330658 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

おもいでばなし…10…

 …初恋はうばうもの…

そのひとのことを思い浮かべるだけでドキドキする。
ましてや、その姿が瞳の中に映ろうものなら…

   恋の始まり。

そのひとを初めて見たのは16歳になる春のこと。

高校の入学式のことだった。

一際背が高い…わけでもないのに
やたら視界に頻繁に入りこんでくるひと…
というより、眼がくぎづけになっていたのだろう。
経験したことのない感情だった。
気になってしょうがない。

同じクラスになって
自然と姿を目で追う自分に気づいたときは「やばい」と思った。

一週間が過ぎる頃
クラスのレクで自己紹介のスピーチが始まった。

何を血迷ったか…
一通りの自分の紹介を話し終えたとき
「もう一言いいですか…」と別に許可の返事を待つ気もなく続ける…

「わたしはこのクラスになって好きな人ができました」


   シーーーーンとする教室。


そのひとは 
みんなから「しろう」と呼ばれていた。







 …NextSeen…

「わたしは生まれて初めて憧れる人に出会いました。

  それは…○○しろうさんです!」


りっこの爆弾発言は瞬く間にひろがって…
(でも…ま、1学年10クラスの内のせいぜい4クラス程度の話題かな)
ついでに皆に冷やかされ…末には祝福されるという
怒濤の高校デビューとなった。

そのひとは
すでにバレー部への入部が決まっていて
スポーツマンのオーラが全身漲るひとで。

入学式の日に見初めてから
僅か一週間の間…

立ち振る舞い
仲間との会話
すべてが
瞳の中に収まりきらないくらいに
眩しくて眩しくて仕方なかったのだ。

肝心のそのひとの反応はというと…
「好きです」宣言の瞬間は
…「一瞬息が止まった」そうだ。(後日談)

実は
りっこも気持ちを抑えきれずに言ってしまったものの
その後のことは全く考え無しの見切り発車…故に
ふたりの間には
「伝説の自己紹介」以上の刺激的な出来事は起こることはない…

        
  はずだったのに。






 …LastSeen…

愛しき心は維持されつつ
いよいよラストシーンへ突入…

お互いに違う
それぞれのステージで青春を謳歌する日々(古くさい言葉だけれど…)
ときおり視線を絡ませても
気持ちまで会話する距離は持てないままで
あの日の勇気はもう二度と湧き出ることはなかったな。
所詮
この想いがむくわれることは不可能だったし…

  でも気になるひと…には変わりなく。

高校生活最後の1年はクラスも別れてしまい
いよいよ、その日を迎えるまで
近くてもとても遠い存在だった。

これからのお話は
今まで誰にも話していない…ふたりだけの秘密。

別れの日まであと数日という日の放課後のこと。
偶然、中庭で一緒になった。
他愛もない挨拶程度の言葉を交わした後
りっこは意を決して
出逢ったばかりの頃の
あの「好きだった」気持ちを笑いながら話す。
そのひとも
「気になっていたけど、あれっきりだったね。」と笑う。
なんだか一気に恥ずかしくなって俯いていると

「ねぇ、お願いがあるんだけど…」と、その人が言う。

「前から憧れていた…その髪に触らせてくれないかな。」



何を言い出すのかと思ったら…

とても驚いたけれど、素直に

「いいよ、どうぞ!」と、そのひとに背を向けた。


   心臓がバクバクと鳴り始める…


   そのひとの手が触れるのを背中越しに感じながら。







 …彩りのとき…

「やわらかい…きれいだね。ずっと前からこうしてみたかった。」

そんな言葉を 
まさか、そのひとの口から聴くことが出来るなんて…

そのひとは
りっこの髪を優しく撫でてくれた。


「わたしも、お願いしていいかな…」

「いいよ、なに?」

「目を閉じてくれる?」


    flower5.jpg



「…じゃあ、また明日!」

すばやく体を離したりっこは

ほっぺたを押さえたまま
突っ立っているそのひとにバイバイをした。

長々と綴った論文の最後のページに
ピリオドを打った気分だった。


********************************************************


数年後…

奇跡のような偶然で、そのひとに再会した。

   そのひと…彼女は
   少し髪が伸びていて
   ほんの少しの面影は残しつつも
   すっかりお母さんの顔で其処にいた。

彼女のニックネームは「しろう」
りっこは再び
「やっぱり、しろうちゃんが大好きだ!」

彼女の愛娘を抱っこした。
     


 …おしまい…


© Rakuten Group, Inc.