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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2012.10.11
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ目次
<1>

遺跡に行く途中の道。

「まだなのか? 遠いナ」

ただ歩くだけなのに飽きてきたのか、獅子がつぶやく。

すでに森に入ってから数時間が過ぎていた。うっそうと茂った森の中は薄暗い。

「遺跡の調査中にはもう少し近くまで町があったけどな、今は調査も終わってつぶれちまった」

ゼラードが教えてくれる。

「遺跡が見つかるまでは、あの町もなくて、本当に人里から隔離されてたみたいだよ」

儀礼が言う。本当に、見も知らない町の遺跡にまで、何故詳しい。

ようやく、遺跡にたどり着く。

森を削り取ってできたかのような空間で上空から見れば森にぽっかりと丸い穴が開いている様に見えるだろう。

森だけでなく地面も削り取っているようで、遺跡自体は見下ろすような高さにある。

一箇所だけ建つ塔のてっぺんがやっと同じくらいの高さにある。

立ち並ぶたくさんの柱。遺跡を取り囲むように等間隔にあり、上には翼のはえたライオンの石像が乗っている。

「注目すべきは全てが遺跡の方を向いてるって事かな……」

感慨深くそれを眺めて儀礼は言う。

「まるで、見張っているみたいだろ」

「ちゃんと見張ってろよ」

ふざけた様子で石像に向かって言った獅子に、二人は笑う。

遺跡に歩きだした3人の背後で石像が瞳を光らせた。


<2>

遺跡の扉の前に立つ3人。石でできた大きな扉は重そうで三人ではとても動かせそうもない。

その扉の横には大きなライオンの石像が立っている。

「俺が先頭を行くから、黒獅子は最後についてくれ」

「了解」

ゼラードが言って、獅子が儀礼の後ろに並ぶように立つ。

それからゼラードは、門番の様な大きなライオンの石像を強く押し、向きを変える。ぐるりと回って扉の方を向く姿はやはり、何かを見張っているように見える。

ゴゴゴゴ……、と重い音をたてゆっくりと扉が開く。

「入るぞ」

それほど緊張した様子もなく、ゼラードは遺跡の中へと入って行く。

すでに調べ尽くされた遺跡。それほど危険もない。

後に続き、儀礼も中に入る。明かりは壁の上部に小さな穴が等間隔にあるだけで、随分と暗い。

「ああ、閉まると困るから、黒獅子、ライオンの横の鉄の棒を扉に挟んでおこう」

ゼラードが振り返り、門番の方を示しながら言った。

「え?」

儀礼が驚いた顔をする。

「これか?」

獅子は、ためらいもなくライオンの尾を引っ張った。

 バタン

勢いよく扉は閉まった。獅子は扉の外に残されたまま。

「それ(ライオンの尾)って、外から扉を閉めるキーだよね……?」

「ごめん、そんな簡単にひっかかると思わなかったから。普通疑うだろ?!」

管理局ランクCという評価になっている獅子。初歩の仕掛けなど知っていると思われていてもおかしくない。

困ったような、笑っているようなゼラードの声が扉の向こうからわずかに聞こえて来た。

「出て来たら覚えてろよ!」

獅子は扉に向かって怒鳴った。


<3>

目が慣れてくると、そこが広間なのがわかる。この遺跡はそれほど広くなく、この広間がほとんどメインだ。

この1階と、落とし穴等の先にある地下通路のみで、後は東南にある5階建ての塔が住居か、位の高い人の休憩所と言われている。

儀礼は薄暗いその広間を興味深げに眺める。口を開けたまま周りを見回し、意識せず、足がゆっくりと進んでいる。

その儀礼の背後へとゼラードは回り込む。腰の双剣を撫でるようにして柄に手をかけた。

「案外簡単にかかったね、もっと警戒してるかと思ったよ。シャーロット」

暗闇の中、音もなく歩きながらゼラードが言う。

「なんの話だ……?」

不穏な気配に振り返ると、眉間にしわを寄せて本気で戸惑う儀礼。

怒気も、なにもないが、明らかな殺気が感じられる。

「これで逃げられないよ」

閉まったドアを示し、前に立ち塞がり薄く笑うゼラード。

『コード認証』

