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              赤い翼の天使


                ご注意!
                ここはボーイズラブ系なりきり&創作サイトです。
                描かれている内容は全てフィクションである事をご理解ください。
            
                ロックバンド「ブラック・テレサ」のリーダー・神楽怜と、
                フツーの高校生・水島遼人、
                そしてバンドの仲間たちの
                ちょっと危険で切ない物語を、
                それぞれの登場人物たちの手記とメールで綴っています。
            
                             
            一度掲示板に書き込んだりメールに書いたりしたものを、
            そのまま転記していますので、
            日記の日付けと内容が一致しない場合もあるのでご了承ください。

            なお、BL、メンズラブ、やおいといった言葉の意味がわからない方、
            および男性同性愛に嫌悪を催されるという方は、
            ご覧にならないで下さい。

追記:読者の皆様が考えてくれたキャラを、新たに物語りに登場してもらう企画、
   継続中です。(但しオリジナルキャラに限ります)
   理想のキャラクター、あるいは現実の自分まんま?で、
   怜や遼人の友達(あるいは恋人?あるいはライバル?)になってみませんか。 
   ご希望の方は掲示板にてお知らせください。

本文署名に「GUEST」とあるものは、ゲスト様が掲示板に書き込んで下さった文章を、ご本人の了承を得て転用させていただいています。

怜と遼人と、その他もろもろの日記とメール(ただし、ここにかかれていることは全てフィクションです) [全318件]

2008年4月16日楽天プロフィール Add to Google XML

  うわ!懐かしい!  (67)

すっかり放置状態になってるのに、たまたまお世話になってた某検索サイトにタイトル入れてみたらヒットした。
まだこのブログ、残ってたんだと、ちょっとビックリ。
最後の書き込みから何年経ってるんだろう?
あの頃は男の子になりきって、小説みたいな空想日記みたいな、不思議なものを書いてたけど、
時は流れて、さすがにもうそんなことは恥ずかしくて出来ないな~と思いつつも、
似たような小説を相変わらず書き続けていたりする私。

あの頃、ここで交流のあった人たちは、今どうしてるんだろう。
みんな元気で幸せにしてくれているといいな。


最終更新日時 2008年4月16日 18時35分3秒
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2005年8月9日

  新しい傷(はると)

僕の手の中には、半分以上燃えてしまったキャンバスの残骸があった。
病院の処置室の前の長椅子に座ったまま、それを抱えてボンヤリしていると、
看護婦さんがやってきて、

「あなたも治療しますから見せて」

と言った。

「え・・・?」
「貴方の手よ。ほら、火傷してるでしょ?」

僕が痛みに気づかないのが不思議だというように看護婦さんは首を傾げたが、
実際、手の痛みなんか感じなかった。

「・・・それより、怜は?」

恐る恐る聞いてみると、

「大丈夫よ。少し跡が残るかもしれないけど、
煙も吸い込んでないし、すぐに帰れます」
「よかった・・・」

このキャンバスを燃やす火の中に飛び込んだ怜は、
僕の描いた絵を、というより、僕の心を守ろうとしてくれたように思えた。
今までにも何度も思ったことだけど、
僕は彼のためにならどんなことでも出来る。
なのに、実際には彼の身を犠牲にして、守ってもらうばかりなのが悲しかった。

額と頬に大きなガーゼを貼り付け、両手に包帯を巻いた怜が処置室を出てきたのと、

「怜!」

と叫びながら、怜のお兄さんの圭さんが駆け込んできたのと同時だった。

「お前、どうしたんだ。大丈夫か?」

それから圭さんは、すぐに僕の方を見た。
「またお前か」というような目で・・・。

「ごめんなさい。僕のせいです」

看護婦さんにその場で治療してもらいながら、
泣いたりしちゃいけないと思うのに、涙が出て止まらなかった。

「こいつの親父さんがさ・・・」

何も言えない僕に代わって、怜がお兄さんに説明している。

「絵を燃やそうとしたんだ。だから咄嗟に・・・」

圭さんは、僕の傍らに置かれた焦げたキャンバスに目をやり、

「そうか・・・」

と呟いた。

「絵は、描いたものの命だもんな。
怜の気持ちもわかる・・・」

思いがけない言葉に、僕は顔を上げて圭さんを見た。
そうだ。
圭さんも、絵を生業にする人だから、
渾身の思いを込めて描き上げた絵が、どんなに大事なものかわかってくれる。
だけど、そのために犠牲にしたものも大きすぎる。

