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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.07.12
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カテゴリ:本棚  ギレイ
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 それから、数箇所で同じ様な囮作戦を実行して、次々と犯人たちを挙げていった。
最初と同じてつを踏まないように、儀礼にはあらかじめ中和薬を飲ませておいた。
本人は、あれはあくまでも正気だったと言い張るのだが、信じる者はいなかった。

 その晩のうちに、犯人たちのほとんどは捕らえられた。
次々と犯人を増やしていた大元の薬工場も『アナザー』による破壊工作で検挙された。
これで、依頼は達成ということになるだろう。
残りは町の警備隊に頑張ってもらうことになる。

「終わったぁ。」
儀礼は大きく息を吐く。
一晩中、歩き続けていたので、ちょっとではなくかなり疲れていた。
それも、慣れないドレス姿で、だ。
悲しくなってくる。

 あと1時間もすれば陽が出てくることだろう。
「もう明るくなるし、解散にしちゃっていいよね。利香ちゃんたちが心配だし。」
疲れたように儀礼は言う。
「結局、みんなディセードの家に来ちゃったね。」
くすくすと笑うように儀礼は言う。
利香と白はディセードの家で眠っているはずだ。
最初は獅子達が出かけることに不満げだったマッシャー家の人間も、仕事だといえば、それ以上何も言わなくなった。

 リーシャンはディセードと一緒に色々と指示を出してきたので、まだ起きているだろう。
それにしてもリーシャンは、「もっと女らしく歩きなさい」とか、「色気を出せ」、とか、無茶なことを言ってくれた。
後で、文句の一つも言っておきたい。

「じゃぁ、俺は先に帰るな。」
「俺も帰るか。」
獅子と拓が大きく伸びをして、体をほぐすと、軽く一っ飛びで走り去っていく。
「先に帰ってて、僕、走る元気ない。」
バイバイ、とゆっくりと手を振って、儀礼は疲れた様子でとぼとぼと歩き出す。
帰ったら絶対ゆっくりと眠ろう。そう、心に決めて、儀礼はディセードの家を目指す。

 その時、何か異様な気配があたりに漂った気がした。
ほんの一瞬で、気のせいと思えるような空気の歪み。
しかし、儀礼の腕輪は確かに白く、次に緑に輝いていた。
「何か……来た?」
不安げに周囲に視線を配りながら、儀礼は息を殺す。
見た限りに、周りには誰もいない。

 気配で探査しても、儀礼の探査にかかる者はない。
「朝月。」
その精霊に頼んで、周囲を探ってもらおうとした時だった。
地面の下から、急に何かの植物が生え出てきて、儀礼の手足に絡みついた。
「うわっ、何だこれ。朝月、地面の下だ!」

 朝月に地面の下を探ってもらうが、その下には何もない。ただの地面があるだけだった。
どこからこの植物が生えてきたのかすら分からない。
「……魔法か。」
ぎりっ、と歯軋りをして儀礼は周囲に気を配る。
もう一度、今度は周囲の半径を広くして、朝月に探索をしてもらう。
今度こそ、捉えた。
黒いローブに身を包んだ、不審な者。男か女かすら、分からないが、背の高さから、男ではないかと思われる。

 捕まえようと、その男に意識を伸ばそうとすれば、手足に絡まっていた植物がより強い力で締め上げてきた。
「痛ぇ。これを先に外さないとっ。」
針金を刃物のように鋭くさせて、植物を切り裂くが、すぐに次の芽が生えてきて、儀礼の手足は捉われる。
そして、相手も、儀礼を逃がすまいとするかのように、その植物の量を増やしてきた。
全身を覆うような大量の植物のつたに、球体のように儀礼の体は覆われていく。

「なんだこれ、まずい。」
次々に切り刻むが間に合わない。
動こうともがけば手足をきつく締め上げて、血が止まっていく。
いや、強い痛みに気付けば、手や足から、この植物は儀礼の血を吸い始めた。
血の気を奪われれば、動くことすら困難になる。

「本気でやばいぞ。なんだ、こいつ。くそっ。どうする。植物……そうだ、フィオっ!!」
拓と戦った時の、フィオの障壁を思い出して、儀礼はその精霊の名を叫ぶ。
たちまち、業火と共に、植物のつたは消し炭となった。
間をおかずに、儀礼は次の精霊の名を呼ぶ。
「トーラ!」
それで、儀礼の周りには紫色の結界が出来上がり、何者も、手を出すことができない。

「くそぅ。結構、血、もってかれた。」
くらくらとする頭で、儀礼は状況を考える。
朝月の見せる敵の姿は、魔法が効かなくなった事に気付いたらしく、儀礼のそばへと寄ってくるところだった。
すぐに、儀礼の肉眼で確認できる位置にまで、正体不明の敵がやってきていた。
夜の間、相手をしていた、薬を使った暴行犯たちではない。
魔法を使えることを考えても、もっと、ずっと強い人間だった。

「……何の用ですか。」
声の聞こえる範囲にまで相手が近付いてきたので、威嚇の意味も込めて、儀礼は問いかける。
「やっと見つけた。シャーロットだな。こんな所で発見できるとは、本当に幸運だ。」
黒いフードの下、男の口元は大きく笑った気がした。
『シャーロット』それを探している、ユートラスの敵は足止めできているはずではなかったのか。
ディセードは確かに、そう言っていたはずだ。

「安心しろ。殺すつもりはない。主の命令どおり。捕らえて、連れ帰る。おとなしくしていれば、怪我をさせるつもりもない。魔法が使えることは分かっている。無駄な抵抗はやめるんだな。俺の方が魔法使いとしては格が上だ。精霊に頼まなければ魔法が使えないんだろう。」
ニヤリと、男は笑う。
男は、少しずつ距離を縮めながら様々なことをしゃべってくれる。
ちょっと、親切な人、などと、儀礼は思ってしまった。

「さっきの魔法でかなり血を奪った。立っているだけでも辛いはずだ。おとなしく付いてくれば、楽な暮らしをさせてもらえる。さぁ、俺と一緒に来てもらおうか。」
男は腕を伸ばして、儀礼に近寄る。
しかし、トーラとフィオの障壁により、その腕は儀礼へは届かない。

(『楽な暮らし。』『殺すつもりはない。』、この人、ユートラスの兵士じゃないのか?)
相手を確認するように、儀礼は目を凝らす。
その時、強い北風が吹いた。
冷たい強風。
男の黒いフードが風で吹き飛んだ。
現れたのは、金色の髪に、水色の瞳。
ユートラスではなく、アルバドリスクの特徴を備えた男だった。

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小説を読もう!「ギレイの旅」
365話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.07.17 09:57:13
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