カテゴリ:カテゴリ未分類
今日は趣向を変えてまじめな科学ネタ。ポピュラーサイエンス系の雑誌であるNew Scientist誌2495号(2005年4月16日)の10ページにある小さな記事の紹介である。
DNAが生き物を作ったり動かしたりするプログラムを担っていることは、既に常識となっていると言って良いだろう。 さて、磁気メディアに書き込まれたコンピュータのプログラムは、磁気のセンサーをメディアに近づけて磁気情報を読み取る。では、DNAのプログラムはどのようにして読み取ることができるだろうか。 この記事によると、DNAの情報を読み取る基本的な手法が大きく変わるかもしれない。より大量に安く処理できる方向に。 【DNA】 ごく簡単に言えば、DNAは4種類の文字が並んだ構造をしている。とりあえず4色のレゴブロックを、分岐も何もなしに縦一列にひたすらながーく繋げた状態でも想像しておいてもらえると良いかも知れない。体内では、その文字の並びを再現する機構が備わっているため、DNAを複製することができる。 人が読める形で読み取る時も、その複製の機構を活用する。用意するものは、文字を読み取りたい元のDNA、複製機構(酵素)、各々の文字についてのパーツ(レゴで言えばブロック)である。 【従来の方法】 従来法(Sanger法)でポイントとなるのは、そのパーツの中に、特定の文字についてだけ不完全品(レゴで言えば突起のないブロック)を少し混ぜておくことだ。 複製機構が元のDNAをみながら反応を開始すると、特定の文字にだけ不完全品が混ざっているのだから、その文字のところで途中で反応が止ってしまった不良品が出てくる。その不良品の長さを測定するのだ。それによって、その長さの位置にはその文字があることが分かる、というわけである。これを4文字のそれぞれについて行えば、一通り読み取ることができる訳だ(実際にはその不完全品に、各文字毎に違う色をつけておくことで、反応は一回で終えられるようになっていることが多いが、初期にはここで書いたように一つのDNAを読むために4つの反応を行っていたのである)。 この方法では、その原理からして必然的に多量のDNA分子を必要とする。また、いったんまとめて反応をしておいて、次に長さの測定を行うので、二種類の段階を経ねばならず、自動化にある程度限界がある。 【新しい方法】 一方新しい方法は、一個のブロックを繋ぐたびに何がつながったかを確認するという方法を用いる。 用意するものはおおむね同じだが、DNAの「レゴブロック」にあらかじめ加工をしておく仕方が異なる。次のブロックがつながらないように、邪魔をするものを取り付けておくのだ。言わばレゴブロックの突起にカバーをつけておくのだ。 ポイントはそのカバーによって次の文字の反応には進まなくなること、何の文字のブロックが入ったのか読み取れること、そして次の文字を読みたい時にはそのカバーをきちんと外せるようにすることである。 具体的には、各文字のブロック毎に文字毎に決められた色の蛍光色素を付けておくことで、どの文字が入ったかを読み取れるようになっている。そして、その色素と「カバー」をブロックと結合する部分を、レーザーを当てることで結合が切れるように細工してある。この細工により、一段階の反応終了毎にレーザーを当てることで、次の反応に進めるようにすると同時に、それまでの色も消せる(次の文字を前の文字の干渉なく読み取れる)ように設計されているのだ。 人によっては、むしろこの方が従来法より素直な読み取り方のように感じられるのではないだろうか。 しかしここでは、一個のブロックの反応が終わったら、完璧に反応を止めること、それを読み取り終わったら、次の反応を完璧に再開させる事が重要になる。 一段階毎の反応効率が99%だと、100個目には正しい反応をした分子の割合は36.6%しかないことになり、noise<signalとなってしまうのだ。 原理のアイデア自体に特筆することがある訳ではない。しかし、具体的に反応が厳密に制御できるようになって初めてこのような方法が可能となったのであろう。 【インパクト】 期待されているのは、安価で高速度なDNAの読み取りが可能になることである。 現在、DNAマイクロアレイという手法が有り、スライドグラス上の数千~数万のシグナルを検出することができる装置が、かなり一般的なものとして普及しつつある。また、自動化技術も発展しており、さらに蛍光色素と検出機構の発達により、1分子でも検出可能となってきている。これらを組み合わせることで、例えば一枚のスライドグラスで、DNAの情報を同時に多数自動的に読み取ることが可能となるかもしれない。 また、その検出能力を考えると、1サンプルのDNA中の不純物の検出なんかにも使えるようになるかもしれない(組織中のガンに至る変異を持った細胞の割合を測定する、etc...)。 応用としても興味深いものがあるように思われる。 最後に繰り返しになるが、アイデアが面白いのではない、これによって加速されるであろう何かに思いを致すのが面白いのである。 【原文】 なお、この原論文はweb上で入手可能である。通常新しい号の論文は購読者しか読めない雑誌であるのに、既に読める状態になっているあたりも、いかに注目を集めているかということの現れであろう。 Proceedings of the National Academy of Sciences, DOI: 10.1073/pnas.0501965102 【あとがき もしくは言い訳】 私は現在この分野にいる訳じゃないのでいろいろ誤解しているかも知れません。ご指摘いただければ幸いです。 そもそもこのエントリを上げて見たのも、単純に記事を読んですげ!おもしれ!と思ったと同時に、
との言われようが面白くて紹介してみようと思っただけだったんですが、なんでこうなったのやら(^^;。 余談。私が初めて読んだ生化学の専門書であるストレイヤーの教科書では、DNAはそのままじゃ塩基配列を決定できないから、いったんRNAにしてから、それをペーパークロマトなどで分離する、ってなことが書かれてました。隔世の感ですな。……一応念のため言っておくと当時既に古いとされていた教科書を読んじゃったためであって、もうSanger法が使われてた時代のことですからね。そこまでの年齢ではないです(^^;。そんな時代もあったのね、ということで。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/04/21 02:10:15 AM
コメント(0) | コメントを書く |
|