あとがき
あ と が き この作品は、「日通文学」二〇〇〇年九月号に「強慾」として載せられたものである。三春地方に伝わる「化け猫騒動伝説」を下敷きにした。いつの時代も変わらぬ人間の欲を主題としたが、当時の人々の火災に対する恐れも副題としている。ただどうしても、こういうものは勧善懲悪となりがちである。この伝説も例外ではなかった。しかし歴史は、いつも勧善懲悪だけで紡がれているとは限らない。この小説の主人公である、荒木玄蕃高村の逝去の様子は、歴史に残されていない。 しかし高村は、自分の身は滅ぼしたが、実子の季侶(頼季)を三春藩主とするのには成功した。この小説の下地になった「三春・猫騒動」は、三春藩の正徳事件(一七一五年頃)、及び享保事件(一七二九年)と言われた二つの事件にからんで伝えられてきたものである。が、いづれこの作品も、先輩同人の手厳しい批判を受けたものである。そのためもあって、題は同じでも、全く新しく書き直した。 なおこの取材中(一九九二年頃)、あるお宅のご主人に、「私の女房は、荒木家の系統でしてね。今でも後ろめたいそうです」と言われた。 側でお茶を煎れてくれていた夫人が、黙ったまま、きまり悪そうな顔をしていたのを思い出す。それにしても、約三〇〇年近くも前の先祖の起こした事件に、今更ながら気に病んで生活している人のあることに驚いた。こういうことが、長く閉鎖された小さな社会(町)に於ける歴史なのであろうか。しかも、このような考えの人に出会って、この現代に至るまで続く「人の慾」とは、いったい何であったのか、と考えさせられた。 この小説を書いていて気になったのは、この夫人に対してである。しかし小説、つまりは虚構ということで、お許しを頂ければ、と思っている。 そのためもあって、あえて、この方の名は伏せさせて頂く。 (了) (はらきり梅と、その碑) 参 考 文 献 一九八五 三春町史 三春町