「ま、俺なんかもともと傷だらけの身体だし」

苦笑交じりに言う怜の肩を、圭さんはちょっと小突くと、

「お前もやるじゃん。
愛するものを守るために負った傷は男の勲章だぞ」
「くっせー台詞」

あはは、と声を上げて笑いあう怜と圭さんの様子に、ちょっと救われた気はしたけど、
この兄弟の深い絆に入っていけない自分の立場を思うと、少し寂しかった。
そんな僕の表情を別の意味に取ったのか、
怜は僕の横に腰を下ろすと、

「絵は、また書き直せばいい。な?」
「・・・うん」
「俺は、いつだってお前のモデルになってやるから」
「ありがとう・・・」

こんなひどいことになったのに、それでもまだ僕に優しくしてくれる怜の言葉に、
新しい涙が溢れてきて、今度はどうしても止める事が出来なかった。


最終更新日時 2005年8月9日 8時0分16秒
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2005年3月19日

  炎(はると)

学生美術コンクールの展示期間は一週間。
自分の作品が大勢の人の目に晒されてると思うと恥ずかしくて、
結局怜と一緒に見に行った日以外は、
会場に足を運ぶ事ができなかった。

時々美術部の先輩や、クラスの友達から
「見たぞ。すごいじゃん」なんて電話があって、
そのたびに照れながらも嬉しさを噛み締めていた。それで充分だった。
でも時々、自宅に嫌がらせ紛いの無言電話や、
「絵に火をつけてやる」なんて脅迫めいた電話もあった。
携帯の番号がさすがに知られていないけど、
自宅の番号って、どこからかすぐに漏れてしまうものらしい。
僕が電話を受けたときはいいけど、
父さんや母さんが電話に出た時は、さすがに気まずかった。
というより、父さんにこんな話を聞かれるのは怖かった。

展示の最終日、僕は放課後に怜と久し振りに待ち合わせをした。
展示の終った絵を受け取りに行くためだった。
その絵は、自宅に飾るわけに行かないから、そのまま怜に貰ってもらうことになっていた。
週末だったから、そのまま怜の家に泊めてもらうことになるだろうし、
そうなると、なんだか絵の中の怜と、本物の怜とに囲まれてるような気分になるだろうなと、
僕は一人でウキウキしていた。

でも、会場につくと、あの絵はすでに取り外されていた。
ぽかっとそこだけ空白になった白い壁を見た時、なんだか厭な予感がした。

「・・・おい、まさか・・・」

例の脅迫電話のことは怜にも話してあったから、
怜も同じことを考えたのかもしれない。
急いで係りの人を捕まえて聞いてみたら、

「ああ、水島さんの作品なら、お父様が来て持って還られましたよ」
「父さん・・・?」

ここで燃やされたり、傷つけられたりしたわけではないとは思ったが、
さらに悪い状況が心に浮かんだ。

「なんで本人以外の奴に渡すんだよ!」

怜が、気色ばんで係りの人に詰め寄ると、

「・・・いや、こちらとしても、閉館の五時までは展示しておきたいと申し上げたんですが、
どうしてもすぐに持って帰るとおっしゃって・・・」

その言葉が終らないうちに、怜が僕の腕を掴んだ。

「行こう」

僕は言葉もなく頷いて、表に停めてあった怜のバイク
(ほんとはシンさんに借りたものだったけど)の後ろに飛び乗った。

父さんが、あの絵を持って帰ったということは、
言うまでもなく、父さんの目にもあの絵が触れたということだ。
どんな感情が、父さんの胸に湧き上がったかは、容易に察しがつく。

