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ばくばく冒険小説

2015.08.27
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カテゴリ:ばくばく冒険小説
恩田陸の〈神原恵弥シリーズ〉の最新作を読んだ。

○ストーリー
外資系製薬会社の特別研究員・神原恵弥は医薬品の見本市に参加するために東西文化の交差点・T共和国を訪れる。恵弥はそれ以外にも,高校時代の同級生と再会すること,究極の鎮痛剤〈FD〉を探すこと,行方不明の化学者・アキコ・スタンバーグを捜すこと,そして謎の麻薬商人〈アンタレス〉を捜すことを計画していた。恵弥は謎の人物の招待に応じて,T共和国を一周するミステリーツアーに参加する。そこで彼が見出したこととは?

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2001年の「MAZE(メイズ)」,2003年の「クレオパトラの夢」に続く,10年以上ぶりの〈神原恵弥シリーズ〉の第3作目となる。「六番目の小夜子」をはじめ様々な作品をリンクしている〈関根ファミリー〉を除くと,恩田陸作品の中では少ないシリーズ3作目となる。

主人公の神原恵弥は,新種のウィルスのハンターで,化学者で山師的な仕事をしている。さらに彼はホモセクシュアルで,派手な服装をしていて,いわゆる”オネエ”キャラクターだ。こうした人って,ドラマやテレビの中,あるいはそうした店では存在するけど,ビジネスの世界では無いと思うんだよなあ。

普通に仕事をする上では,自分の性癖が少数派であることを積極的に披露する意味が分からない。この辺り,恩田陸って80年代風少女マンガの感覚のままだ。

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この作品では,これまでの2作で登場した天才参謀・時枝満,主人公の妹で弁護士の和見,国立感染症の研究員・多田,その妻・惠子と,印象的だったキャラクターが再登場する。

さらにそれ以外にも,女性研究者のアキコ・スタンバーグ,考古学者のアリス・レミントン,元経産省の長谷川美津子,警察庁キャリアの知念と,ルックス・知性・出自・職業が優れたまさにエリートというキャラクターが登場する。

このキャラクター設定の濃さも恩田陸の特徴で,個人的には80年代バブルの残滓ではないかと疑っている。

あまりにも肩書きが立派なキャラが多いので,ミステリーツアーのドライバー・エディは新鮮だ。彼は日本企業で働いている測量技師で,東西文化の交差点の国らしく様々な民族の混血児だ。一見普通の穏やかな青年なのに,平気な顔をして人を殺して埋めようとする。どこにも所属していないのに誰よりも能力が高そうなエディが,一番魅力的だった。

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恩田陸のもう1つの特徴は,作品のラストが拡散して物語が拡散したまま終結するパターンが多いということだ。この作品も,行き当たりばったりのミステリーツアーの展開となり,伏線が回収されないまま終わる可能性が高かった。

ところが今回は,ファンタジーや伝説に逃げず,きちんと謎が解かれる。旅路の先にパズルのピースが揃い,複数の謎に解決がつく。さらに主人公の新しい展開を予測させて終わる。

やや急ぎ足のラストではあったが,これまでの〈神原恵弥シリーズ〉で一番スッキリ終わったのではないだろうか?

恩田陸,まだまだ頑張ってもらいたい。











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Last updated  2015.08.30 07:45:08
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2015.07.16
カテゴリ:ばくばく冒険小説
「魔女は甦る」の続編となる中山七里のサスペンス長編を読んだ。

○ストーリー
麻取,つまり厚生労働省の麻薬取締官である七尾は,師事した先輩・宮條の跡を継ぎ,同僚も呆れる過激な捜査をすることで有名だった。宮條が死ぬ原因となった人間の攻撃性を極限まで引き出す薬物〈ヒート〉を追う七尾は,同僚の反対を押し切り,〈ヒート〉を危険過ぎると判断しているヤクザ〈宏龍会〉の山崎とコンビを組む。彼らは〈ヒート〉の売人のアジトを突き止めるが,翌朝売人は死体で発見され,証拠が示した犯人は七尾本人だった。警察とヤクザから追われる2人が取った行動とは?そして事件の真相は?

