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カテゴリ:ばくばく冒険小説
これまでの枠組みに納まらないSF出身の作家・月村了衛の剣戟小説を読んだ。
○ストーリー 戦国時代の末期,謀反により父である領主が討たれてしまい,追っ手から逃げている姫・妙に助太刀をするのが,謎の黒衣の剣士だ。一刀流という流派の伝承者・典膳と思われる男は,妙を助け,黒蓑流の兄弟とも対決をする。一度は破れた典膳だが,様々な縁により,再び姫を救うために剣を振るう。その先に待っているのは? ------------ 月村了衛を語る際に,その変幻自在の文体について触れない訳にはいかないだろう。僕が読んでいる中だけでも「機忍兵零牙」の山田風太郎風の文体,「黒警」の乾いたハードボイルド風の文体,〈機龍警察シリーズ〉のニュートラルな文体と,既に大きく印象が異なるものを読んでいる。 普通だったら,「文体や作品世界が定まらない作家予備軍」として切り捨てられるところだが,それぞれが水準以上だったというサクセスストーリーにより,複数の出版社から様々なジャンルの月村了衛作品が発表されるという状況になっている。 この作品は,「零牙」に続き,山田風太郎風の作品世界を再現したものとなっている。SFテイストが加えられていた「零牙」と比べ,純粋な時代劇となっていて,より山田風太郎の再現度が高く,その分かなり読者を選ぶ印象だ。 ------------ 前面に提示されるモチーフは「零牙」と同一だ。亡国の姫君を,追っ手から守り,目的地まで送り続けるヒーローの物語だ。 SF的な要素が見え隠れしつつも,それを忍法帖以上の意味ではほとんど利用しなかった「零牙」と比べると,ストレートな剣戟物語であるこの作品にどう落とし所を見つけるか,という部分はひじょうに興味深かった。 徹頭徹尾,山田風太郎風であるこの作品は,僕のような読者は喜ぶが,SF,ラノベ系の読者からは敬遠されてしまうのではないかと懸念する。 この作品の古典的な作風と物語世界は,現代的な評価とはかなり相容れづらい。主人公格の黒衣の剣士の素性の謎は最初から分かりやすく提示されていたし,物語の地理的な狭さと反比例する剣士たちの技術の高さはご都合主義と言われても仕方が無い。 受け入れてくれる読者層が減ってしまうリスクを理解しつつも,この作風を押し通した月村了衛の度胸を評価する。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.06.30 20:18:29
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