無言のままバイクを飛ばし、僕の家に向かう。
でも、家に辿り着くまえに、匂いでわかってしまった。
家の庭から、黒い煙が上がっているのさえ見えた。

「父さん!」

バイクが止まるや否や飛び降りて、門を開けると、
庭の芝生の真ん中で、僕の絵が――というより、怜の肖像が
煙を上げて燃えているのが目に飛び込んできた。

「やめて! 何するの!!」

思わず父さんにつかみかかった僕を、傍で見ていた母さんが引きとめた。

「まったく、こんなものをあんな人目につく場所に晒して、
恥ずかしいと思わないのか」

父さんは、表情一つ変えなかった。
そうしている間にも、絵はキャンバスの表面に火の幕を走らせるようにしながら燃えていく。
僕が思わず悲鳴をあげた。

「怜!」

絵が燃えてしまうからじゃない。
燃え上がっている炎の真ん中に、怜がダイビングするみたいに身体を投げ出すのが見えたからだった。






最終更新日時 2005年3月19日 5時59分40秒
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2004年12月17日

  美術コンクール会場にて(はると)

「学生美術コンクール」の入賞作品が展示されている
区民ホールに着くと、
うちの学校の美術部顧問の前田先生と、
それから部長の中根さんが来ていて、
僕の顔を見るなり駆け寄ってきた。

「水島くん!」
「あ、先生、先輩、あけましておめでとうございます」

中根さんは、女の人にしては珍しく、
僕の隣りに立つ怜に見とれたりはしなかった。
という以前に、何か早急に話したいことがあるらしく、
顔がすごく高潮している。

「どうかしましたか?」
「どうもこうもないわよ。なんでもっと早く来なかったの?」
「は?」
「さっきまでね、画家の小林洪声先生が来てらっしゃったのよ」

小林洪声というのは、地元出身の洋画家で、
今はニューヨークを拠点にして活動しているはずだが、
お正月だから一時帰国していたのかもしれない。

「へえ、すごい。僕も逢いたかったな」
「そんなノンキな話じゃないのよ。
あのね、小林先生、随分長い時間、水島くんの絵の前に立ってらしたのよ」
「うそ・・・」
「本当よ。金賞受賞の作品なんかより、ずっと貴方の『朱翼』がお気に入りだったみたい」

嬉しいというより、なんだか怖いような話だった。
あの人気画家の小林洪声が、僕の絵を見てくれたってだけでも嬉しいのに、
気に入ってくれたみたいだなんて・・・。

「だからね、水島くんがここにいたら、
どんなに喜ぶかなって先生と話してたのよ。
もしかしたら何かアドバイスもらえたかもしれないし・・・」

本当にそうだ。
でももしかしたら、『下手な絵だなあ』と思って見てらっしゃったのかもしれないし・・・。

先輩と話し込んでいるうちに、怜は気を利かせたのか、
傍にいなくなっていた。
どこ行ったのかなと目で探すと、
奥まった柱の陰に立って、そこに掛けられた僕の絵――怜の肖像――をじっと見ている。
学校の文化祭の時、怜は来られなかったから、
怜がこの絵を見るのは初めてだ。
なんだか照れる。

「・・・怜」

先輩たちに挨拶して別れ、怜の傍へ行くと、
怜はクルッt振り向いて、

「いつか俺がCD出せたら、これをジャケットに使いたいな」

と笑った。

「そんなことしたら、いくら中身が良くても売れなくなっちゃうよ」

僕が照れ隠しに笑うと、

「いや、あんがい『ジャケット買い』が殺到するかもしれないぞ。
絵の上手い下手は俺にはわからないけど、
なんだかすごく、見るものを惹きつける絵だよ、これは」

そう言って、また僕の拙い作品に目をやった。



最終更新日時 2004年12月17日 5時37分35秒
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2004年12月5日