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冒頭から麻薬取締官の主人公・七尾が大活躍する。七尾は体質,頭脳が優れ,上司,同僚にも恵まれ,麻取のエースとしてヤクザから恐れられ,警察からねたまれる存在だ。

前作「魔女は甦る」では,主人公たちが警察に所属し,厚労省の麻取は外様として扱われていたが,今回はその立場が逆転している。

だが主人公が,取り立ててヘビーな過去がないのにひじょうに優秀で真面目なので,なんだかもう1つ納得し切れない部分が残る。ここまで無鉄砲な活躍をする登場人物がいると,なんとなく暗い過去がありそうなのにね。

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前半は,麻取の七尾と,ヤクザ〈宏龍会〉の山崎という呉越同舟の状況で物語が進む。相手を見ながら少しずつ協力関係を築くという緊張感のある展開が面白い。

彼らが追っていた麻薬の売人が死体で発見され,その状況証拠から主人公・七尾が犯人として追われることになり,物語の流れは一気に加速する。それまでもかなり強引な設定で進んでいたストーリーは,いよいよサスペンス映画のようなジェットコースター展開となる。そのためこれまで封印していたと思われる「魔女は甦る」の陰惨な空気までも甦り,なかなか読むのが辛くなる。

ラストはハリウッド映画かよ?と思ってしまうほどの大アクションが展開される。冒頭,中盤,後半と雰囲気がここまで変わる作品も珍しいだろう。

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ハードカバーでは分厚く見えたこの作品も文庫版ではさくさくと読めた。確認すると400ページ,最近では手頃な量だと思う。解説でも語られているように,中山七里はエンターテインメント作家として既に一流だと思うので,ミステリーとしての謎解きは忘れて,とにかくワクワクする作品を書いてもらいたいと思う。

この作品も他の中山七里ワールドとリンクしているので,今回の登場人物たちに再会できることもあるのではないかと思う。ワールドの中では傍流に属する作品なのは間違いないけれど。














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Last updated  2015.07.16 21:28:24
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2015.05.16
カテゴリ:ばくばく冒険小説
60年代のアメリカの少年が主人公の冒険小説の下巻を読んだ。

○ストーリー
アラバマ州の小さな町ゼファーに住む少年コーリーの1年間が語られる。上巻は「燃える秋」「冬の冷酷な真実」の2章で構成されている。秋になり新学期が始まり,コーリーは学校へと戻る。いつも通りの秋のはずが,愛犬と親友の死を経験し,父親は失業してしまう。そして冬が訪れ,コーリーは1年近く前に目撃した殺人事件の犯人の正体にたどり着く。だが犯人に監禁されてしまったコーリーは?

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春,夏の上巻と来て,秋,冬の下巻だが,予想以上に厳しい運命が主人公・コーリーを待っていた。

全体の流れは上巻と同じで,アメリカ南部の田舎町の少年の生活が克明に描かれ,それと同一地平線でファンタジックな世界も描かれる。ただひどい目に遭う人々が,上巻では脇役だったのに,下巻では主人公により身近な人々になっているので,季節感だけでなく,全体的に重い印象となっている。

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多少ダークな色合いが増えているけれども,60年代のアメリカと並行して描かれる空想的な世界もひじょうに魅力的だ。

アメリカ原住民の知的な酋長による矢尻,見世物小屋のトリケラトプス,主人公と一緒に旅行をする怪物たち,町外れに住むギャング一家と保安官の撃ち合い,黒人の公民館の爆破騒ぎ,そして殺人犯からの逃亡。

少年時代を懐古している作品なので,誰が書いても願望に裏付けされた脚色が入ってしまうと思うが,それをファンタジーまでぐっと振り切って描いたマキャモンの手腕は素晴らしいと思う。その境界はあいまいで,どこまでが現実か?どこまでが当時の空想か?どこまでが記憶の改ざんか?どこまでが小説的な脚色か?・・・少しも区別がつかない。

