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カテゴリ:ばくばく冒険小説
三崎亜記が写真家・白石ちえこの作品にインスパイアされて書いた短編集を読んだ。
○ストーリー 10年前のあの災害により,〈私〉の故郷は海の底に沈んでしまった。妻を伴い20年ぶりにそこを訪ねた〈私〉は,変わり果てた風景を目にして黙り込んでしまう。けれども海の底では・・・ ------------ 日常から地続きの異世界を,ノスタルジアたっぷりに描く三崎亜記の短編集を読んだ。表紙を手始めに30枚ほどの写真が掲載されているのだが,これが驚くほど三崎亜記の世界にフィットしている。 写真はモノクロで,廃墟や路地裏など古い時代を感じさせる風景が写っている。全て白石ちえこという写真家の作品だ。 後から気付いたのだが,この短編集は,まずは写真があり,それに触発される形で三崎亜記が小説を書いているのだ。だからこそ,たった1頭のメリーゴーラウンドの馬,電柱に付けられた巣箱,と言った小説の場面とマッチした写真が掲載されている。 ------------ 短編たちはいつもの三崎亜記作品で,灰色の日常とかすかな夢が語られる。会社,動物園,住宅街などの日常にふと出てくる違和感を拡大して,不思議な味わいのあるファンタジーにまとめている。 初期の頃のぎこちなさもだいぶ減り,安心して読める。この作品では少し新しい味わいも見えてきた。 ------------ 各編について簡単に感想を述べる。 「遊園地の幽霊」:〈私〉はよく遊園地の夢を見る。調べてみると,今住んでいる所にはかつて遊園地が存在し,この地域の人々はひんぱんにこの夢を見るというのだ。悩んだ末に〈私〉は・・・短編の内容にピッタリの写真が掲載されていて驚いた。底辺に流れる感情は間違いなく三崎作品。冒頭の短編にふさわしい。 「海に沈んだ町」:〈私〉は,20年前に捨てた故郷を妻と訪問する。町は天災の〈海〉により,海の底に沈んでいた。2人は遊覧船に乗り,町があった場所を一周する。・・・まるで東日本大震災や,福島第一原発の被災地のことを描いているような短編であり,さすがは表題作品というところ。 「団地船」:小学校時代に仲が良かった少女が引っ越していった〈団地船〉が寄港した。〈私〉は30年前に別れたきりの少女のことに思いを馳せ,〈団地船〉を訪問するが・・・行政的なリアリティを加えて,不思議な状況に説得力を与えてしまうのは,三崎亜記の持ち味だ。苦い展開となる。 「四時八分」:その町では5年前から4時8分で時間が止まっている。町を通り抜ける必要があった〈私〉を案内してくれたのは・・・ワンアイディアの短編。 「彼の影」:夏至を機に影が反乱を起こす。いつもと異なる影の動きや形状に,人々は驚いたが,やがてその影響の少なさに話題にもしなくなった。少し遅れて〈私〉の影にも異変が起きた。なんと影は,〈私〉ではない男性のものとなっていたのだ。〈私〉と男性の影の共同生活が始まる。・・・ちょっとコミカル,そして寂しい。いい短編だと思う。 「ペア」:〈私〉はペアを解消することを決心する。この世界では誰もが見たことの無い人とペアを組み,精神的な支えとなるだけで,そのまま会うことも無く生活を続ける。実りの無いペア生活に見切りを付けた〈私〉だが・・・これは間違いなく現実世界のアレの風刺だ。最後の一ひねりは三崎亜記としては新しい作風だ。 「橋」:住んでいる地域の前の小さな橋は,予定の通行量を満たしていない。市役所はそれを理由に,より簡素な橋へと架け替えることを通告してくる。・・・出た!リアルな市役所職員。ひじょうに不安感の残る終わり方。 「巣箱」:家に付いていた巣箱を〈私〉は急いで駆除をする。町では巣箱の侵食が進み,住人と行政が協力した駆除が必要となっていた。だが,〈私〉の家では・・・映像作品にしたら面白そうな短編。ビミョーに怖い。 「ニュータウン」:かつて反映したニュータウンは,世代交代と共に衰退しつつあった。ニュータウンの絶滅を防ぐために,政府はそこを鉄条網で囲い,住人を保護することにする。それでも止まらない衰退を止めるために政府が取ろうとした施策とは?・・・ニュータウンとその住人を絶滅保護種として扱う!この視点が三崎亜記だ。この作品の中では長めの短編。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.07.05 17:55:20
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