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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2012.08.23
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ 携帯用 目次へ
<1>

俺は玉城拓(たましろ・たく)。

現在、ドルエドの王都にいる。

俺の故郷は遠く、国のはずれの方の小さな村だ。

ちなみに、俺の家はそこの領主をしている。

なぜ俺が何週間もかかるこんな遠くまできたかと言うと、妹の許婚が結婚を目前に家出同然に逃亡したからだ。

まだ16才だし、仕方ないかもしれないが……、問題はその連れの方だ。

昔から旅を計画していたそのチビすけは、村を出たとたんに何故か『Sランク(危険人物)』のレッテルを貼られ、世間で天才だ、神童だと噂されてるという。

問題のチビすけが、通りの向こうからやってきた。

本屋の袋を抱えて、楽しそうにぶつぶつと独り言を唱えている。

(不審者にしか見えないが……)

少し髪が伸びたらしい、明るい金色が跳ね回っている。

(お前、それ寝癖だろう。しっかりしろよ)

と、俺は思うのだが、気にしてないんだろうなぁ。

のんきなチビすけが、すぐそばまで歩いて来ていた。

色つきの眼鏡は、表情は隠し切れないが、瞳の色を不鮮明にしていた。

ちびすけは、―― 俺に目もくれず、通りすぎようとしていた。

(………………)

重苦しい怒りが腹の内側にのしかかってきた。まかせるままに足を横へ踏み出す。

 ベシャン!

小気味いい音とともに、少年が顔から地面に横たわる。

腕を頭上にして紙袋を死守してるあたりは称賛すべきだろうか?

否、なんかむかつく。

ゲシ、と脇腹辺りに軽い蹴りを入れて注意をうながす。

「久しぶりに会った先輩に対して挨拶もなしで通りすぎようとは、礼儀がなってないなぁ」

低く出した声に、ビクリとチビスケが固まるのがわかった。

「なぁ、団居・儀礼」

顔の見える位置に移動して、名前を呼ぶ。

儀礼は予想通り、顔を歪めて俺を見返して来た。

「いきなり何するんだよ、危ないだろ! しかもなんでここにいるんだよ」

目元に涙をためて睨み付けてるつもりなんだから、チビスケ以外の何者でもあるまい。

「利香と了を迎えに来たに決まってるだろ」

当然のことを聞く儀礼に呆れつつ、俺は丁寧に答えてやる。何せ相手はチビスケだし。

(うんうん)

儀礼はぎこちない動作で立ち上がると服の砂をはたき落とした。

袋の中の本の無事を確かめ、ほっと息をついている。

(人が目の前にいるのに本の心配か?)

ざしざし、と足がうずくのを我慢して地面の土を掘る。

それに反応してか、儀礼は再び緊張を表した。

「あぁ、お前はどうでもいいからとっととどこへでも行けよ」

しっしっと手を振ると、儀礼は口をへの字にして走り出す。

「自分で足止めたくせに、拓ちゃんのいじめっ子!」

 うわ~ん!

とか泣き叫びながら走り去っていく15才の少年。

あれを馬鹿と言わず何と言うのか、世間に問いたい。


<2>

―― それから数分後、明らかに怪しげなマントにマスクの男が俺に近づいて来た。

身のこなしが尋常ではなく、気配は感じさせないほど薄弱なのに、隙がないのがやたら気になった。

そして、俺にいらん事実を押し付けて行った。

そいつは儀礼の隠れ護衛(?)で、なんでも儀礼は不毛の大地『死の山』を浄化する爆弾を『爆発させた』そうだ。

しかも、さらに町一つ消せる爆弾を持っていると言う。

国の管理する土地を勝手に爆破したあげく、おどしとも言える爆弾の所持。

よく『指名手配』されなかったものだ。


<3>

後ほど本人に確かめた所あっさり認めた。

しかも爆破のスイッチを押したのは未来の義弟(了)だと言う。

「もみ消しておけ」

俺の言葉に儀礼は軽く笑った。

エリさん(儀礼の母)のような笑みに思わずドキリとした自分を呪う。

「当然」

言い放ったチビスケの瞳は神童どころか、俺に……悪神の光を宿して見せた。

千夜 作2008年5月9日   (2012年10月9日改)

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最終更新日  2013.07.21 21:44:28
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