これがこの作品の魅力だと思う。

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下巻を通じてさらに困難な立場となっているのが主人公の父親・トムだ。早春に殺人事件の被害者を目撃するというトラウマにより悪夢にうなされるようになり,けれども”まじない的”な文化を担っている黒人の隣村に相談に行くには白人としてのプライドが邪魔をしている。下巻ではそれに加えて,郊外にスーパーマーケットが出店したことによる失業という事態が発生する。

そんな不幸な状況にありながら,トムは責任を他人に転嫁することなく,また町の正義の危機には立ち上がり,そして何よりも息子・コーリーに対して常に頼れる存在であり続ける。

現実的にそうした存在がいたか,あるいは自分がなれたか,ということは置いておいて,この作品で父親・トムが迷いつつも正しい答えを出す姿が描かれることで,それが背骨として作品世界の空気を決定していることは否定できない。

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さて第5章で,コーリーは成長して,妻子とともに25年ぶりに故郷・ゼファーを訪れる。短い章の中に息が詰まるほどのノスタルジアが埋め込まれていて,これまでの物語で主人公の少年時代を共有してきた僕らにも,胸にぐっと来る仕掛けだった。

全てがきれいに収まったわけではないけれども,祖父,父,自分,そして子供へと勇気をつないでいく素晴らしい作品だった。現実の我々には,なかなか出来ないことだけどね。










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Last updated  2015.05.17 19:09:40
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2015.05.10
カテゴリ:ばくばく冒険小説
瑞々しい冒険小説として有名な作品の上巻を読んだ。

○ストーリー
1964年のアメリカ南部アラバマ州の田舎町ゼファーで,12才の少年コーリーが過ごした1年間が語られる。上巻は「春の薄闇」「悪魔と天使の夏」の2章で構成されている。小さな町で初めて起きた残酷な殺人事件,隣村に住む黒人たちとの交流,ビーチボーイズの流行と大人たちの警戒,いじめっ子の襲撃,山でのキャンプと謎の取引・・・古き良きアメリカが美しく描き出される。

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主人公・コーリーは小説家を夢見ている12才の少年で,まず間違いなく作者・マキャモン自身の幼少期が投影されている。体格も良くなく,クラスでは大人しい方で,同じようなタイプの友人3人と遊んでいる。

牛乳配達人をしている父親は真面目だがやや頑固な性格で,主婦の母親は心配性だがいざとなると行動力を発揮する。暮らし向きは決して豊かではないらしく,コーリーの中古自転車が壊れてしまっても,しばらくは新しい自転車は届かず,コーリーは友人と遊ぶのに1人だけ徒歩だったほどだ。

それでも親子3人は大きな不満も無く暮らしていたが,牛乳配達の際に父親とコーリーがある殺人事件を目撃してしまう。それにより,この親子に時おり暗い影が落ちるようになる。

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事件は未解決のままとなるが,日常は流れ続ける。普通の日々もコーリーの空想力のフィルターを通すと,ファンタジックで輝く毎日となる。洪水の日には川から怪物が現れ,隣町の黒人の老婆は魔法使いで,町の爺さんは伝説のガンマンで,夏休みの初日に少年たちは空を飛び,新品の自転車には意思があり,町に越してきたやせっぽちの少年は天才的な豪腕ピッチャーだ。

60年代のアメリカの田舎町をリアルに描くという手法や,すっと幻想的な世界へと移行してしまう流れは,スティーヴン・キングによく似ていると思った。でもマキャモンの世界では,各節の最後にすっとリアル側に戻るので,キングのようにダークな側に呑み込まれたままにならないのが救いだろう。

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主人公の少年のまなざしを利用しつつも,大人のリアルな目線が全体の枠を押さえているので,懐かしさを感じつつも,背景で進んでいる大人たちの思惑も感じることができる。このあたりのバランスは素晴らしいと思う。

