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<1> 俺は玉城拓(たましろ・たく)。 現在、ドルエドの王都にいる。 俺の故郷は遠く、国のはずれの方の小さな村だ。 ちなみに、俺の家はそこの領主をしている。 なぜ俺が何週間もかかるこんな遠くまできたかと言うと、妹の許婚が結婚を目前に家出同然に逃亡したからだ。 まだ16才だし、仕方ないかもしれないが……、問題はその連れの方だ。 昔から旅を計画していたそのチビすけは、村を出たとたんに何故か『Sランク(危険人物)』のレッテルを貼られ、世間で天才だ、神童だと噂されてるという。 問題のチビすけが、通りの向こうからやってきた。 本屋の袋を抱えて、楽しそうにぶつぶつと独り言を唱えている。 (不審者にしか見えないが……) 少し髪が伸びたらしい、明るい金色が跳ね回っている。 (お前、それ寝癖だろう。しっかりしろよ) と、俺は思うのだが、気にしてないんだろうなぁ。 のんきなチビすけが、すぐそばまで歩いて来ていた。 色つきの眼鏡は、表情は隠し切れないが、瞳の色を不鮮明にしていた。 ちびすけは、―― 俺に目もくれず、通りすぎようとしていた。 (………………) 重苦しい怒りが腹の内側にのしかかってきた。まかせるままに足を横へ踏み出す。 ベシャン! 小気味いい音とともに、少年が顔から地面に横たわる。 腕を頭上にして紙袋を死守してるあたりは称賛すべきだろうか? 否、なんかむかつく。 ゲシ、と脇腹辺りに軽い蹴りを入れて注意をうながす。 「久しぶりに会った先輩に対して挨拶もなしで通りすぎようとは、礼儀がなってないなぁ」 低く出した声に、ビクリとチビスケが固まるのがわかった。 「なぁ、団居・儀礼」 顔の見える位置に移動して、名前を呼ぶ。 儀礼は予想通り、顔を歪めて俺を見返して来た。 「いきなり何するんだよ、危ないだろ! しかもなんでここにいるんだよ」 目元に涙をためて睨み付けてるつもりなんだから、チビスケ以外の何者でもあるまい。 「利香と了を迎えに来たに決まってるだろ」 当然のことを聞く儀礼に呆れつつ、俺は丁寧に答えてやる。何せ相手はチビスケだし。 (うんうん) 儀礼はぎこちない動作で立ち上がると服の砂をはたき落とした。 袋の中の本の無事を確かめ、ほっと息をついている。 (人が目の前にいるのに本の心配か?) ざしざし、と足がうずくのを我慢して地面の土を掘る。 それに反応してか、儀礼は再び緊張を表した。 「あぁ、お前はどうでもいいからとっととどこへでも行けよ」 しっしっと手を振ると、儀礼は口をへの字にして走り出す。 「自分で足止めたくせに、拓ちゃんのいじめっ子!」 うわ~ん! とか泣き叫びながら走り去っていく15才の少年。 あれを馬鹿と言わず何と言うのか、世間に問いたい。 <2> ―― それから数分後、明らかに怪しげなマントにマスクの男が俺に近づいて来た。 身のこなしが尋常ではなく、気配は感じさせないほど薄弱なのに、隙がないのがやたら気になった。 そして、俺にいらん事実を押し付けて行った。 そいつは儀礼の隠れ護衛(?)で、なんでも儀礼は不毛の大地『死の山』を浄化する爆弾を『爆発させた』そうだ。 しかも、さらに町一つ消せる爆弾を持っていると言う。 国の管理する土地を勝手に爆破したあげく、おどしとも言える爆弾の所持。 よく『指名手配』されなかったものだ。 <3> 後ほど本人に確かめた所あっさり認めた。 しかも爆破のスイッチを押したのは未来の義弟(了)だと言う。 「もみ消しておけ」 俺の言葉に儀礼は軽く笑った。 エリさん(儀礼の母)のような笑みに思わずドキリとした自分を呪う。 「当然」 言い放ったチビスケの瞳は神童どころか、俺に……悪神の光を宿して見せた。 千夜 作2008年5月9日 (2012年10月9日改) ←前へ■ギレイ目次■次へ→ 小説を読もう!「ギレイの旅」内容はほぼ同じです。 NEWVEL:「ギレイ」に投票 ネット小説ランキング「ギレイ」に投票 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.07.21 21:44:28
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