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「パーティ補正?」
しばらくして、幻覚の治まった儀礼は、浮かない表情をしていた白の言った言葉を繰り返した。 「うん。パーティランクが『A』だったの。」 嬉しくて興奮すると言うよりは、不思議で仕方がないといった様子で白は儀礼の手に、そのパーティライセンスを差し出した。 そのライセンスには確かに「ランクA」の文字。 「げっ。僕、目立ちたくないのに。」 思わず出てしまった儀礼の本音に、獅子が鋭い眼つきで睨んだ。 儀礼は冷や汗を流す。 「えっと。……つまり、補正値効果でどうして、こうなったのか理解できないと。」 獅子が視界に入らないように体を動かし、儀礼は白に向き合った。 白はこくんと頷く。 判明したパーティランク『A』。 それは、ギルドで名を上げたくない儀礼の、理解したくない現実でもあった。 「『A+』を持ってる人がいれば、パーティのその項目にも『A』が入るって説明されたんだね。」 確認するように儀礼は言う。 「うん。だから間違ってないんだって、受付けの人が何度も言うの。」 何度も聞き返したのか、と小さな白がギルドのマスターと問答する様子を思い浮かべ、儀礼は笑う。 冒険者ライセンスに記される6つの項目。 頭脳、知識、魔法、戦闘、体力、力。 「ランクAになるためには、項目に最低3つのAが必要なんだ。」 儀礼はポケットから紙とペンを取り出した。 『AAABBBか、 AAAABC』と書き出す。 「これがAランクの最低条件ね。どっちか以上ならAランクで、入る低い値はCが一つまで。DやEがあればAランクにはならない。項目はどれでもいいんだけどさ。」 白が頷いたのを確認して、儀礼は続ける。 儀礼は紙の上にE~Aの文字や数字を書き出した。 『E-2、D-1、C+1、B+2、A+3。 -9点未満Eランク -9点~Dランク 0点~Cランク 9点~Bランク 15点~Aランク。』 「こんな感じかな? これに仕事こなした分とか、実際の能力の補正が加わるから、絶対とは言えないけど基準ではある。僕や白は完全に経験値マイナスだけどね。」 ライセンス取得時の、初期経験値のマイナスは「-10」とされているとか噂されている。 最初に-10点されてもDランクのライセンスを取った、獅子や白やクリーム達はやはり普通ではない、と儀礼は思っている。 「公開されてないけど、多分、獅子の「戦闘」と「力」には『A+』が付けられてると思うんだ。」 今までの獅子の活躍を思い、儀礼は紙に獅子のライセンスの値(あたい)を書き出す。 獅子 頭脳E 知識B 魔法C 戦闘A+ 体力A 力 A+ 総合B 「成長したねー、獅子。知識が上がってる。」 むせび泣く真似をして、儀礼は笑う。 魔物討伐や、盗賊退治など、仕事に関する知識は、獅子にも十分ついている。 言われた獅子は、苦く笑った。 馬鹿にしているのではなく、村で獅子の専任補習教師のようなことをしていた儀礼は、本気で感動していたのだ。 「これで、パーティランクの「戦闘」と「力」の項目は『A』確定だろ。これでもうA2つ。パーティランクの底上げされてるの分かるよね。」 気を取り直したように説明に戻り、儀礼は次に白のライセンスを見た。 「パーティの場合は本人の総合ランクより先に、項目ごとの集計がされるんだ。」 獅子・白 頭脳E・C=D 知識C・B=B 魔法C・A=B 戦闘A+B=『A』 体力A・C=B 力 A+D=『A』 ↓ 総合B・D―「B」 6つの項目のうち、Aが2つ、Bが3つある。 低い頭脳のDを相殺して、パーティは十分Bランクの力を持っていることになる。 「二人のパーティランクは、Bになる。パーティの場合、経験値のマイナスが少なくなるのも理由だよね。」 ふーん、と納得したのか微妙な声を出しながら白はその紙を見る。 しかしこのパーティには、頭脳にBが必要な、書類処理の多い仕事は回せないな、と儀礼は苦笑する。 「で、問題は、僕を入れた3人の場合か……。」 呟いて、ペンを持ったまま、儀礼は痛そうに頭を抱える。 幻覚薬による頭痛は治まったはずなのだが。 書き出す前に、儀礼は頭の中に浮かんだ値を、もう一度確認する。 獅 白 儀 頭 E C A=「C」 知 C B A=「B」 魔 C A D=「C」 戦 A+B D=『A』 体 A C E=「C」 力 A+D E=『A』 総合 「B」 (『AABCCC』……ランクBのはずなんだよね。経験値のマイナスが入って、Cランクの可能性すら考えられるのに。) パーティランクが「A」であるなら、2つのCをAに変えなくてはならない。 獅子の「体力」に『A+』が入っている可能性は低い。それが獅子の経験不足。 1週間や1ヶ月の泊り込むような長期の仕事を請け負ったことがない。 そうなると、儀礼の「頭脳」にA+を付けられている可能性が高くなった。 獅子とのパーティランクがBになったのは、儀礼は獅子の偉業のせいだとばかり思っていたのに。 そして残る「C」のある項目は――「魔法」。 「白、何かやってきた?」 にっこりと微笑んで儀礼は白に聞いてみる。 儀礼の『A+』1つでは足りないのだ。 三人のパーティランクが「A」になるには。 「私は、何もしてないと思う。試験を受けてきただけだから。」 ちらりと獅子の姿を見て、白は言った。 白の容姿でギルドに入って、野次られないわけがない。 それに対してはきっと獅子が黙らせたのだろう。 (聞きたいのは、試験の内容の方なんだけどね。) 引きつった笑みを浮かべ、儀礼は、心当たりがないと困ったように首を捻る白から、詳細を聞き出すことを諦めた。 捕虜としたユートラスの女性の言葉を、儀礼は思い出す。 『国を守護する力のある精霊』、それを捕らえるのが任務だと言った。 それが白の言う守護精霊のことなのだろう。 「守る」と言葉通りに考えていたが、儀礼を守る護衛達は皆、高い戦闘能力を持っている。 軍事国家、ユートラスが狙う、一国を守る力を持った精霊の『攻撃力』。 儀礼はもっと早くに気付くべきだったのかもしれない。 予想される補正値を表にして、儀礼は紙に書き出した。 獅 白 儀 頭 E C A+=『A』 知 C B A =「B」 魔 C A+D =『A』 戦 A+B D =『A』 体 A C E =「C」 力 A+D E =『A』 総合 「A」 「これで、Aランクの最低条件『AAAABC』だ。」 複雑な思いで、儀礼は笑った。 助けるために拾った白によって、儀礼たちの弱点は補われることになったのだ。 ←前へ■ギレイ目次■次へ→ 小説を読もう!「ギレイの旅」 271話パーティ補正この話と同じ内容です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.04.21 00:08:47
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