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<1> 「思うんだけどさ、ああいう連中って、胸がない時点で僕が男だって気付かないのかな?」 自分の襟元を覗くようにして儀礼は言う。 「骨格だって違うし、鎧着てても見分けつくのに、あいつら節穴だ。」 連中もあいつらも、もちろん宿の外に転がっている奴らのことだ。 「中味を知らないからだろ。」 儀礼を見て、当たり前のことの様に拓は言う。 儀礼の顔の造りは確かに、母親であるエリによく似ている。 しかし、笑顔も声も仕草も、全てが優しく慈愛に満ちたエリとは、似ても似つかない儀礼の中味。 拓は、それに気付きもしない外の連中を嘲る。 「つまり、 白衣をつまみ、違う意味で大いに納得している少年。 自分のせいではなく、連中の勘違いは白衣のせいだと、儀礼は言いたいらしい。 拓の言う中身が、この 「事件解決。疲れたし、あったかい布団で寝るか。」 ふぁ~ぁと、眠そうに、儀礼は伸びとともにあくびをする。 静かな廊下にその声が響く。 「お前、何もしてないだろ。」 拓が儀礼の頭を殴った。 迷惑な冒険者二人と戦ったのは拓であり、儀礼はほとんど何もしていない。 「いやいや。僕、本当に徹夜。目を離すと修行に旅立っていく若者がおりまして。」 蒼刃剣を杖の様について、儀礼はふざけた口調で説明する。 「お前幾つだよ。」 苦労話を始めた儀礼に、馬鹿にしたように拓は言う。 「 「残念、寿命だな。」 楽しむように拓は冷酷な笑みを浮かべた。 「そんな殺生な……。」 言いながら、ははは、と儀礼は笑う。 その寿命の時を早めるような書類を手にしても笑う、儀礼の性格。 知っていれば、ああいう連中も近付きはしないだろうにと、拓は思う。 初めから、男らしく戦っていればいいのだ、シエンの戦士のように。 <2> 拓を黒獅子と間違えて挑んできた、連中。 その冒険者との戦いの中、拓が疲れを感じた頃に、白い煙りは沸き起こった。 それを背にしていた二人の男の驚きは、拓を相手にするには大きすぎる隙だった。 それがただの偶然ならば、拓はきっと苛立ちはしないのだろう。 臆病な少年は、戦いを厭う。 それでいて、全てを読んでいたように、人に手を貸す余裕を見せる。 エリに似ていると思って触れた写真が儀礼の物で、改めて似ているのだと拓は思い知らされた。 やはり血のつながった親子で、親子である限り、エリは儀礼の身を心配する。 少女にしか見えないその写真が、殺人依頼の書類だと儀礼は笑って言った。 今さらながらに、それを手に入れた時の状況は危険だったのだと拓にはわかった。 煙の消えるようにどこかへいった不穏な書類。 自分よりも弱いはずの少年に『手を出すな』と言われた気がするのはなぜだろうか、と拓はまた心を苛立たせる。 部屋に戻れば、獅子が剣を持って扉の前で待機していた。 「せっかく利香ちゃんがいるんだから、ゆっくりしてればよかったのに。」 儀礼が笑うように獅子に言う。 「戦闘の気配がした。何やってきたんだ?」 眉をしかめて獅子が問う。 白と利香を二人で部屋に置いていく訳にいかず、獅子はうずうずとしていたようだ。 「拓ちゃんにお客さん。その くすくすと儀礼は笑う。 「ああ、お前の にやにやと拓は儀礼を見て笑い返す。 黒い髪、黒い瞳と言うだけで拓を『黒獅子』と思い込んだ連中は、その人を、知ったとしてもやはり気付きもしないだろう。 似ていても違う、エリと儀礼。 微笑めば目を奪われ、心奪われると、そう思えるほどに、整った天使のような顔立ち。 優しく見つめる、宝石のような深い青の瞳。 初めてエリに会った日の事を、拓は忘れない。 <3> 「まったく問題なし。だから、大丈夫だから出ておいでよ、白。布団の中にずっと居たの? 暑くない?」 儀礼は笑いながら、ベッドの上の丸まった布団に近付いた。 「そういや、何か預かってるって言ってたな。白シロってまた狼か?」 「拓ちゃん、こんな都会に狼はいないよ。」 真面目な顔で、儀礼が拓を振り返る。 これがなぜ、他の村の連中はむかつかないのか、拓には昔から不思議だった。 「んじゃ、犬か?」 拓は儀礼の隣りに立ち、その布団の中を見ようとする。 「違うよ。ほら白、珍しいシエン人がいっぱい。面白いから見てごらん。息苦しくないの?」 儀礼は、シエン人であることを強調するように言った。 見世物にされるようで、拓の機嫌は悪くなる。 「いっぱいなんていないだ――」 「出ておいでよ。」 拓が言葉を言い終える前に、儀礼に言われて、その白は顔を出した。 長い時間布団の中に居たために、蒸れて暑かったのか、顔中が血色よく真っ赤になっている。 「やっぱり、ちょっと暑かった。」 耳に心地よい元気な声。照れたように笑う子供の姿。 ベッドの上に現れた、輝くような笑顔の持ち主。 エリと同じ、宝石のような底の見えない、深い青の瞳。 エリと同じ、日の光の様に輝く細い金の髪。 エリと同じ、緩やかに笑む、柔らかそうな赤い唇。 エリと同じ、形の良い大きな目が、儀礼を見て、次に真っ直ぐに拓を見つめた。 それはエリと同じ、天使の様に整った顔立ち。 「俺は、シエン領主の第一子、拓(タク)・玉城(タマシロ)。結婚を前提に真剣に俺と付き合いを――」 白の前に立ち、全てを言う前に、拓は儀礼にはたかれた。 「白は男の子だ。」 「いや、エリさんと同じ――」 その白と呼ばれる子供を示し、拓は明らかに儀礼と違う所を上げようとするが、その前に儀礼に阻まれた。 「見れば分かるだろ、僕にそっくりだ。」 拓の襟首をつかみ、睨むように儀礼が言う。 儀礼と同じ、性別という。 「どういう確率だ。」 拓は苦々しくその子供を見た。 ギレイ目次 小説を読もう!「ギレイの旅」 219この話と同じ内容です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.03.25 22:24:44
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