おもいでばなし…5…『哀しい夜』 12月の寒い夜。 夜中にふっと目が覚めたりっこは、 指先に血がいっぱいついているのを見て母さんを探した。 何処を探しても母さんは・・・父さんもいない。 ティッシュで鼻をおさえながら、りっこは外に出た。 星が夜空いっぱい瞬いていた。 どうして、母さんと父さんがそこにいると感じたのか・・・ ただ「行かなくちゃ」という衝動でパジャマのまま夜の道を歩いていた。 どうやって辿り着いたのかも記憶は消えている。 沢山の大人たちが蠢いているところ・・・ 険しい表情・・・涙・・・慟哭・・・ その中に母さんがいた。 やはり泣いている。 みんな哀しみの中にいた。 あったことのない父の兄… その伯父さんが亡くなった夜だった。 明日は娘のピアノの発表会 晴れ舞台のためにドレスを買って 喜ぶ顔を思い浮かべながら深夜に帰宅する途中 居眠り運転の車は大破した 詳しいことはりっこは知らない。 誰も話さない。 だからりっこも聞かない。 あの夜、何がりっこを導いたのかわからないけど あの場所に行ったこと・・・ 哀しい夜の記憶はずっと消えない。 |