果たして謎の殺人事件は,コーリー一家にどのような結末をもたらすのか?下巻が楽しみでならない。












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Last updated  2015.05.11 11:49:13
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2015.04.10
カテゴリ:ばくばく冒険小説
エンタメ作家の帝王・伊坂幸太郎と,芥川作家・阿部和重の共著という冒険小説を読んだ。

○ストーリー
第二次世界大戦末期,東北でアメリカのB29爆撃機が墜落していた。そして戦後に〈村上病〉が蔵王で発症し,その周辺はいまだに立入禁止地帯だった。さらに20年前,蔵王で撮影されたヒーロー映画がお蔵入りになった。そして現在,2人の男が全ての謎を解き明かそうとする。1人ははみ出し者,そして1人はコピー機の営業マンだった。立ちふさがるのは銀髪の殺人者。圧倒的に不利な状況で,2人は?

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僕の純文学系の読書範囲は限られているので,残念ながら阿部和重の作品は1つも読んだことがない。ミステリー,サスペンス,ハードボイルド,青春小説と,エンタメ系に偏っているので,伊坂幸太郎の作品は全て読んでいる。

そうした僕がこの作品から得る感想は,「ちょっとテンポの遅い伊坂幸太郎作品」だ。阿部和重の作風がどれくらい入っているのか,全く分からない。ちょっと残念だ。

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作者が2人なら主人公も2人で,この作品はいわゆるバディ物になっている。2人は小学生時代に,山形で同じ少年野球チームに所属しており,その後,疎遠となりつつも互いの状況は把握していた。だが今回事件に巻き込まれ,2人で解決を目指すことになる。

元キャプテンの井ノ原悠は,現在はコピー機の営業マンだ。真面目な正確だが,病弱な息子の治療のために,夫婦共に金銭的にも精神的にも困窮している。システムエンジニアとしては優秀で,高い情報収集能力を持っている。

元ピッチャーの相葉時之は,現在は詐欺師まがいとなっている。子どもの頃から周りを巻き込んでイタズラをする性格で,無鉄砲なまま大人になってしまった。後輩を助けるつもりで騙され,大きな借金を背負っている。

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相葉時之は,伊坂作品に頻繁に登場する強引なトリックスター的なキャラクターだ。無軌道に生きているが,たまに良いことを言ったり行ったりする。

井ノ原悠は,普通の人間で読者が共感をするタイプだ。予想通り相葉に巻き込まれる形で冒険に乗り出す。

小学生時代2人は,戦隊ヒーロー『鳴神戦隊サンダーボルト』に夢中になっていた。さらに大人となった今は2人ともクリント・イーストウッド主演の映画『サンダーボルト』の大ファンだ。この2つの作品に自分たちを重ね合わせる形で,2人は冒険を続ける。

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一方で物語では,第二次世界大戦中に東北に墜落したB29爆撃機の謎,そして〈村上病〉という伝染病の謎を中心にして,〈五色沼の水〉の争奪戦が展開される。そこに参加するのは,アメリカの諜報員,ロシアのマフィア,そして世界的なテロ組織。

歴史があり,国際的な闘争があり,世界レベルのサスペンス物語なのだけれど,実際には舞台は山形と仙台の間で留まっており,正義の味方は2人の男,1人の女,そして1匹の犬のみだ。物語のスケールの大きさと,事件や主人公の能力があまり合っていない気がした。

これだけの長さのわりに,主人公たちが意思を持って活躍するのって,ラストだけ。それもたぶんにご都合主義だし,もう少し物語を小さくまとめても良かった気がする。

期待が大きかったので,やや不満が残ってしまった。














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Last updated  2015.04.12 13:19:51
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2015.04.08
カテゴリ:ばくばく冒険小説
中国の古典に新しい光をあてる万城目学の連作短編集を読んだ。

○ストーリー
中国をその手に収めると思われた大将軍も,ついに敵の軍勢に包囲され討ち死にを覚悟する。10年間付き添った寵姫はそこから逃げ落ちて生きるように命じられるが,それに従わず将軍たちの前で最後の踊りを披露する。そして?

