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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.05.13
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カテゴリ:本棚  ギレイ
「そうだ、白。手、出して。」
なんとか青年に三人が人間であることを納得させた後のこと。
儀礼はポケットから何かを取り出して、白の手の平に乗せた。

 それは、細い糸で縛られた、あの小鳥だった。
「何これ! ひどいよギレイ君! どうして結んだりするの。」
白は泣きそうな顔で儀礼を睨む。

「ごめん、それは暴れると怪我させちゃうから……今は寝てるけど。」
そう言って、儀礼は別のポケットから小さなハサミを出して糸を切る。
解かれた小鳥の体には、確かに羽が一対(いっつい)あった。
「え! ……?」
驚く白。そして青年も瞳を驚愕に見開いている。

 小鳥は静かに目を覚ます。
ピピッピピ、と小さく鳴き、毛繕(けづくろ)いをはじめる。
小さなくちばしが器用に羽を揃えてゆく。
そして――、小鳥は二枚の翼を動かし、白の手から飛び立った。
狭い部屋の中を小鳥は、くるくると飛び回る。
白の瞳には、小鳥と遊ぶように楽しそうに飛び回る風の精霊の姿も映っていた。

「やっぱ、作ったか。」
まるでわかっていたような口ぶりで獅子が言う。
「うん。サイズ違うけど根本は同じようなもんだからね。」

 何の話をしているのか、白と青年にはわからないが、儀礼は同じような物を作ったことがあるらしい。
「……ごめんなさい、ギレイ君。ひどいこと言って。」
儀礼の袖をつかみ、すまなそうな顔で白は儀礼を見上げる。
「いいよ、気にしてないし。逆に信用されるようなこと何もしてないから。」
当然だろ、と儀礼は笑う。
「ううん。」
白はおもいきり首を横に振った。

「そんなことない! すごいよ!」
率直な白の賛辞の言葉に、儀礼は素直に、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
同じ顔、とわかっているのに、その笑顔の威力に白の顔は赤く染まる。
同じように、儀礼の笑顔を直視してしまった青年は、頭を抱えて、
「あれは人だ、人だ、人だ、……。」
などと、ぶつぶつと唱えていた。

「ちゃんと飛べてんだな。」
獅子が飛び回る小鳥に視線を合わせ、調子を見るように言った。
そして、飛んでいる小鳥を無造作に掴む。
もちろん、羽を傷つけないように、手には力を入れ過ぎず。
「おー、よくできてんじゃん。こんなちっちゃいのに。」
そう言って義翼を広げたり、動かしたりしてみる獅子。

「ごめん、そういう、飛んでる鳥を素手で掴むようなことを、普通にやっちゃうあたりが、人間離れしてると思うんだ……。」
獅子から顔を背けた状態で儀礼は言った。
無言で頷いてしまう者がその部屋には、儀礼以外にも確かに二名いたのだった。

 **************

「確かにあなたの身を私が保護したことになってますが、あなたを救ったのはギレイさんです。だから、私はあなたの身をギレイさんに任せようと思います。」
神殿の長い椅子に座り、二人で向き合うように、神官グランと闇より戻った青年、ベクトは話をしていた。
いや、正確に言うと、話しているのはほとんどグランで、ベクトはただおとなしくそれを聞いているだけだった。

「私としては、あなたが外へ行くことに、何の反対もありません。世間の人は冷たいことも言うかもしれませんが、あなたが闇を払い退け、人の世に戻れたことは、きっと、神様の示す道だと私は思います。」
グランは暖かい瞳でベクトを見る。
ベクトは、世界レベルで偉い人に、対面して話しているだけで、緊張の嵐だ。
まともに、顔を見ることすらできない。
ましてや、青年はそんな人に迷惑をかけ、助けてもらったのだ。
恩返しをできるあてもないのに。

「だからと言って、あなたに神の道へ進め、なんて言ってるんじゃないのよ。あなたが、研究者として、立派に考えて、研究しているって、ギレイさんが言っていたわ。それが、あなたの道なら、神様はそれをするためにあなたを戻してくれた。私はそう思うの。」
グランは優しい様相を変えない。
それどころか、その親しげな笑顔は、母親や、祖母を思わせる。
ベクトは目頭が熱くなるのを感じた。
思わず、目をぐっとつぶり、顔をうつむける。

 神や宗教なんて、小さな頃に頼っただけで、最近ではベクトは目を向けたこともなかった。
むしろ、ベクトの研究対象はその逆で、『魔』に属する物。
魔物と呼ばれるようになった彼らを、救うことだったのに。
(それを、するために……? 僕を戻してくれた? 誰も認めなかった研究のために……。)
ベクトが、見返りもしなかった、むしろ、自分の研究と敵対するような『神』と呼ばれる存在に、認められたと、そういうのだろうか。

(そんなの、ただの、都合のいい解釈だ。)
そう思っても、なぜだか、ベクトは嬉しかった。
自分のしてきたことは、無意味ではなかった。大切なことだったのだ、と。
大切な人にそう、言われたようで。

「あなたの人と身を認めます。教会の保護下を降り、人として、外界に触れ、今まで通り生活することを、許可します。あなたの身があなたの物であることを保証します。」
グランは、ベクトの前に星の形を一筆書きで書く。
それは、払いと、神の守護を与える教会の祝福。
ベクトは、深く頭を下げ、グランにできるかぎりの感謝を表す。

「ありがとうございます。本当に、ありがとうございました。いろいろと、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」
他に、言葉なんて見つからない。
ただ、グランの手を握って、深く頭を下げ続けていた。
「あらあら。」
グランは困った顔をしながらも、笑いじわを刻ませてベクトの涙をぬぐっていた。

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小説を読もう!「ギレイの旅」
305話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.05.14 12:54:03
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