330662 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

おもいでばなし…5…


『哀しい夜』

12月の寒い夜。
夜中にふっと目が覚めたりっこは、
指先に血がいっぱいついているのを見て母さんを探した。
何処を探しても母さんは・・・父さんもいない。
ティッシュで鼻をおさえながら、りっこは外に出た。

星が夜空いっぱい瞬いていた。
どうして、母さんと父さんがそこにいると感じたのか・・・
ただ「行かなくちゃ」という衝動でパジャマのまま夜の道を歩いていた。

どうやって辿り着いたのかも記憶は消えている。

沢山の大人たちが蠢いているところ・・・
険しい表情・・・涙・・・慟哭・・・

その中に母さんがいた。
やはり泣いている。
みんな哀しみの中にいた。

あったことのない父の兄…
その伯父さんが亡くなった夜だった。

   明日は娘のピアノの発表会
   晴れ舞台のためにドレスを買って
   喜ぶ顔を思い浮かべながら深夜に帰宅する途中
   居眠り運転の車は大破した

詳しいことはりっこは知らない。
誰も話さない。 
だからりっこも聞かない。

あの夜、何がりっこを導いたのかわからないけど
あの場所に行ったこと・・・
哀しい夜の記憶はずっと消えない。

nitizyou1.gif



© Rakuten Group, Inc.