  消えたメンバー(はると)

新年が明けて、おじいちゃんの家から帰ると、僕はすぐに怜に電話をかけた。
本当は田舎の家にいる間だって、大晦日も元日も毎日だって声だけでも聞きたかったけど、
怜が毎年年末は大晦日までアルバイト、正月休は曲作りに専念してるって言ってたから、
邪魔しちゃいけないと思って我慢してたんだ。
でももう限界。
身体が遠くにいた分、実際に逢えずにいた時間よりも長く離れていたような気がして、
声だけでも聞きたくてたまらなかった。

声を聞いて、新年の挨拶をして、好きだよって気持ちを、言葉には出来ないかもしれないけど、
さりげない会話に篭められたらそれでいいと思ってたけど、
電話に出てくれた怜は、今から逢おうかと言った。

「・・・いいの?」
「ああ。区民ホールでやってる美術コンクールの展示も始まってるんだろう?
一緒に見に行こう」

曲作りって、怜にとっては大事な時間だろうし、
それにブラックテレサのみんなとも逢いたいだろうし・・・。
そう思ってちょっと気が咎めたけど、
怜の方から誘ってくれたんだから、僕が断るわけがない。

いつも待ち合わせに使ってる、駅裏の路地の奥にある小さな喫茶店に着くと、
怜はもう来ていた。
テーブルの上にはコーヒーと、僕がクリスマスにプレゼントした手袋・・・。

「よ!」

ドアにつけられたカウベルがコロンと鳴ると、怜はすぐに気付いてくれた。
でも、ちょっと顔色が冴えない。
やっぱり無理させちゃったかなと思ったけど、とりあえず席について、
温かいココアを注文する。

「どうだった、田舎は」
「・・・うん。相変わらずだよ」
「そうか。俺にはおじいちゃんとかおばあちゃんとか、
親戚一同で集まる正月なんて縁が無かったから、ちょっと羨ましいけどね」

そうだ。
怜はずっとお兄さんとふたりで生きてきたから、
大家族で過ごすお正月ってのを知らないんだ。
なんだかんだ言いながらも、お年玉いっぱいもらって、
ゲームしたりご馳走食べたりして過ごすのが当り前だと思ってた僕は、
やっぱ脳天気な幸せ者なんだなと思う。

「怜の方はどうなの?いい曲出来た?」
「・・・う~ん・・・」

怜はちょっと考え込むような素振りをして、冷めかけたコーヒーを一口飲んだ。
怜がこんな顔をするのは珍しかった。
音楽に関しては、いつも前向きで自信満々なのに・・・。

「やっぱ今日、出てこないほうが良かった?
集中力切れちゃったんじゃない?」
「いや、そんなことはない」
「ならいいけど。他のメンバーの人たちも元気なの?」
「それが・・・」

怜の表情が、更に曇った。

「何かあった?」

きっと年が明けたら「活動自粛」も解けて、
またブラック・テレサの6人で活動開始するんだろうなと思っていたけど、
上手くいっていないんだろうか・・・。

「トモキと、リョウに連絡が取れないんだ」
「え?」
「去年の暮れに、ちょっと借りたいバンドスコアがあったんで、
何回かトモキの携帯にかけたんだけど、ずっと電源が切れたままになってて、
そのあとコウが電話してきて、リョウが行方不明だって・・・」
「ふたり、一緒に旅行にでも行ってるのかな?」
「いや、そうじゃないと思う。リョウはともかく、トモキは他のメンバーに何も言わないで温泉旅行に出かけるような奴じゃない。
ブラックテレサのバンドスコアは全部あいつのパソコンに入ってて、
いつ誰が必要だって連絡してくるかわからないんだし・・・。二人一緒なのは確かだと思うんだが・・・」
「じゃ、どうして?」

