カテゴリ:教育
中国の南方科技大学(広東省深圳市)の賀建奎副教授は2018年11月28日、香港で開催された第2回ヒトゲノム編集国際会議で、ゲノム編集という技術で改変した受精卵から世界で初めて子を誕生させたと発表した。
エイズにかかった父親のウイルスが子に感染しないよう遺伝子に手を加え、生まれた双子の女児は健康だという。双子の女児は、協力を得た8組のカップルのうち1組の受精卵から生まれ、この後18年間、経過観察すると述べている。”他にも1人に妊娠の兆候がみられる”と明らかにした。 参加者からは安全性や倫理面の問題があるとして批判や疑問の声が出ている。 多くの研究者が第一に問題視しているのは、計画がまったく公表されず結果が突然報じられた点である。国際会議の組織委員長でカリフォルニア工科大のデービッド・ボルティモア教授は「出産から何カ月も情報を出さず透明性に欠ける」と批判している。 もう一つは第三者による検証がないことである。手法の安全性や、子の細胞がエイズに感染しないことを示すとされるデータには「説得力がない」と言われている(フェン・ジャン米ブロード研究所主任研究員)。子の誕生や予期せぬ異常がないかなどの「真偽は不明のまま」であると言われている(国立成育医療研究センターの阿久津英憲部長)。 中国科学技術省幹部は、出産が事実なら違法との認識で、確認されれば関連法に基づいて処分すると指摘した。中国政府は地元当局に事実関係の調査を指示している。 今回の試みがエイズ感染防止を目的とした点でも批判をあびている。たとえ男性がエイズ感染していてもウイルスを除去してから精子を体外受精に使えば、子への感染を防ぐことができる治療が既に医療の現場では確立している。つまり、他の治療法がない遺伝性の難病を防ぐ目的とはいえないからである。 中国社会科学院の邱仁宗氏は「これは治療とは言えない」と指摘している。むしろ、生まれる子に遺伝子レベルで好みの特徴をもたせようとする「デザイナーベビー」に近く、優生思想につながると警戒している。 CRISPR-Cas9という遺伝子編集の画期的な技術を開発した遺伝学者のジェニファー・ダウドナは、2015年にDNA二本鎖の精密な編集を可能とし、遺伝的疾患の治療への道を拓いた。同時に彼女は、自分が開発した新しいツールが引き起こす倫理問題に警鐘を鳴らしてきた。 研究者の多くは、受精卵のゲノム編集が病気治療などに将来応用されることを否定しない。 ただし、ひとたび受精卵の遺伝子を改変すれば、その遺伝子は子孫に受け継がれ後戻りできなくなる。後から異常がわかっても手遅れとなり慎重さが求められる。このため米欧だけでなく中国の研究者も加わり、研究の進め方について議論を積み重ねた。 2015年の第1回ヒトゲノム編集国際会議では、病気治療のための受精卵のゲノム編集を認める条件を検討し、現時点では人体への応用は時期尚早と結論づけていた。このような中での賀副教授の発表は、国際的なコンセンサスを無視したのに等しいと批判されている。罰則なしの自主規制の限界も露呈したことになる。 日本でもこれまでに明確の指針がなかったため、急遽12月4日に文科省の生命倫理・安全部会で検討が行われた。 ルールを無視した拙速な実験は、新技術への批判や不信感を高めることで研究の進展を妨げ、結果的に難病患者を救う歩みを遅らせかねない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.12.08 09:57:17
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