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QBスニーク

◆骨髄移植直前の治療◆

 午前中に荷物の整理をし,昼食時には個室への引越しが完了した.高密度無菌病棟入口のすぐ隣の個室に入った.「個室は寂しい」という患者さんが多いが,私の場合は特に寂しさは感じなかった.患者仲間や元患者仲間が顔を出してくれたし,TVゲームも準備していたので,退屈する暇はなかった.一般の人の面会はこの日が最後と言うこともあり,会社関係の面会者が後を絶たなかった.所属部署のトップである取締役まで顔を出してくださったことに感激した.教訓,『金銭欲,出世欲を棄て,治療に専念すること』.

 入院後184日目.いよいよ移植前治療が始まった.いよいよ一歩も部屋から出られないことになった.午前中にアルケランを投与した.投与直後の感覚はアルコールを摂取したときに似ていた.その後,比較的元気に過ごしたが,夕方仮眠を摂った後に少し強い“酔い”状態になっていた.僅か10分の投薬でこれだけの症状が出るのだから,噂どおりきつい治療になりそうな予感がした.横になってばかりいると気分が優れないので,敢えてPS2でゲームを楽しんだ.看護婦さんたちが心配して,よく顔を出してくれた.その優しさに感謝した.

 前治療2日目.白血球数4000.朝の段階で出ている症状は,下痢,唇のあれ,微熱,倦怠感などであった.この日の投薬は午後からとなった.吐き気止めが効いているようで,午前中よりは気分が優れていた.この日も,看護婦さんたちとの会話で癒された.感謝の気持ちで一杯であった.夕食後に,PS2でゲームに熱中している最中に,もと主治医がやってきて,「とても前治療をしている患者さんには見えない.本当に薬入ってますよね」と驚いていた.私の前治療メニューは,非寛解での移植と言うこともあり,“史上最強”のメニューが処方されていた.普通の患者さんは,グロッキー状態になることが多いらしい.夜中には,全身のほてりがひどくなかなか寝付けなかった.氷枕を使って,何とか眠った.

 前治療3日目(入院後186日目).患者仲間や小児のお母さんたちが顔を出して励ましてくれた.中には「元気すぎて面白くない」と冗談を言う人もいるくらい元気であった.看護婦さんたちも代わる代わる顔を出しては元気付けてくれた.炎症反応が出始めたらしく,抗生剤が投与された.アルケランの投与はこの日も午後からであった.内服薬が倍増した.午後から輸血を実施した.

 前治療4日目.白血球数500.前夜からくしゃみ,鼻水が止まらない状態になった.主治医は,「胸の音は正常なので,様子を見ましょう」と言っていた.下痢は相変わらず続いていた.高密度無菌病棟で使用する身の回り品を担当看護婦に渡した.この日の夜から,6時間おきの抗癌剤の内服が始まった.担当看護婦に「看護婦に気兼ねしないで,調子が悪いときは,悪いって言ってくださいね」と言われた.自分では,マイペースでやっているだけで気兼ねをしているつもりは全くなかった.

 前治療5日目(入院後188日目).母と姉が面会に来てくれた.親戚一同からのお見舞いを携えていた.故郷のみんなに心配をかけてすまないと感じた.抗癌剤の内服時にむかつきがひどかったが,それ以外は特に変化がなかった.この日も看護婦さんたちに励まされた.感謝の気持ちで一杯であった.

 前治療6日目.倦怠感に変わりはなかった.下痢は少し悪化していた.この日の昼で抗癌剤の内服は完了した.午前中に姉が帰りの挨拶に来てくれた.千葉まで高速バスで帰るそうだ.わざわざ来てくれてありがとうという気持ちだった.母も午後に顔を出してくれた.

 前治療7日目.白血球数300.この日は治療の中休みであった.のんびり過ごした.食道の炎症が進行しているらしく,喉元までヒリヒリと痛みがあった.倦怠感は日々ましており,さすがにゲームをする元気がなくなっていた.初外泊から帰って来た仲間が顔を出してくれた.「疲れた」と言っていた.彼ともしばらく会えなくなると思うと少し寂しかった.看護婦さんたちとの会話が何よりの癒しになってきた.消灯後,口内にまで炎症が広がってきていることに気付いた.

 前治療8日目.午前と午後の2回放射線の全身照射を受けた.照射中に眠ってしまい,台から落ちそうになった.ベッドで移動中に同じ病棟の患者さんや小児のお母さんたちから「がんばってね!」という声援を頂き,思わず全身を覆った懸け布団の下で両手を振っていた.放射線照射へ移動中のベッドに声を掛ける光景など見たことがなかったので,一瞬驚いたが,運動会で応援されているような感覚で,とても嬉しく,勇気が湧いた.夕方から栄養点滴になった.口内~食道の炎症の痛みに耐えて食事をしなくても良いと思うと,気合が抜けてしまった.

 前治療9日目(入院後192日目).白血球数50.下痢は確実に悪化していた.耳の下のところに僅かな痛みを感じた.朝からゲームを楽しむ元気があった.午前中の照射は,バックミュージックのエリック・クラプトンの曲が良かった所為か,いつもより短く感じた.
昼前に,妻と母が荷物の整理を終えて,いつでも高密度無菌病棟に入る準備が出来上がった.午後からの照射もさほど長く感じず,あっという間に,高密度無菌病棟への入室の儀式が始まった.どんなパフォーマンスをしようか悩んでいたが,見送りの皆さんとの記念撮影をして,入室した. 個室に入る前に,消毒剤の入ったお風呂に入った.入室後,今後の治療や生活についてのオリエンテーションを行った.夕食におでんが出ていたので,おでんだけ食べてみた.久々の塩分がたまらなかった.しゃっくりが頻発し始めた.いよいよ明日移植である.
[2002.07.07更新]

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