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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.02.18
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ目次
 そういえば、と儀礼はパソコンのモニターに向かってから思い出だす。
アーデス達ともしばらく連絡がついていないのだったと。
獅子の治療をヤンに依頼した時にはつながったが、それ一回きり。
その前も後も、彼らからの連絡はない。
あの時もなんだかヤンは忙しそうだったなぁ、と儀礼はメッセージ欄を確認する。

 やはり、何も来ていない。
今までは、儀礼が獅子と別行動していれば、遠くからでも見張っていた護衛という名目の監視がいない。
代わりに今側にいるのはユートラスで鍛えられたというヒガ。
儀礼が蒼刃剣を見張っていたように、ヒガは儀礼を見張っていたのではないか、などと儀礼は悩む。
深夜となる今、ヒガはおとなしく簡易ベッドで眠っている。
決して儀礼が何かを盛ったわけではない。
ヒガもまた、獅子と同様回復前と言う事だ。
それでユートラスの刺客と張り合おうというのだから、やはり獅子と同レベルだと儀礼は思う。

 アーデス達から見れば、ヒガは、儀礼の敵となるユートラスの関係者。
そんな者が近くにいるのに、彼らが見張りも立てないのは怪し過ぎる、そう思っていいだろう。
『アナザー』とアーデスが儀礼の資料を動かしていたのが、今になって儀礼はとても気になってきた。
まさか、アナザーが彼らに何かをしたのではないか、と。

「いや、連絡取れないのその前からだし、ネット回線の不調は呪いのせいだったしな。」
考えすぎかと呟き、儀礼はクリームの所在地をパソコンへと転送する。
そこは、フェード国内。
しかし、一部の者しか入れないと言われる制限区域。
情報国家フェードの上層部、中枢と言われる機関のある地帯。
「まさか、さすがにこんな所に入ってくとは思わなかったよ。」
眉をひそめ、睨むようにして儀礼はモニターを見る。

 多数の妨害電波と追跡機能、防犯能力が恐ろしく高い場所。
儀礼の発信機は情報窃取などの、敵対行為と見なされかねない。
ただ発信機の所在地と地図を示すだけのモニターマップでは対応できない状況だった。
世界中全ての情報を総括すると言われるフェードの中枢、『コーテル』と呼ばれる都市。
コーテルの西側には機械技術に特化した国、カイダルがある。
他国との接触をほとんど絶っているカイダルから、先端の科学技術を入手できるのがコーテルだ。
先端の機械技術、先端の情報技術。
そして、魔法能力ですら他国に劣ることのない多数の遺跡を持つ、フェードという国の地盤。
コーテルはフェードが誇る世界すべての最先端の技術が集まる場所だった。

「クリーム大丈夫かな? 改造されちゃったりしないかな?」
その「都市」でありながら、一つの国とすら言える力を持つ場所に行ってしまった友人を儀礼は心配する。
心配の仕方が間違っている気がしないでもないが。
儀礼には、そこに繋がる伝(つて)はなかった。
もしあったなら、儀礼はコーテルと言う集団に取り込まれていたかもしれないが。

「ここなら確かにユートラスと対等に渡り合える施設がある。けど、戦争になりかねないよ……。」
下手をすれば、フェード対ユートラスという大国家同士の戦争に、大陸中が巻き込まれてしまう。
「それに、ユートラスのあの技術を、コーテルに渡していいのかな……。」
人の目に、魔法陣を刻むという、想像するだけで恐ろしい所業。
それがもし、フェードでも、実験され始めたら。

 フツとクリームの信号が途絶えた。
自分の思考に落ちていた儀礼は慌ててモニターに噛り付く。
発信機が壊れただけならいい。妨害電波で信号が途切れただけならいい。
しかし、クリームの身に何かがあったとしたら、やはり、あの女性をクリームに任せたりするのではなかったと、儀礼は焦燥に身を焦がす。
震える指が、押したいキーを打つ邪魔をする。

 ピピッ
普段は鳴らない、儀礼のパソコンのメッセージの到着音。

穴兎:“『勇者』と、金髪美人、確保したぞ。何やってんだよお前。おとなしくしてろって言っただろ。”

 現状を救う、『アナザー』からのメッセージだった。
儀礼は、天井に向かい大きく安堵の息を吐いた。

儀礼:“ありがとう。ごめん。でも、僕はその人捕まえただけ。どうなったの?”
思わず浮いていた涙を袖で拭い、儀礼は使い慣れた手袋のキーで穴兎にメッセージを返す。

穴兎:“コーテルの中にも使える集団がいてな。安心しろ、フェードにも情報は渡さない。秘密組織ぶってる連中だが、腕は確かだ。コーテルだけが世界の中心になることに疑問を抱く者もいるってことだ。”