以前、あの高城武志に智樹さんが拉致られて、
それを助けに行こうとしたリョウさんまで巻き込まれて、
何日か後にひどい状態で戻ってきたことがあった。
あの時の事が、怜の頭にもよぎっているに違いない。
武志の消息もわからないままだし、僕も不安になった。
だけど、怜がこうやって仲間おもいなところを見せると、
こんな状況の時に不謹慎だと思いつつも、僕は少し嬉しくなる。

「ただ、シンのところには一回だけリョウから連絡があって、
家族の事情でしばらく戻れないとか言ってたらしい」
「家族の事情?」
「ああ。確かにそう言ったらしい。でも、リョウのとこって親父さんとリョウのふたりきりのはずなんだ。
いったい何のことを言ってるのか・・・」
「心配だね」

そのあと、少し長い沈黙があった。
でも、怜の方から、

「まあ、それはさておき、今日はお前のおめでたい日なんだ」
「え、どうして・・・?」
「コンクールで受賞したんだろ。
未来の天才画家さんの晴れの受賞作を見に行こうぜ」
「・・・う、うん・・・」

いいのかな、と思ったし、なんだか怜と一緒にあの絵を見るのは恥ずかしい気がしたけど、
せっかくそう言ってくれてるんだし、
リョウさんたちのことについては、向こうから連絡が入るのを待つしかない。

僕たちは店を出て、少し風が冷たい新年の街を歩き出した。




最終更新日時 2004年12月5日 7時42分6秒
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2004年11月28日

  兄に捧げる花(はると)

年末年始、僕とお母さんは毎年、お母さんの実家であるY県の田舎で過ごすのが好例になっている。
物心ついた時からずっとそうだけど、記憶にある限り、お父さんが一緒に来た事はない。
お婆ちゃんが何度か、

「誠司さん(父の名前)は今年も顔出さないのかい」

なんて言っていたのを覚えているが、
そのたびにお母さんは、

「仕事が忙しくて・・・」

と言葉を濁していた。
ここ何年かは、そんな会話すらなくなった。
「誠司さん」は、この田舎の家では存在しない人なのだ。
ちょうど、お父さんの中に僕という子供が存在しないように・・・。

祖父母は優しいし、同居している伯母さん(母の姉)夫婦や、
歳の近い従兄弟達に会うのは楽しみだが、
どうしても苦手な瞬間がある。

それは、お婆ちゃんや親戚の人たちが僕を見るたびに、

「遼人か。大きくなったな、もう中学生か?」

って聞くことだ。
中学生じゃなくて高校生ですよ、って訂正すると、

「そうか、もうそんなになるか・・・」

そのあと、小さな沈黙が訪れる。
普通ならそのままやり過ごしてしまうほどの沈黙だけど、
僕には分かっている。
僕が成長する姿に、みんなは亡くなった兄の薫人を重ねている。

あの子が生きていれば、もうこんなに――あるいはそれ以上に――
大きくなったんだろう。

そんな思いを、僕は沈黙の仲に嗅ぎ取ってしまう。

兄は、小学生の時にこの家の近くの川でおぼれて亡くなった。
父は母の不注意を責め、以来、この家には寄り付かなくなった。
期待を掛けていた長男を飲み込んだ川の匂いにすら近づきたくなかったのだろう。

両親は離婚を考えたらしいが、
その時、僕が母のおなかにいることがわかって、思いとどまった。
僕は、死んだ兄の生まれ変わりとしての父の期待と、
子供を亡くした母の償いの希望を背負って生まれてきたようなものだ。

僕が、もうちょっと父の期待に応えられるくらい聡明で強い子供だったら、
両親の関係も変わっていたかもしれないし、
父だって、お正月にはこっちの家を訪れたかもしれない。