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万城目学としてはいろんな面で新しい作品だ。まずは中国の古典へのオマージュに満ちた短編集となっていること。そしていつものチカラの抜けたユーモアを封印しているということ,がある。

森見登美彦が書いたというならば,すっと受け止めることが出来たが,万城目学著ということに,まだまだ驚きが続いている。第1短編の「悟浄出立」は,誰でも知っている『西遊記』の三蔵法師と3人の弟子が登場して,軽くユーモアもあるので,入りやすいのだが,そこから先は本当にユーモアを封印して,より深く中国文学へと分け入っていくからだ。

「とっぴんぱらりの風太郎」でも描かれた,歴史と人の世への諦観のようなものが,やはり継続して語られる。ひょっとしてこれがこれからの万城目学カラーなのだろうか?

個人的にはこれまでどおりの楽しい作品が好きだけど,作家さんも成長するからなあ。新・万城目学ははるかに重厚だ。

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各編について感想を簡単に述べる。

「悟浄出立」:三蔵法師とお経を求める旅を続ける3人の弟子,その1人・沙悟浄は,どこか他の2人に引け目を感じていた。勇猛果敢な悟空,自堕落だが豪快な八戒に比べ,自分は考えてばかりであまり役に立てていない。またまた妖怪に捕らえられた悟浄は,前から聞きたかった八戒の前世の話を聞きだす。さらに落ち込んでしまった悟浄だが,あることがきっかけで?・・・『西遊記』の有名なトリオの臆病者・沙悟浄の一日が描かれる。ふっと気持ちが楽になる瞬間ってあるが,それを上手く説得力たっぷりに描いている。またこの短編を最初に持ってくるのも正しい選択で賢い。

「趙雲西航」:劉備が建国を進めている蜀の国に向かって船団を進める趙雲,張飛,そして諸葛亮。相変わらず豪快な張飛,まるで自宅にいるように平静な諸葛亮と比べると,趙雲は船酔いに悩まされ,さらに不思議な陰鬱な気分になる。諸葛亮と晩餐を食べ,あることを尋ねられたとき,趙雲はこの気分の理由に気付く。・・・『三国志』から劉備・関羽・張飛,さらに孔明でもない,趙雲を主人公にした短編だ。劉備が地方に流れ,自分の国を持つ一方で,どこかわびしさを感じてしまう趙雲。

「虞姫寂静」:漢の軍勢に包囲された城に,楚の歌が聞こえてきた時,項羽は討ち死にを覚悟する。寵姫の虞は逃げ延びるように命じられるが,ある理由で彼女は城に留まる決心をする。彼女が命を懸けて訴えたかったこととは?・・・『項羽と劉邦』などから「四面楚歌」の瞬間を使って,ある女性の情熱を描いて見せている。他の短編と異なり,歴史の有名なシーンであり,感情的にも揺さぶられる終わり方となる。

「法家弧憤」:皇帝が襲われるという事件があり,下級官吏の主人公は,犯人を知る者として大臣・李斯に呼び出される。皇帝のもと法治国家を推し進める李斯だが,今回の事件を防げなかったことを嘆く。共に役人を目指していた主人公と知人の運命はいつどのように分かれたのか?・・・『史記』で語られる秦始皇帝,そして国家統一を助ける李斯が,下級官吏の目を通じて描かれる。さらには法治国家とは?という壮大なテーマまだ考えさせられる。現代にもつながる普遍的なテーマで,長編になりそうなスケールだ。

「父司馬遷」:高名な役人で学者だった父が,皇帝の逆鱗に触れ,資格を剥奪され投獄されてしまう。残された家族はある理由で名前も家も捨てて移り住む。それから3年後,父が戻ってきたという噂を聞き,実家を覗きに行った娘・栄は,変わり果てた父親の姿を見る。なんと父は?・・・『史記』の著者・司馬遷(司馬遼太郎じゃないよ)の驚きの事実を描き出す短編。物語の人々を描いてきた最後に,語り手の姿も描こうということか?











