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カテゴリ:ばくばく冒険小説
戦闘機乗りの少年少女を主人公にした「スカイ・クロラ・シリーズ」の3巻を読んだ。
○ストーリー 戦闘機乗りのクサナギは,さらに腕を上げ有名なエースとなる。ところが本人の思惑とは別に,クサナギは,前線を退いた指揮官のキャリアを準備され,思い悩む。それとは別に,国の代表として,敵のエースとの一騎打ちの機会を与えられるが,敵国の代表はクサナギも知っているパイロットだった。 ------------------- 森博嗣のミステリー以上に独自性に満ちた作品だ。限られた背景設定しか与えられず,自閉症的な主人公の視点で語られる物語は,本来ならば単調でモノ苦しくなっても不思議ではないが,森博嗣の文章によって,淡く輝きを持った世界となって展開される。これは本当に他の人には真似できないと思う。 主人公・クサナギと作者・森博嗣の憧れを重ねた空は,死と隣り合わせの世界ではなく,地上の汚れやよどみから解き放たれた無垢な世界として設定され,そこに飛び立っていく戦闘機乗りたちこそが,本当に生きる人々として描かれている。 ただし,軽く読もうとする読者を拒む感のある,飛行機の部品と,飛行マヌーヴァの用語のオンパレードは健在だ。それだけでなく,まるで実際に飛んだ体験に基づくような描写はますます先鋭化され,前作の音に続いて,今回は臭いやまぶしさなどが表現され,飛んでいる臨場感はさらに増している。 ------------------- 物語が進んできて,ますます明確になってきたのが,主人公たちキルドレと,一般の大人たちの生き方の差だ。「犀川&萌絵シリーズ」よりも「Vシリーズ」「四季シリーズ」と進むほど明確になってきた,”事前に理解してしまうものたち”と”一般の人たち”の対立軸が再び語られる。だが,今回の主人公たちは,社会的に弱者で,特殊能力は持つものの,差別的な扱いを受けており,これまでの才能を用いて社会的に認められていた主人公たちとは大きく異なる。 もちろん森博嗣作品の主人公たちだから,自分たちの才能と評価の大きなギャップをくつがえそうとしたり,いきどおったりはしない。だが,その満たされない気持ち,報われない悲しみ,というものは,若い人々,あるいは自分はもっと評価されるべきだと思っている人々に,強くアピールすると思う。 森博嗣が,このシリーズをどう終えるのか,とても楽しみだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.03 22:06:32
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