いや、それはないかな。
所詮、死んだ人間は死んだ人間だ。
僕はその人の代わりにはなれないし、
そんなことのために生まれてきたんじゃない。

そんなふうにキッパリと考えられるようになったのは、今年が初めてだった。
怜と出会ったことが、僕を強くしてくれたのかもしれない。

「ねえ、おかあさん・・・」

お正月を迎える準備は忙しい。
こっちへ返ってくるや否や、ノンビリする間もなくエプロンを掛けて掃除や買出しに走り回ろうとするお母さんに、僕は声を掛けた。

「なあに、遼人」
「あの、川へ行くの、今年は僕が一人で行ってもいい?」

母は驚いて目を丸くした。
「川へ行く」と言うのは、この家の人にだけ通じる言い方で、
兄の亡くなった川のほとりに、毎年花を手向けに行く事だった。
僕はそれが嫌で嫌で、いつも母に無理やり連れて行かれていた。
それが今年は、自分から、しかも一人で行きたいと言い出したのだから、母が驚くのも無理はない。

「・・・大丈夫?」
「うん」
「そう、じゃ、お願いしようかしら・・・」

お母さんは泣いているように見えた。
でも、僕を見る目は微笑んでいた。
少しだけ、僕は自分が強くなれたのを感じた。
そしてそのことが、お母さんをこんな風に微笑ませて上げられた。
それが嬉しかった。



最終更新日時 2004年11月28日 7時22分42秒
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2004年11月15日

  幸福な時間

「さてと、なんか飲むか?」

怜が、ゆっくりとベッドから身体を起す。
いつの間にこんなに暗くなっていたのだろう。
明かりのない室内で、窓のカーテン越しに入る微かな光の中で、
怜の身体はシルエットになっていた。
でもその輪郭だけで、彼がどんなに綺麗だか、僕にはよくわかる。

「水がいいな・・・」

自分でも気付かないうちに大きな声を出していたんだろう。
喉が渇く・・・というよりは、ヒリヒリして痛いほどだった。

怜が立ち上がって、キッチンに入っていったあと、
僕は気だるい腕を伸ばして、そこに掛けられたブレスレッドを眺めた。
腕を少し動かすたびに、シャラシャラと流れる鎖の音が耳に心地いい。

「ごめんな」

グラスに入れた水を持って、怜が戻って来る。

「うち、ミネラルウォーターなんて洒落たもんねえから、
水道の水だけど・・・」
「いいよ。それで充分」

手を伸ばしてグラスを受け取ろうとした時、
怜の顔覆い被さってきた。
素早くグラスの水を口に含んで、そのまま僕の唇がふさがれる。

「・・・んっ・・・」

舌を伝って、生ぬるい水が口の中に流れ込んでくる。
カルキ臭い水。
でも、怜にそうやって飲ませてもらうと、不思議とそれは甘く感じられた。

「・・・ありがと」
「もういいのか?」
「・・・うん」

本当はもっとそうやって飲ませて欲しかったけど、さすがに恥ずかしくなって、
僕はゆっくり身体を起こし、グラスを受け取ると、後は自分の手で全部飲んだ。

「今夜、泊まれるんだろ?」
「うん。そのつもりで来たし・・・」
「よかった」

薄暗がりの中で、怜の顔に笑みが広がったのがわかった。

「ゆっくり話が出来るな。
なあ、こないだ言ってた区の絵画コンクールの話だけど、
展示会はあるのか?」
「うん。G町の商工会館で、あさってから一週間だって」
「一緒に見に行こうか」
「え、なんか恥ずかしいな」
「いいじゃん。行こうよ」
「・・・うん」
「お前の画家への第一歩だもんな」
「そんな・・・画家なんて無理だよ」
「でも、そんな夢とかあるんだろ?」
「まあ、少しは・・・」
「才能あるよ、ハルは・・・」
「どうかなあ・・・」

僕らは、とても幸福で、とても満ち足りていた。
僕が怜と深く強い関係になるきっかけともなったあの絵が、
たとえ小さなものであるとはいえ、賞をもらえて評価された事は嬉しかった。
けれどその絵が、また僕たちに災難をもたらす事になるなんて、
このときは想像すらしていなかった。



最終更新日時 2004年11月15日 5時48分14秒
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