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Last updated  2015.04.08 22:57:08
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2014.12.18
カテゴリ:ばくばく冒険小説
大学時代に人気があった高野文子の久々の新作を読んだ。

○ストーリー
とも子さんが経営する不思議な学生寮〈ともきんす〉には,寮生が4人いる。彼らは100年前の世界からタイムスリップしてきた学者の卵たちだ。将来物理学者となる朝永振一郎,植物学者となる牧野富太郎,雪の結晶を研究する中谷宇吉郎,そしてノーベル賞を取る湯川秀樹。とも子さんと彼らは,少ない言葉で貴重な交流を果たすのだが・・・

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自然科学の叢書の感覚をマンガに取り入れる,というひじょうに野心的な試みの作品だ。

と言っても,実際の学問の入門書を目指しているのではなく,4人の学者たちが講義やエッセイで残している若い頃の心の動きを再録している,というものだ。もちろんマンガなので,セリフや絵はデフォルメされ,ファンタジックな表現も取り入れて,印象深いものになっている。

シンプルな線で構成された学者の卵たちは,巨匠・手塚治虫のキャラクターのようにも見えた。全体的にはレトロな空気もあるので,それがとても似合っていた。

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「ドミトリーともきんす」は連作短編集だが,その前にプロトタイプ風の「球面世界」という短編が収録されている。これが難物で,本編のどの短編よりも頭が痛くなる。姉も,この短編を読んで,この本を投げ出してしまった。

だからこれは飛ばして「ドミトリーともきんす」から読み始めることをオススメする。戸惑いつつも,最後の短編「詩の朗読」まで進めば,高野文子の見事な表現力に飲み込まれて感動すること間違いない。きっとこの気持ちを伝えたくてこの作品を仕上げたんだと思う。

こんなに地味でレトロなのに,マンガの地平を広げるチカラを持っている作品だ。面白い。

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クリスマスプレゼントのように大事に読んだ。これからも何度も読むだろう。









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Last updated  2014.12.19 22:35:53
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2014.11.08
カテゴリ:ばくばく冒険小説
山田正紀のコンゲーム(犯罪ゲーム)をテーマにした連作短編集を読んだ。

○ストーリー
六本木のバー〈チェシャ・キャット〉の常連たちは,世直しのため,自分たちの身を守るため,様々な犯罪に手を染める。彼らは仲間内でも本名や身分を明かさず,謎のグループとして鮮やかに計画を成功させ続けた。だが,最後に彼らに訪れた危機とは?

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山田正紀はSF作家,ミステリー作家としてはベテランで,膨大な量の著作がある。当然,様々な顔を持っているが,日本の作家としては珍しく,コンゲーム(犯罪ゲーム,詐欺ゲーム)をテーマにした作品を多く発表しているのが1つの特徴だ。

『ルパン3世』が大ヒットをしているのに,日本の読者はどこかでウェットな物語を好み,どうしても主人公たちの行動原理に愛,復讐,コンプレックスなど分かり易い情念を求める。

そうしたこともありコンゲームを描いた作品は,日本ではあまりヒットしないと言われている。それに果敢にチャレンジし続けている山田正紀はなかなか度胸があると思う。

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このシリーズは,主人公たちが出会うバーの名前,そしてそこで与えられるあだ名など,多くの部分を「不思議の国のアリス」をモチーフにしている。さらに仲間同士を〈さん〉〈くん〉と呼び合っているので,どこかユーモア小説のようなフワフワした感覚で物語は包まれている。そのおかげで,計画の危険性や,実行中のトラブルの恐怖などが緩和され,物語はするすると進む。

切れ味のある文体も合わせて,ひじょうに読みやすい作品となっている。

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「襲撃」:六本木のバー〈チェシャ・キャット〉では,常連たちが勤め先を知らせず,互いにあだ名で呼び合うルールとなっていた。ちょうど街では〈装甲現金輸送車〉を用いた警備会社が話題になっていた。常連客の1人〈兎さん〉は,他の常連客と飲み話でこの輸送車を襲撃する計画を立てているうちに,実際に実行する羽目になってしまう。彼らは輸送車を止めることには成功したが,非常ベルが鳴り始めてしまう。・・・冒頭に小さな事件が起きることで,主人公が現金輸送車を襲撃しようと思ってしまうきっかけを作っておくなど,構成が見事だと思う。すっと作品世界に入り込めるので,第1作としてはとても良く出来ている。もっとも肝心のトリックは,ややリアリティに欠けるかな?

