カテゴリ:本棚 ギレイ
「権限はあると思います。」
そう言って、儀礼は自分の管理局ライセンスを隊長に見せた。 「呪われたナイフ自体も所持の許可を持っていますし。魔剣および、それに類する属性の事象には、管理局のランクA 以上の者に対応の許可が与えられています。そして、彼は冒険者ランクBに登録されていますので、相対的に問題はないと思いますが。」 儀礼のライセンスに記されたランクは『S』。 そして儀礼は続けて『黒獅子』の特徴を持つ、獅子を示して言った。 呪われた武器は魔剣の種類に含まれる。 儀礼たちには十分、それに対応する資格が与えられるはずだった。 少々難しい言葉遣いで、儀礼は強引にまとめあげた。 あまり時間をかけられると色々と、まずいのだ。 権力で押しつぶすのは気が進まないが、牢屋に入れられるのに比べれば仕方がない。 儀礼のライセンスを見た隊長が顔を引きつらせた。 「これは、なるべく内密でお願いします。いろいろと、危険が増えるもので。」 小声で儀礼は隊長の耳にささやく。 隊長からは苛立ちが消え、何か、人外のもの見るような目で儀礼を見た。 (ここまでひどい目されると傷つくなぁ……。) うつむきそうになる気持ちを何とか飲み込んで、儀礼は話を進める。 「特に問題が無いようなので、これでよろしいですか。」 しめる儀礼に対して、せめてもの意地か隊長が言う。 「とりあえず、その青年はこちらで引き取る。呪いを受けた者を野放しにはできん。」 それはつまり、牢での監禁か、青年の処刑を意味する。 「……。」 本来なら、無関係であった、ただの通りすがりの青年。 儀礼は気絶している青年をちらりと見た。 「彼の身柄は僕が引き受けます。呪いを身に受け、正気の確認ができなければ人権を失うと言うのなら、ちょうど僕の研究題材ですし、研体としていただけませんか。」 悪魔のような言葉を、綺麗な笑みの下に隠し、儀礼はさらっと言ってのける。 儀礼の言葉に、白がさすがに驚いている。 「それは我々に逆らうと言うことか?」 儀礼達を取り囲んでいた兵士達が、にわかに殺気立った。 獅子と白が戦闘態勢に入ったのがわかった。 「何があったのです?」 その時、野次馬が川を割るように道を開き、その向こうから静かな声が聞こえてきた。 神官グラン。 騒ぎを聞き付けてか、その場に噂のその人が現れた。 白に染まった髪を頭の上に結い、顔には優しそうな笑いじわが刻まれている。 臨戦態勢にあった、全員が動きを止め、その人を見た。 人々の間をゆっくりと歩き、彼女は儀礼達の近くまで来た。 「どうされたのですか?」 おっとりとしたような優しい声で、グランは隊長に問う。 はっ、と額の高さまで手を挙げて敬礼する隊長。 「彼等は危険物指定の武器を持ち歩き、かつ落とし、それを拾った男が闇により暴走したとの事でございます。」 背筋を伸ばし、上司に報告でもするかのように隊長はグランへと伝える。 「まぁ、それでその方はどなた? どうなったの?」 驚いたように瞳を開き、グランは、やはりおっとりとした声で言う。 その疑問には儀礼が答える。 「ここに寝ている青年です。すでに闇は払ったので、異常はないと思いますが……。」 「まぁ、闇を払ったの? あなたが? 見えないけれど神官なのかしら?」 咎める様子もなく、グランはやさしい笑顔で聞いてくる。 崩れることの無い笑顔は、偽りではなく、もともとの彼女の気質なのだろう。 「貴様、グラン様に対して無礼な。素人が勝手に判断するな!」 儀礼に詰め寄り、怒る隊長。 「いいのですよ。正直私も、闇の気配よりも、それを払った清浄な気に惹かれてここに来たのですもの。私の知る物と似ているようで少し違って。どうやったのか詳しく教えてくださらない?」 親しみを感じさせる空気で微笑んでいるグラン。 言葉の一つ一つから、優しさがにじみ出ているようだった。 「ええ、あなたにでしたら。でも、その、一つお願いが……。」 言いにくそうにする儀礼に、隊長はまた睨みをきかせる。 「貴様はどこまで厚かましいんだ! グラン様に声をかけていただけるだけでもありがたく思わんか!」 困ったように笑う儀礼。 「でも、このナイフを浄化できるのはこの方ほどでないと……できないと言われましたので。」 「原因の呪(じゅ)のかけられたナイフね。わかったわ。お預かりしてよろしいかしら?」 儀礼は白い布に包んだまま、ナイフをグランに手渡す。 聖布を開き、グランは中のナイフを確認した。 「これは……、確かに強い邪気ね。解呪には少しかかりそう。あなた、こんな物を、持っていて、よく正気でいられたわねぇ。やっぱりどこかで修行されたんではなくて?」 グランの問いに、首を横に振り、苦笑しながら儀礼は答える。 「いえ、何も。ずっとその聖布にくるんでいましたので。」 「教会の聖布よね。でも、これは……六角の星?」 再び聖布に目をやったグランが、不思議そうに刺繍された六芒星(ろくぼうせい)を見る。 聖布自体は教会の物だが、金の刺繍は儀礼が施したものだった。 「古代遺産の品の中には、六芒星(それ)で封印されているものが多くあるんです。特に凶悪な魔物や悪魔なんかを封じた物に。亡くなった祖父の研究だったんですけどね。」 寂しそうな顔をした儀礼の頭に、獅子が手を置いた。 「とりあえず、場所かえないか? 周りも暗くなってきたし。」 「まぁ、そうね。でしたらぜひ、教会にいらしてくださいな。この方の身は一度教会で保護させていただくわ。それでよろしいかしら、隊長さん?」 眠ったままの青年を示して、やさしい笑顔のまま伺いをたてるグラン。 「はっ、わかりました。」 ピシッと敬礼をして、了解を示す警備隊長。 「今私がお世話になっているのですけど、解呪の儀式も教会でないとできませんし。それであなた達も、たいしたおもてなしもできませんけど、お客様として、教会にお招きしますわ。」 にこにことしたグランの言葉に、そこまでお世話になっては、と思いつつも、儀礼達はありがたく受けることにした。 解呪の儀式には2、3日かかる。グランの聞きたがった六芒星の話も長くなるだろう。 そして何より、今までの経験上、この様な騒ぎを起こした場合、必ずと言っていいほど……、宿から叩き出されるのだ。 そういう事も見越している様は、さすが『神官グラン』、最高位(マスター)と呼ばれる人なだけはある。 ←前へ■ギレイ目次■ 小説を読もう!「ギレイの旅」 301話この話と同じ内容です。 NEWVEL:「ギレイ」に投票 ネット小説ランキング「ギレイ」に投票 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.05.09 18:57:08
コメント(0) | コメントを書く
[本棚 ギレイ] カテゴリの最新記事
|