突然どこからか、いや、広間中に響くような音でそんな言葉が聞こえた。

ゴゴゴ……

軽い振動と共に、広間の三方の壁の一部が扉のように上がり開く。

「なんだ!?」

驚き、戸惑うゼラード。

「まさか、今のって……、でもそれじゃ、時代が合わないし……」

「何をぶつぶつ言っている。お前がやったのか? ただでは死なないってことか? シャーロットさん」

「ちょっと待ってゼラード。何? その『シャーロット』って。その物騒な気も静めてくれないかな……」

「あなたの本名でしょう? 何者かは知らないけどね。俺はあんたを殺すように雇われただけだし」

「なんか誤解してるね、僕は儀礼だ。ギレイ・マドイ。それ以外の人になった覚えはないよ」

尋常でない殺気に冷や汗を流しながらも、この状況を考える。体が動けないわけじゃない。本当にただ殺すための殺気だけを向けられている。

「……んー、とりあえず後ろのソレをなんとかしない?」

ぎこちない動きで、ゼラードの背後を示す儀礼。

「わらわらと気配を感じると思ったら……」

そう言ってゼラードは振り返り、腰の双剣を抜く。

開いた壁の扉から、次々にキャタピラのついたロボットが現れる。

ロボットと言っても、外装は岩のようで、キャタピラに頭が乗っているだけの子供大の雪だるまみたいだ。

もっとも、雪だるまは頭から石つぶてを飛ばしたりはしないが。

暗い中、ゼラードは飛んでくる石を見事によけながらロボットを破壊していく。

(獅子が言うだけはあるみたいだな)

そう思いつつも、儀礼はほとんどいい的だ。

「くっ……」

ボコボコと当たる石にうめく儀礼。ゼラードに助けようとする気配はない。

(なんとかしなきゃな。もし、本当にこの遺跡が音声認識なら……)

儀礼は考える。

「……照らせ、ともせ」

突然儀礼が叫び出す。

(何してんだ?)

視線も向けず、呆れたようすのゼラード。ロボットを壊して、しっかり瓦礫は増やしている。

『コード認証』

再び音が響き、ボボボッと壁の燭台に次々と火が灯る。

「明るくなったね」

満足そうに儀礼は笑う。

改造銃を取り出すと、ロボットの頭を次々に破壊していく。

「なっ! ガンだと? なんて物持ってやがる。やはり金持ちらしいな。明かりも金で買ったのか?」

きりのないロボットにいらだたしげに言うゼラード。

「時代の年数に合わないけど、どうやら音声認識型らしい」

肩をすくめて答える儀礼。

「言葉がキーか! なら、開けろ、逃がせ、解放しろ、放て」

「やめろ、むやみに言うと……」

 ガコン

確実に、大きな仕掛けの動き出す気配(揺れ)。

広間の最奥の壁、兼柱が崩れ出した。

いや、違う。崩れたのではない。それは……振動を伴って、動き出したのだ。

 ダシーン!

重たいブロックの塊が、地面につき、建物中を揺らす。

付近にいただるまロボットは巻き込まれて瓦礫に変わっている。

 ダシン、ダシン!

準備運動でもするかのように、腕を振り回し、周囲のロボットを一掃する。

難を逃れたロボット達は蜘蛛の子散らすように、もときた扉へ逃げ帰っていく。

その柱から掘り出されたかのような巨大な二足歩行ロボット。古代遺跡に度々登場するガーディアン。

しかも、この大きさと、速さ、パワー、A級と見て間違いないだろう。Aランクのガーディアン、Aランクの上級冒険者数人でやっと相手のできる化け物だ。

「なんだ……! これ……」

絶句するゼラード。

「こんな仕掛けがあったなんてね……。遺跡の新要素発見、人命消滅。どっちが本当の目的なんだい? アサシン(暗殺者)さん」

目の前のガーディアンに驚きつつも、ゼラードに返す儀礼。

「ま、両方達成できそうだけどね。ひとまず、逃げよう」

冷や汗を流すと、儀礼は熱を発する煙幕を張り、ゼラードの手を引き、細い道へと走り出した。

千夜 作2008年6月30日   (2012年10月30日改)ギレイ目次





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最終更新日  2012.11.02 20:35:22
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