「誘拐」:バー〈チェシャ・キャット〉の常連客の〈眠りくん〉と仲間たちは,子供誘拐の犯人グループの手助けを強要される。仲間たちは,逮捕されず,誘拐された子供を救出し,犯人グループから逃れる,という目標を立てる。だが身代金の受け取りに失敗してしまい・・・第1作と変わって緊迫感のある短編で,個人的にはお気に入りだ。全ての情報が提示されていて,仲間たちがなんとかそれにチャレンジする,という冒険小説的なスタイルも良い。

「博打」:政治家の使用人になりすまし,カジノから政治献金代わりの金を受け取る。そんな計画に乗った〈帽子屋さん〉は,早々に身分がばれてしまい,用心棒にカジノを放り出される。〈チェシャ・キャット〉の仲間を呼び寄せた彼は,大胆にもカジノを再訪する。用心棒たちに捕まりそうになった彼だが??・・・これまでとは異なる形で主人公たちは事件に巻き込まれる。他の短編のプロットをこのシリーズ用に書き換えたのではないかと疑ってしまう。カジノをだます物語はひじょうに興味深い。

「逆転」:〈チェシャ・キャット〉のアルバイト女子大生〈アリスちゃん〉が窮地に陥る。彼女のために,厳重に守られた博物館にダイヤモンドを戻そうとする仲間たちだが,彼らは逆に宝石泥棒にされてしまう。絶体絶命となった彼らに電話をかけてきたのは?・・・最初の3つの短編は3人の仲間が持ち回りで語り手を務めていた。4つ目では第1作同様に〈兎さん〉が再び語り手となる。いつも通りのコンゲームと思っていたら,驚きの展開となる。読んでいて引っくり返ること確実だ。

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さらに驚くのは,最初の3つの短編が雑誌に発表され,4つ目だけが書き下ろしだったということだ。どんでん返しが単行本にしか収録されていないって,強烈だなあ。
















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Last updated  2014.11.09 17:25:58
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2014.10.22
カテゴリ:ばくばく冒険小説
トム・クルーズ主演でハリウッド映画化されたという歴史的なSFラノベを読んだ。

○ストーリー
地球を改造するために異星から送り込まれた機械生物〈ギタイ〉の侵略を止めるために,人類は〈装甲ジャケット歩兵〉部隊で対抗していた。そこに配属された青年・キリヤは,最初の戦闘に駆り出されるが,戦死してしまう。だが気付くと,30時間前に送り込まれていて,彼はその時間を何度も繰り返すことになるのだった。わずかな体験から学習し,誰よりも戦闘能力を高めるキリヤの前に,もう1人の能力者が現れる。

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映画公開の際には人気だったので,この作品を借りて読むことは出来なかった。今になり,なんとか順番が回ってきた。映画のDVD化は11月らしいので,それには間に合ったという形になる。DVD発売の際にはまたキャンペーンがあるのだろうけど,残念ながら映画もそれほどヒットしていないので,どの程度の規模でPRをかけるのかは予想できない。

日本の作品でしかもライトノベルのジャンルから,ハリウッド映画化というのは確かに初めてなので,これは喜ぶべきことだ。マンガやアニメのコンテンツは世界基準として認められているが,小説も同等の優れた魅力があるとして世界に発信していってもらいたい。

