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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.07.16
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ 携帯用 目次へ

 大晦日のその日。
昼過ぎからちらほらと雪が降り始めていた。
儀礼はまだ、目を覚まさない。
白はゆっくりと降ってくる小さな雪の結晶を眺めていた。
祖国、アルバドリスクでも、雪はよく降った。

「みんな、元気でいるかな……。」
家族や仲間を思いぽつりと、小さな声が口から漏れる。
青い精霊シャーロットが、励ますように白の隣りに寄り添った。
《大丈夫。あなたが無事であるように、彼らもまた、元気でいるわ。》
音にならない小さな声で、シャーロットは白に微笑む。

「うん。」
白は小さく微笑み返した。

 儀礼が、怪我をして帰ってきた時には驚いた。
それも、魔法による傷だという。
獅子と拓が一足先に無事に帰ってきていたので、安心していたところでの儀礼への襲撃だ。
あんな、きれいなドレス姿で一人町を歩かせるなんて、やはり、囮以外の何者でもなかったらしい。
依頼の事件とは無関係の、余計な犯罪者まで、引き寄せてしまったようだった。

 あれから儀礼は、深い眠りについている。
皆で何度か起こしに行ってみたが、起きる気配がない。
獅子や拓が叩き起こそうとするので、ディセードと白は必死に魔力不足のせいだと説明してやめさせた。
襲ってきた魔法の植物に血を持っていかれたとも言っていたので、貧血のせいもあるのかもしれない。
とにかく、儀礼はよく眠っていて、獅子や拓も順番に仮眠を取っていた。

 もう夕方が近くなった頃、そろそろいいだろうと、ディセードが儀礼を起こしてみると言い出した。
外には薄っすらとだが、確かに雪が積もり、薄暗い色合いから、白い世界へと変わろうとしていた。
ディセードに起こされてやってきた儀礼は、顔色が少し悪いものの、元気そうに見えた。
「白っ。ディーたちが王都の祭りに連れてってくれるんだって!」
嬉しそうに儀礼は語る。

「え?」
何者かに襲われたばかりの儀礼。
犯人はまだ捕まっていないという。
それなのに、祭りに行くとはしゃいでいる。
「大丈夫なの?」
体のことも心配だった。

「大丈夫だよ。白が直してくれたおかげで、調子もいいし。問題ないよ。ありがとう。」
にっこりと儀礼は微笑む。
《何かあった時には……、次は逃がしはしないから。》
悔しそうな表情で、フィオが儀礼の隣りに浮いている。
《もっと早くに、助けを求めればいいのに。くそっ。》
じりじりと、自分の体を燃やして、フィオは不満そうに文句を言う。
その、誰とも分からない怒りの気配に、儀礼はびくりと体を固まらせている。

《犯人の位置は、朝月が捉えてるんだと。だから、心配ない。また襲ってきたら、次こそは火達磨にしてやる。》
にやりと、フィオは不敵に笑う。

「儀礼、体調はもういいのか?」
光の剣を装備した状態で、獅子が聞く。
儀礼が怪我をして帰ってきたから、ずっと、その剣から獅子は手を離していない。
いつでも、戦闘できるように、気を張っているようだった。

「もう全然平気。だって、お祭りだよ。フェードの王都の祭りって言ったら、きれいだって、世界中で有名なんだから。僕だって、是非見てみたいよ。新年を迎える花火、街中に並ぶ露店、それから、町中を練り歩くパレード。どれも見てみたいよ。」
子供のようにはしゃぐ儀礼に、体調の悪さは感じられない。

「無理はすんなよ?」
獅子は心配そうにもう一度儀礼に注意した。
テンションの高い儀礼が、どんなことをするのか、予想できない。
昨夜も、囮のくせに暴行犯たちに、先陣切って攻撃を始めたらしい。
「大丈夫。装備も整えたから。」
まったく、意味が通じていない。大丈夫とは思えない返答だった。

「あっ、雪が降ってる!!」
外を見て、驚いたように儀礼が声を上げた。
「うん。昼過ぎから振ってきたよ。」
白が答えると、儀礼は心配そうにディセードへと問いかける。
「雪でもお祭りやるの? 花火の火薬って、しけっちゃったりしない?」

「問題ない。これくらいの雪なら想定内だし、フェードの花火は、何も火薬なんて必要ないんだぜ。」
にやりと、ディセードは笑った。
それから、右の手の平を上に向けて見せる。
 パンッ!
小さな音と共に、ディセードはその手の平の上に、小さな花火を打ち上げて見せた。

「わっ、すごい。ディー、そんなことできるんだ。」
驚いたように目を丸くして、儀礼は今現れた花火を見ていた。
魔法に関しては、本当に儀礼は何も知らない。
赤子のように純粋に驚いている。
それに気を良くしたように、ディセードは説明する。

「フェードの花火には、火薬のものと、魔法使いの魔法を使ったものがあるが、祭りで使われるのは、主に魔法使いたちの打ち上げる魔法の花火だ。だから、心配要らないよ。どれほどの嵐だって、やるやつは成功させるしな。」
「そういえば、前、コルロさんが部屋中小さな花火で、埋め尽くしてたよ。」
思い出したように、儀礼は頷いた。
「『連撃の魔法使い』か。そいつと比べられるとさすがに、劣るかもしれないぞ。」
「でも、コルロさんがやったのは、小さい花火だけだったから。空を埋め尽くすほどの大きな花火、見るの楽しみなんだ。」
にこにこと、本当に楽しそうに儀礼は笑っている。

「花火、な。」
ポツリと、小さくディセードは呟いた。
(むこうも潮時だな。大きな花火を上げてもらうか。)
にやりと笑うと、ディセードは先程ユートラスへの潜入者たちに、送り込んだメッセージを思い浮かべた。
『新年の花火を上げて帰還せよ』と。

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小説を読もう!「ギレイの旅」
369話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.07.17 10:14:06
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