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2010年10月02日
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「花束」

金曜、帰宅途中の電車内のことである。 週末の乗客の表情は、いつもより穏やかだった。 スーツ姿の60歳ぐらいの男性が、あざやかな花束を抱えて乗ってきた。 乗客の視線は一斉に男性に注がれた。 男性は気恥ずかしそうだ。

4人がけの一つの席が空き、男性は座った。 周りは男子中学生だ。 中学生たちは60代の男性と花束というなじまない取り合わせに興味を示し、一人が「おっちゃん、花買うてんきたん」と尋ねた。 「これはな皆にもろたんや。今日で定年でな」と答え、花束を網棚に置いた。

中学生たちはいろんなことを訊き始めた。 「どんな仕事?」「何年働いたん?」
遠慮会釈ないぶしつけな問いにも男性は丁寧に答えた。 身振り手振りも交えてユーモラスに仕事の説明をした。

中学生たちの屈託のない笑い声が幾度も車内に響いた。 それがやかましいとは感じず、他の乗客も自然と耳に入る会話に笑みを浮かべていた。

男性の職業も職責も分からないが、見知らぬ中学生に、これだけ饒舌に自らのことを話すのである。 充実したサラリーマン生活を送ったことが想像できた。

和やかな会話が続いたが、やがて電車が減速し、男性が中学生たちに別れを告げた。 中学生たちはホームの男性に車窓から身を乗りださんばかりに手を振った。 男性も花束を高く揚げてそれに応えた。

帰宅した私はカバンの中の「希望退職者募集」のA4用紙を破り捨てた。


~産経新聞 2010年6月10日夕刊に掲載の「夕焼けエッセー」~


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「彼岸花」


彼岸花








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最終更新日  2010年10月04日 01時54分50秒
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