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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.05.11
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カテゴリ:本棚  ギレイ
 翌朝、青年は目覚めた。
見知らぬ部屋のベッドで眠っていたらしい。
ベッドと小さなテーブルだけがある質素な部屋。
青年の寝ていた部屋の掃除をしていたらしい、生成りの装束に身を包む僧侶独特の女性の姿に、ここが教会の施設だと青年は気付いた。

 その人から青年は、自分が『ギレイ』と言う少年に助けられたことを聞いた。
(助けられた……。)
そう言われても青年にはピンとこない。
なんだか記憶があやふやで、一体何があったのかはっきりとしない。

 なぜ自分はこんな所にいるのだろう、と青年は不思議でならなかった。
「確か、いらいらしていて、ナイフを拾って……。」
思い出せそうなことを、小さく青年は呟く。
(そうだ、何か嫌な思いをした……。それから……。)
青年は記憶の中に、一際(ひときわ)輝くものをみつけた。

「ああ……だから。助けられた、か。」
青年は微笑んでいた。
 ストン と、心の中に全ての記憶が降ってくる。
いや、記憶はもともとあったのだろう。
ただその全てを、すんなり受け入れることができた。

 青年は自分の手を見つめ、握り締め、開く。
(動く……。)
その手は確かに青年の意志のままに自由に動かすことができた。
次に青年は、足を、腹を、見える限りの体を見る。
どこにも、傷も痛みもない。確かに無事な体がそこにある。
(ここにある。)
気付けば青年は、自分の体を抱きしめていた。

(生きている……。)
今までにない歓喜の思いが青年の心に湧いてきていた。
本来ならば青年は、とっくに処刑されていてもおかしくない状況だったろう。
その意味でも『助けられた』のだ。
青年はベッドに腰掛けたまま、救われた思いで天井を見上げた。
そのまま長い時間、青年の瞳は、そこにあった天使の絵に瞳をうばわれることになった。


 教会の中庭。そこには小さな噴水があるだけで、ある程度、動けるだけのスペースがあった。
早朝から起き出し、その中庭で体を動かしていた獅子。
そこへ、白が泣きそうな顔で現れた。
「シシ、どうしよう。ギレイ君と鳥さんがいない……。」
本気で心配そうに白は獅子へと訴える。

「あー、大丈夫だろ。」
頬をかきながら苦笑する獅子。
昨日の獅子の言葉を、白は真に受けたらしい。
『そんな小さな生き物、儀礼に預けておいたら研究体にされるぞ』、と。
全て嘘だと言えない所が痛い。

「あいつは、悪いことはあんましないから。」
ごまかしつつ、獅子は一応フォロー(?)しておく。

「ここにいたのですか? あの方がお目覚めになりました。」
パタパタと走ってきた僧侶の女性が、二人に告げた。
青年が起きたと聞き、白と獅子はその部屋へと駆けつける。

 最初に部屋に飛び込んだのは、白だった。
青年が正気を取り戻したのか、狂ったままなのか、わからないうちは、白は安心できないでいたのだ。
目を開き、青年は確かに白に焦点を合わせている。
一見、おかしな様子はない。

「よかった。」
何かを思う前に、気付けば、白の口からはその言葉が出ていた。
その青年は、小鳥を傷つけて笑っていた、男なのに。
「どこかおかしなところない?」
問い掛ける白に青年は微笑んだ。

「ありがとうございます。あなた方が助けてくれたんですね。」
慌てて首を横に振る白、昨日のことを思い出した。
「いえ、助けたなんて……私はあなたを倒そうとした。ごめんなさい。」
悲しそうな顔で頭を下げる白に、青年は近付いてゆく。
白の後ろで少し警戒して身構える獅子。

「頭を上げてくださいよ。困ってしまいます。本当に、助けてもらったのは事実なんですから。」
両手を振って、青年は白に頭を上げさせる。
「なんだか、ひどく暗い所にいた時に、声が聞こえたんですよ。透き通るような声が、僕を起き上がらせてくれました。そして、見えたのは、光り輝くたくさんの金の糸でした。」
目を閉じて、思い出すように、青年は語る。

「声と金の糸……?」
青年の言葉に首を傾げる白。言っている意味がよく分からなかった。

 少し考えるようにしてから「ああ」、と獅子。
「儀礼の詠唱と金糸の六芒星の刺繍か?」
なぁ、と獅子は白に同意を求める。
なるほど、と大きくうなずく白。

 今度は青年が首を傾げた。
「そうなんですか?」
そうして、さらに一歩青年は白に近付いた。
そして、神官の身に付ける聖布に触れるように、恭(うやうや)しく、白の髪先に触れた。
「金の糸の正体は、これでした。今、見て気付いた。」
青年は洗礼を受ける時のように、白の細い髪先に口を付ける。

 瞳を閉じたまま、青年は続けた。
「帰ってこいと、俺を呼び戻してくれた。」
決して長くはない髪に、見知らぬ青年に口で触れられて、白は固まり、赤面する。
耳元で聞こえたその言葉に、白は自分が儀礼と間違われていることに、ようやく気付いた。

「うわっ、そんなの忘れてよ。思い出すと恥ずかしくて死にます……!」
突然、部屋の外から聞こえてきた儀礼の声。
外出から戻り、青年が目覚めたと聞いて儀礼がその部屋へと来てみれば、聞こえてきた青年のそんな言葉。
素で言ってしまった儀礼のその台詞は……、そう、あまりに気恥ずかしいものだった。
のだが、それ以上に、部屋の中に目を向けて儀礼は衝撃を受ける。
「って言うか、何してるんですか!?」
会話の内容から、儀礼はなんとなく、青年が自分と白を勘違いしてるっぽいな、というのはわかっていたが、その光景の意味は理解できない。
まるで、女神に帰依したかのような、宗教的光景……? とでも言うのだろうか。

 そして、そこにいる「白」の状態は、下手をすれば自分(ギレイ)の身に起こりえた事だったり……。
(だったりは、いや、ありえないだろう。)
珍しくパニックしている儀礼を見て、獅子は笑う。

「『あなたの願う未来がそこにないなら帰ってこい』、だったか? 言うね~、儀礼くん。」
わざとからかう口調の獅子に、儀礼はさらに顔を赤くして怒る。
「言うな! ばか獅子。人をからかうな!」
『ギレイ』、と呼ばれた少年が、目の前の少年、白たちの後方にいることにようやく、「あれ?」と気付く青年。

「えっと……ちょっ……と。」
白は先程からずっと同じ態勢でいて、戸惑い、何を言ったらいいのかも分からなかった。

「あっ、とお前言っとくけど、それは男だからな。見た目そんなんだけど。勘違いするなよ?」
白を示して言う、獅子の言葉に青年は大きくうなずいた。
「どちらでも構いませんよ。そんな気は起こしません。だって、天が遣わせてくださった天使様でしょう?」
当然、といった様子の青年に一同が「はぁ?」と呆ける。
それに対し青年は、その部屋の天井を指差した。

 そこには、神殿と同じように、儀礼や白に似た面立ちの天使の絵が描かれていた。

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小説を読もう!「ギレイの旅」
303話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.05.12 20:30:33
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