と迎えてくれる 私は買い物をして店を出る 夕暮れの商店街には提灯が下がっている そうか、もう秋祭りか・・・ 振り返ってみる八百屋さん お兄さんは引っ込んだきり 野菜と果物が律儀に店番をしている 肌寒い風のなか 遠くお囃子を聞きながら リンゴの入ったレジ袋を揺らして帰る あったかい赤色が袋の中で踊っている
車窓から見える空が広くなる頃 電車は私の住み慣れた町へ近づいてくる 高架から見下ろす 高円寺 阿佐ヶ谷 荻窪 ・・・ 家々の屋根の連なりから 大きな木が一本 飛び出すように伸びて こんもり茂る葉が 傾く日差しに照らされている 遠くには鉄塔が等間隔に並んで いつもと同じ、帰り道の風景だ 暮れてゆく武蔵野の風景だ そういえば学生の頃からずっと、この沿線に住んでいる いわゆる青春とはほど遠くて 苦しいことの方が多かったのに 親しくなかったクラスメートの顔や 退屈だった講義 空しい気持ちを抱えて俳諧していた 本屋や音楽喫茶店 商店街の賑わいが ひとつに溶けあって 急に香ばしくよみがえってくる 三鷹が終点の電車は 乗客もまばらになって 車内は急に広くなってくる 空が茜色に染まっている 遠くには鉄塔が等間隔に並んで ああ 秋だな ・・・ 新しい発見みたいに ふとそう思う いつもと同じ、帰り道の風景だ 私の好きな武蔵野の風景だ
![]() いつまで眺めていても 見飽きない川の流れ 大きな木の木陰越しに きらめく水面を見つめる 川のせせらぎ 鳥の声 その他には何も聞こえない 満ち足りた時 懐かしくそれでいて未来が開かれていくような 心豊かにふくらむ時 この時こそが私 私が私でいられるひととき 詩を書く手元で 木漏れ日が揺れる 北上川のほとり
![]() 北上川のほとりにて 瑞々しい緑 流れゆく北上川 川の水面にきらめく 五月の陽光 遠くにのぞむあの山は 岩手山 白い雲をいだいて この町を見守る 澄んだ大気 さえずる小鳥の声 そよぐ風 どこかで見た風景 懐かしい川辺の風景 静かに 川と共に流れゆく時 いつまでもここで 共に・・・
![]() 毎日行っている駅ビルの八百屋さん お決まりのトマト、キュウリ、キャベツに人参 そろそろ夏だからアスパラ、オクラ さっぱり薬味のミョウガに大葉 フルーツの補充も忘れずに キウイにイチゴ、アメリカンチェリーはまだ高いのでお見送りだ 何かいつも買うものが決まっている私 ぶっとい牛蒡とか筍のかたまりとか カゴに投げ入れている奥さん達をみると気後れする はずかしながら筍の調理の仕方は知らないし なんだか面倒くさいから でっかい筍を私は買ったことがない 私のカゴの中を見ると、料理があまり得意でないことがバレる まっ、いいか 料理上手しか八百屋さんへ来ちゃいけないってことはないだろうし でも時々 必要にかられて買い物をすることが嫌になってしまう だから時には買うことをカゴごと全部忘れてしまって 文房具屋や本屋さんへ行くのと同じ感覚で 八百屋さんへフラーッと入っていく 公園を散歩するのと同じように 何とはなしに売り場をブラブラ徘徊する そういう時 八百屋さんはにわかにカラフルに光ってくる 普段はあまり見えない野菜やフルーツ、加工品が見えてくる ユニークなイエローの缶に入ったもろみ味噌 小さなピンクのバラの花がきっちり並んだ綺麗なパック いつもぱっぱと乱雑に手に取るキュウリの棚も 上の棚には めずらしいキュウリが鎮座している 「加賀きゅうり ミソをつけても油でいためでも美味しいヨ!」と 文末をカタカナで強調 手書きのマーカーで走り書きしているところに 八百屋さんの顔が可愛くのぞいている 買い物カゴは持たなくても 鮮やかなグリーンにピンク 赤や黄色の光をいっぱい戴いて いつしか体の中はぴかぴか光っている ありがとう八百屋さん いつも大好き八百屋さん 料理はあまり得意ではないけど 水のように空気のように太陽の光のように 私にとっては無くてはならない存在なのです
![]() 新緑の萌える大地 生まれたばかりの生命たち その瑞々しさと香しさに 心も体も洗い清められて 私もまた新しい生命を頂く 若草にまじって次々と咲く花たち 山桜も木蓮も 家々の庭先に咲くチューリップもバラも・・・ この北の国では 花も木も草も一斉に芽吹き、生命が花開く そのあまりに率直な喜びに圧倒されつつも 久しぶりに味わう心の底からの解放感は 人も本来、この自然と同じに芽吹き伸び、喜び生きる 力強くも率直な存在と教えてくれる ![]()
![]() 澄んだ風を感じて目が覚めました いつになく静かな朝 外では今日も 真夏の日差しが照りつけているのに 私が感じるのは やさしく清々しい・・・ そう 秋の始まりの空気に包まれ 心安らかに横たわっているのでした この頬に触れる風 何を運んでくるの この微かな香り 何が始まろうとしているの ぴん、と張りつめた 美しい白い布のような 私の心 そうです もうすぐ染まるのです 透明な秋の空気がやがて 甘く芳しい 金木犀の香りに染まってゆくように 私の胸の裡もやがて 夢の色に染まる時が訪れるのです あなたを待っています 間もなくあなたはやって来ます 遥かな未来の風に乗って 懐かしい古の香りと共に・・・ 間もなく会えます 真っ白な布の広がりに 芳しい香りが流れ 古と未来は溶け合い 一つになり 夢のような調べを奏ではじめるのです 金木犀の香りの訪れを待ち望む 秋の朝 はりつめた美しい心で 少女は 恋を予感するのです │<< 前のページへ │一覧 │ 一番上に戻る │ |