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作品はハードSFの装いを持っている。多くのSF作品や軍隊映画へのオマージュを感じさせつつ,一人称で物語は進む。戦闘シーン以外は,ラノベらしく分かりやすいパターン化した登場人物とのお約束の会話が続くので,かなりスピーディに読み進むことが出来る。

せっかくのSFらしい展開を一気にラノベの世界に戻してくれるのが,メガネ技術系サポート要員の女子,しかも口下手でどもったり,赤面したり,というベタベタのアニメ風キャラの登場だ。この作品でSFの空気を壊すことは止めてもらいたかった。SFもラノベも架空のジャンルだけど,独特の空気感があるのだから,それは混ぜない方がいいと思う。

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さて物語は初年兵・キリヤの奇跡的な戦闘能力の向上と,もう1人の能力者との出会いによって,思いがけない方向へと進展していく。これには驚いた。上に書いたように,ラノベっぽい空気はまといついてくるものの,しびれるほどハードな展開への舵きりは,まさにハードSFの味わいだ。

この容赦ない展開こそ,日本の作品,とくに映画やドラマでは全く欠如しているものだ。映画版はまだ観ていないけれども,どのような決着を付けているのか,ひじょうに興味深い。

一般受けはしないと思うけど,個人的にはオススメ。









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Last updated  2014.10.22 22:18:30
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2014.07.26
カテゴリ:ばくばく冒険小説
〈化物語シリーズ〉の最終パートとなる「終物語」の第2部を読んだ。

○ストーリー
アララギ暦と仲間たちの物語が終焉へと向かう中,隠されていた逸話が語られる。夏休みが明ける時,暦は呼び出され,後輩の神原駿河と謎の鎧武者と戦うことになる。鎧武者の正体は?そして,それと暦の決闘を見届ける人々が最後に取る行動は?

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やはり来たか?・・・と言うか,かなり早々に発表されていたけど,前・後の2編とされていた「終物語」は,前中後の3部作となった。

なぜ,この中編が突然挿入されたのか?・・・たぶん理由は2つある。

1つは,この中編が正しくは最終シーズンではなく第2シーズンで語られるべきであった逸話を,拾い上げて補っている内容であるから。

もう1つは,このままでは前編に続き,忍野扇という新しいキャラクターで後編も終始してしまうことへの読者側からの違和感があり,それを緩和するために,これまでのヒロインである神原駿河と忍野忍をフィーチャーしたのだと思う。

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さてこの作品で,ヒロインの1人,伝説の吸血鬼・キスショットのかつてのカウンターパート,400年前に死んだはずの侍が蘇る。さらにそのことが,これまでのシリーズで語られてきた怪異のほとんどが,この存在が理由だったことが分かる。

ありがちとは言え,遅れてきた説明的な設定だ。これって,必要だったのかな?リアリティや整合性を求めているシリーズじゃないしなあ。

余計ないちゃつきと会話,寄り道や無駄話があるのは,いつもの通り,後半になり見えてくるのは,400年前の侍と主人公・アララギ暦の決闘だ。つまりキスショットのカウンターパート,第1号と第2号の決闘となるのだ。

単純に言えば,同じ立場,同じ能力同士の戦いとなるのだが,復活を遂げ,あっと言う間に特殊能力を取り戻し,生来の侍としての能力を持つ第1号に比べ,アララギ暦は特殊能力を失っており,もともとの能力であるただのダメダメ高校生というだけだ。

圧倒的に不利な状況・・・まあ,いつもだけど・・・の中,主人公が取った行動とは?でも大事なのは,行動じゃなくて,いろいろな登場人物の気持ちの再確認だったと思う。ふむふむしんみり。

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え?ここでこの物語?と言われていた「終物語」前編での,読者の不満を緩和し,これまでの物語の不足部分を語り,やや整合性に欠けていた部分を調整するのが,この中編の役目だと思う。

良くも悪くも,この作品を経て,これまでの〈化物語〉は収束を向かえる様相を見せる。まあ,タイミングは,いろいろずれている気はするけどね。












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Last updated  2014.07.27 19:24:58
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