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カテゴリ:びしびし本格推理
久々に道尾秀介の作品を読んだ。「光媒の花」とゆるやかにシリーズを形成するらしい。
○ストーリー 小学2年生の章也は,姉と一緒に,自分が生まれる前に両親が暮らしていていた家を訪ねる。そこには妻に先立たれ,息子は独立し,1人暮らしとなった老人・瀬下が住んでいた。章也はこの家であることを突き止めようとしていた。そして章也と翔子が抱えていた秘密とは? ------------ 6つの短編で構成された連作作品だ。それぞれの短編で語り手が抱えている悩みがあり,それがあるきっかけで解かれるという展開を基本として進む日常ミステリだ。けれども3つ目の短編くらいから,露骨な違和感がゴロリと示されていて,それがまた別のミステリ要素として読者を引っ張る。 その謎解きは,「光媒の花」から続く異界からのメッセンジャーとしての白い蝶,そして第六章で語られる物語で解かれることとなる。 ------------ いろいろな作家の作品を読む僕だが,道尾秀介の文章には毎回感心する。自然な会話文,ごく普通の地方都市の情景の描写や,老若男女の心情の描写の的確さ,読者の想像を掻き立てるために一歩手前で筆を止める巧みさ,どれを取っても高いレベルで,最近は本当に全方位にスキが無いという印象だ。 この作品では,似たような短編が続くので,どうしても終盤にかけて「またかよ・・・」みたいな中だるみが来てしまう。それも第六章で語られる別展開に向けての伏線となっているので,ゆるせてしまう,というのが,これまたこの作者の恐ろしさだ。 もっとも,道尾秀介ならば,もっと面白く緊迫感のある作品があるので,この繰り返しの多い作品は,個人的にはオススメ出来ない。 ------------ 各編について,ネタバレの無い範囲で簡単に感想を述べる。 第一章「やさしい風の道」:自分の家族がかつて住んでいた家を突き止めた章也は,姉とともにある目的を持ってその家を訪ねる。そこで出会った老人から,聞かされた話とは?・・・バスの乗客,姉弟の微妙な交流,家庭菜園の作物,どの描写も巧い。意外な結末も含め,楽しめる短編だ。 第二章「消えない花の声」:栄恵は息子とともに,かつて暮らした海辺の街に一泊をする。そこで彼女は否応無く夫が死んだ事故を思い出すが,意外な事実を知る。・・・この章では一気に老境に達した主人公となり,それに合わせた作風となっているのが見事だ。花の描写も見事。 第三章「たゆたう海の月」:瀬下夫婦は1人息子が転落死をしたという報せを聞き,その町へと急ぐ。果たして息子は何かを悩んでいたのか?不思議な蝶の葉書に誘われ,2人がたどり着いた結論とは?・・・この章は重いし,主人公が老人なのでひじょうに陰鬱だ。前の章の内容と合わせると,いろいろと考えてしまう。 第四章「つめたい夏の針」:翔子は友人・真恵美の弟・直哉と隠れて仲良くなったために,彼女と気まずくなる。そんな中,2人は夏のオリオン座を見に出掛けるが・・・主人公が若い人だと,感情の振幅があるものの,全体的に透明で明るい物語になる。 第五章「かけそき星の影」:妊娠中の葎(りつ)は,母の見舞いの帰りに出会った姉弟と,プラネタリウムに行く。姉弟はある秘密を抱えていて・・・ここまで来ると,「ほう,そう来ましたか?」という気持ちになる。で,どうなの?とも思うけど。 第六章「鏡の花」:幼い頃の事故で顔に怪我をしてしまった美代の家は,民宿を経営している。そこに2つのグループが泊まりに来た。その夜,美代は蝶に誘われて,ある所を目指して行ってしまう。美代の家族と,宿泊客たちは,彼女を捜して不思議な体験をする。・・・ここに来て新キャラですか?!と思ったら,やはり原因は旧キャラにある?後半はいろいろ気になって,1つ1つの短編に集中や感動出来ないのが,この作品の欠点だと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.03.25 22:18:12
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