 コーテルに属していながら、コーテルに技術を隠す人たち。
そういう者もいるのか、と儀礼は不思議と納得した。

儀礼:“そっか。ありがとう。”
穴兎:“そんでな、お前。人に発信機付ける前に、まず自分が持て。その青いやつ、絶対お前じゃないだろ。信号送りっ放しだしな。”

 言われて、儀礼はヒガの蒼刃剣に向けてポケットの中のリモコンを操作する。
確かに、目の前にあるのに、発信機を起動させておく必要はなかった。

儀礼:“うまく使えるかの調整用だったんだ。色別で信号の混同とか起きないかと思って。”
ついでに収集したデータの方を、目的として穴兎に告げる。

穴兎:“まぁ、いい。こいつを使ってユートラスの手を緩めさせればいいんだろ。しかし、またエライの連れて来たな。グレーンの愛娘(ヒメ)じゃねぇか。取り返すか殺すかで、下手したらユートラスの内部で荒れるぞ。”
文字から、にやりとした、穴兎の気配が伝わる。

儀礼:“白を守れる?”
穴兎:“しばらくはな。”

アナザーの返信に、儀礼は一応の安心を得た。引き続き、ユートラスへの警戒は怠れないが。

穴兎:“ああ、そうだ、お前の方もほぼ完了したぞ。”
儀礼:“何が?”
穴兎の言葉の意味にぴんと来ず、儀礼は首を傾げる。

穴兎:“手配書だ。87枚収集完了。ってか、破棄済み。”

「はやっ!!」
穴兎の言葉に、儀礼は驚いた。
凄腕の者たちが持っているはずの手配書を、どうやったらそんなに簡単に集められるのか。
全てをお金と交換しても、こんなに早く交渉できるとは思えない。

儀礼:“すごい! どうやったの?”

尊敬の気持ちを込めて、儀礼はアナザーに問いかける。何か、秘密の手段があるのだろう。

穴兎:“お前の駒だ。”

眼前のモニターに表示されたアナザーの返答に、儀礼の全身は凍り付く。
連絡の取れない儀礼の護衛たち。

儀礼:“……まさか、アーデスたちに何したの?!”
穴兎:“約2名、ユートラスに潜入中だ。よかったな、手配書は出回る前だったらしい。ほとんどがまだユートラスの国内にあった。”

儀礼の顔は青くなる。

儀礼:“そんな、危険なのに。”
穴兎:“お前は、あいつら甘く見すぎ。心配いらねえよ。自分の心配しろ。何だよ、昼間送ってきた殺人鬼情報は。本当に手配書持ってる奴が何人もいたぞ!”
儀礼:“殺人鬼マニアの、クガイさん提供。興味深い話がたくさん聞けたよ。”

 昼間の、長いクガイの話を思い出し、儀礼はにやりと笑う。
やはり、クガイの知っていた者は、手配書に繋がったらしい。

穴兎:“わかった。今度から直接俺に流れるように仕向けよう。”

穴兎はまた、何をする気だろうと、儀礼は頬を引きつらせる。
なんだか段々と穴兎による、儀礼の包囲網が出来ていく気がするのは気のせいだろうか。

儀礼:“せっかく楽しく聞いてるのに、クガイさんの怪談(きょうふ)話。”
穴兎:“よし、もっと怖い話を聞かせてやろうか。そのクガイ、自分の知る殺人鬼どもを、次々狩るのが趣味だったらしいぞ。”

 儀礼の口は少し開いたまま固まった。
クガイの語った、人々を死への恐怖に陥れ、昼も夜もを苦しめる『殺人鬼』と呼ばれる凶悪犯。
その悪の所業を熱っぽく語るクガイは、決して、それらの人々を褒め称えるようなことは言わなかった。
ただ、恐怖を煽る言葉を話術巧みな弁士のように次々と並び立てた。
(狩ったら減るじゃん……。)
何か、まともでない思考が浮かび、儀礼は大きく首を振った。
冒険者のみならず、盗賊や闇組織までが闊歩する世の中だ、『鬼』などと呼ばれる人は次々に生まれるのかもしれない。

儀礼:“いい趣味だよね。世の中が、平和になるよ。”
穴兎:“本気で思ってるのか?”
儀礼:“ちょっと、泣きたい……。”
そう打ち込みながらも、すでに流れた涙を儀礼は袖で拭う。
間違っているとは思う。けれど、クガイのしたことが、『英雄』なのか『鬼』なのか、儀礼には分からなくなってきていた。

 アナザーとの回線が途切れた。儀礼が切ったわけではない。
けれど、儀礼はそのまま、机の上に突っ伏して眠ることにする。とても疲れた気がしていた。
問題は一応の解決を見せた。儀礼は、予定していた二日目の徹夜をやめることにした。
ギレイ目次
小説を読もう!「ギレイの旅」
229この話と同じ内容です。





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最終更新日  2013.03.26 12:53:48
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