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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2012.10.12
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ目次
<1>

ガーディアンに追われ儀礼とゼラードはいくつもの道を曲がる。段々と入り組み、複雑になる道。逃げている途中で細い通路に入った。

ガーディアンの大きさではこの道には入れないだろう。

敵の追跡を振り切ったとみたのか儀礼の前を走っていたゼラードが足を止めた。

そして、

「悪く思わないでね、シャーロット。これが俺の仕事なんだ。」

そう言って、振り向きざま抜いたままだった剣を儀礼の首にあてる。

「親友なんて言われて、あの男を味方にして守ってもらってたみたいだけど、自分の正体も黙ってるなんて、本当に親友なんて言えるの?」

シャーロットを傷つけるのを楽しむように、彼女の傷つきそうなことを笑いながら言うゼラード。

その背後で揺れる蝋燭の火が、より一層光景を不気味に演出している。

「悪いけど、僕はシャーロットなんかじゃないよ。人違いで殺されるのは遠慮したいね」

首に剣をつきつけられた状況で儀礼は余裕そうに笑っている。

「そんな嘘を……。何故笑っている」

「君が、何も感じていないから」

儀礼は言うと、袖からロボットの腕のような物を伸ばし、ゼラードが動くよりも早く、壁の燭台を倒した。

ゴゴゴゴと振動がして、すぐそばの壁が開くと、その場にはあのガーディアンがいた。

瞳を光らせたかと思うと、巨体は無数のつぶてを放つ。

儀礼の首から剣を離し、後方へ跳びずさるゼラード。

(あいつはよけられない)

手間が省けたと、ゼラードは口の端を歪める。

儀礼は、瞬時にポケットから液体の入った薬瓶と水筒を取り出し、中身をぶちまける。

 ガシャーン!

という音と共に、液体が凍り付いてゆく。氷の壁はつぶてを飲み込み細い通路を塞いでいた。分厚い氷は水筒に入る容量ではない。

「何をした!?」

着地と同時に、起こった出来事に叫ぶゼラード。

ガーディアンから逃れるように駆けてくる儀礼に我に返り、ゼラードも身を翻して走り出す。

「企業秘密……かな?」

と、儀礼は並走するゼラードにいたずらっぽく笑って言う。

「ちっ、アルバドの魔法使いか」

苦々しく舌打ちをする。

「いや、そうじゃなくて……。あ!」

苦笑した儀礼だったが、突然何かに目を止め叫ぶ。

「ぁあ?!」

何だ? と問うゼラード。

「ごめん、遅かったみたい」

ガコン、とゼラードの踏んだレンガが沈み込む。途端に、二人の足元が口を開ける。二人は足場を失い暗い穴へと落下した。


<2>

「くっ」

ゼラードは衝撃に構える。儀礼はそんなゼラードを抱き抱えた。

「な、何する!」

驚くゼラードだが、次の瞬間強く放り出され、衝撃に襲われる。

「うっ」

ゼラードは顔を歪める。衝撃を逃すためごろごろと幾度か地面を転がった。受け身は取ったが、かすり傷は仕方がない。

 バシャーン!

すぐ近くで激しい水音がし、顔や服に水が跳ねてきた。起き上がり、周囲を確認する。

洞窟のような暗い空間。頭上の穴はバタンと閉じられた所だった。

下は……目の前には底の見えないほど深い池。暗く、真っ黒に見える水。中にまで続いている白い泡は今、そこに何かが落ちた証。

「……シャーロット?」

咄嗟に出ていた声だった。その人を殺しに来たはずだったのに……。心配している自分に気付く。

戸惑ったように立ちつくすゼラード。深い水の底からその人の上がってくる気配がない。

水の中に手を伸ばそうとしたとき、白い影が池の底から上がってきた。

「ぶはっ! はぁ、はぁ、げほっ」

池の中から、びしょ濡れになった儀礼が姿を表した。

「はぁ、よかった。ごめんね、怪我してない?」

苦しそうに息を荒げ、池からよじのぼり、儀礼が言う。

「……っ。俺は平気だ! なんで俺を……」

どうみても、自分を庇ったようにしか見えない。一つの階から落とされた位、着地できるのに。下が水でなかったなら、だが。

「ごめん、足場が見えたから咄嗟に」

そう言って儀礼は震えるように腕をさする。

「やっぱ寒いね」

軽く笑ってみせる儀礼。

「何のつもりだ……! シャーロット」

秋も半ば。暗い遺跡の底にたまっていた水は凍えるほどに冷たいだろう。苦しそうに儀礼を睨み付けるゼラード。

「いい加減信じてよ。僕は『シャーロット』じゃないし、男だって。ほら」

そう言って、重そうに白衣を落とし、水に濡れた上着を脱ぐ儀礼。面倒そうに水を絞っている。

その姿から確かに男とわかる。

くるりと回り、ゼラードは儀礼に背を向けた。

そんな様子を見て、儀礼はくすくすと笑う。

「なんだ?」

と睨むように振り返るゼラード。

「やっぱり君、女の子、だよね」

にっこりと笑う表情は否定しても覆さない程度に確信してるらしい。

まぁ、別に隠していたわけでもない。女に見られないから面倒で男と通していただけだ。

「それがどうかしたか?」

と、ぶっきらぼうに答えるゼラード。仕事をするには腕が確かかどうかが重要で、性別は関係ない。

「いいや。女の子だな、と思ってさ」

言いながら、儀礼は携帯用ランプに火を灯す。薄暗い空間に儀礼の笑顔が炎に照らされた。

「女の子の服着ればいいのに。似合うよ?」

「ばっかじゃないのか。そんな恰好したらナメられるし、動きずらいだろう!」

この状況で何を言い出すのか、こいつはと、怒ったようにゼラードは言う。

しかし、儀礼に怒気がこないのをみると、実際に怒ってはいないらしい。

儀礼の準備が整うと、二人は再び歩き出す。

「……悪かったな」

前を歩くゼラードが、振り向かずに言った。

聞き取りずらいほど小さな声。

「え?」

儀礼はなんのことかわからずに問い返す。

「こんなとこに連れ込んで。あげくに、人違いで殺そうとした……」

本当に反省しているようで、ゼラードの声は元気がない。

「ま、いいよ。無事だし。今はあのガーディアンをどうするか考えないとね」

にっこりと笑っていた儀礼の顔が思慮深い、真剣なものへと変わった。

千夜 作2008年6月30日   (2012年10月31日改)ギレイ目次





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最終更新日  2012.11.03 16:53:00
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