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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.07.22
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ 携帯用 目次へ

 儀礼たちはコーテルから転移陣を使ってビーツの町へと戻ってきた。
そこも、王都程ではないが、大勢の人で賑わっていた。
管理局を出れば、儀礼たちは獅子達と合流した。
リーシャンとディセードがそれぞれの端末で時間を打ち合わせていたらしい。

「これだけ店が出てるからな、夕飯は好きなものを買って食うんでいいだろ?」
ディセードが言う。
「うん。」
儀礼が返事をする前に、もう獅子は何らかのものを口に入れて頬張っていた。

「立ちっぱなしで疲れてない?」
儀礼は体力のない利香へと問いかける。
「大丈夫よ。楽しいから、疲れるのも忘れちゃったみたい。」
獅子の腕に手を組ませて、嬉しそうに利香は言う。
どうやら、心配は必要なさそうだった。
令嬢にしか見えない利香ですら、シエンの育ち。
幼い頃は森や山を獅子や拓と一緒になって駆け回って遊んでいた。

 獅子は次々に露店に並んだ食べ物を食べ、その姿を利香は微笑ましく見守っている。
時折、獅子の口に付いた物を丁寧にハンカチで拭ってあげている。

「そういえば、年末年始にこっちに来ててよかったの?」
そんな二人を放っておいて、儀礼は拓に聞く。
「お前らに言われたくないけどな。今日中には戻る。」
拓は答える。

「どうやって?」
いつも思う疑問を、また、儀礼は拓へと問いかける。
転移陣を使っての移動だとしても、ドルエド側に、転移陣がなければ、シエンへ帰ることはできない。
やはり、魔法使いの知り合いでもいるのだろうか。

「誰が教えるか。」
にやりと、意地の悪い笑みを浮かべて、拓は言う。
そうして、子供のような口喧嘩を繰り広げる儀礼と拓。
毎回のことになると、仲良くすら見えるものである。

 そんな時――。

「世界中なんて私の敵よーーーーぉっ!!!」
パーン! パパパパーーンッ!!
乾いた発砲音が、奇声と共に周囲にこだました。
高い発狂したかのような声は、女性のものと思われる。
銃声のあった周囲からは人が慌てたように流れ出してきて、すぐに、現場は悲鳴とパニックの場に陥った。

 獅子と拓は警戒したように利香やリーシャンたちを後ろに庇う。
しだいに、人の波が消え、状況がはっきりと見えてきた。
人のいなくなったスペースに、銃を持った女性が一人。

 銃弾が当たったのだろう、倒れている男が3人。
生きてはいるようだが、いまだ銃口を人に向けて持つ女性に、怪我人たちに誰も近寄れないでいる。
倒れている人たちは、すぐに手当てしなければ、命に関わるかもしれない。

「あなたたちも皆、私の敵よ。みんな、私のことを馬鹿にしてるんでしょう! そうなんでしょう!」
金切り声を上げて、女性は誰にともなく叫び続ける。
何があったのかは分からないが、正気とは思えない。
ボロボロのほつれた髪に、血色の悪い肌。焦点の合わない瞳。
何日も家にでもこもっていたのか、体中が筋肉をなくし、骨ばっている。
力の入らない足元は、ふらふらとおぼつかない。

「みんな敵よーっ!!」
パーン!

女性は叫んで、さらに銃の引き金を引いた。
運よく、誰にも当たりはしなかったが、周りからは悲鳴が上がる。
さらに広がった空間に、いつの間にか儀礼は最前列へと出ていた。
定まらない、女性の瞳が、大勢の人のいる中、儀礼の方を見た。

 何があったのかは知らないが、今この場において、 銃を構えた女性は通り魔という名の罪人。
「いいよ、撃てよ。」
儀礼はそう言って、その女性の前に立つ。

そこには獅子も、白もディセードもいた。
しかし、儀礼は他の誰にも任せずに、自分で前に出た。
周囲には大勢の人がいて、息を飲んで成り行きを見守っている。

 段々と近付いてくる真剣な表情の儀礼に、威圧されたように女性は、二歩、三歩と、後ろへと下がる。
「あ、わ、あぁっ……! イヤーーァっ!」
そしてさらに接近する儀礼に、女性は、目をつぶったまま、引き金を引いた。
一度、二度、三度、それで、指は震えたように痙攣し、引き金から外れる。

 ガン、ガン、ガンッ。
三発の銃弾は、狙い違わす、儀礼の体を捉えていた。
いや、儀礼が外れないように、その銃口のまん前まで近付いていたのだ。
しかし、儀礼は一発の弾も食らってはいない。

 コンコロンと、軽い音と共に、潰れた銃弾が地面に落ちる。
儀礼は黙って、女性の手から銃を奪う。
その手から銃がなくなってもまだ、女性の指は震えていた。

 震える女性の腕の袖をめくり、儀礼はそれを確かめる。
そこには三点の針に刺された痕があった。
儀礼の腕にもあった、3本の針の付いた注射器の痕。
間違いなく、この女性は儀礼達の捕まえた暴行犯の被害者だと思われた。

「もう、何も信じられないのよ。世の中なんて、何も……。私を傷つけるものばかり……。」
地面にへたり込み、力ない声で、女性は呟き続ける。
呆然と、心のこもらない震える声で。
「大丈夫ですよ。犯人たちはもう、捕まえましたから。あなたはもう、安全です。何の心配もいりません。あなたを傷つける人はもう、誰もいません。」
儀礼は、優しく女性の頭を撫でる。
ボロボロになった髪をそっと撫で付けるように。

冬とは思えない暖かい風が、周囲に流れる。
日の光を含むような、草の香りをはらむ優しい風のにおい。

 荒んだ心をすら癒すような、優しい魔力の流れに、座り込んでいた女性の瞳からは大粒の涙が流れ落ち始める。
「あなたを傷つける人はもういません。みんな、町の警備兵が捕まえてくれました。もう、怖い思いをする必要はないよ。」
もう一度、儀礼は女性へと言う。
「誰も、誰も助けてくれなかった……。」
儀礼の服を引っ張るように、女性は泣き声で訴える。

「僕はあなたを守るよ。」
儀礼はにっこりと微笑む。
ポケットから、数羽のチョウを取り出すと、女性の周りに飛び立たせる。
「この子達が、あなたを守るよ。もう、怖い思いはしない。」
不思議そうにそのチョウを見て、女性はもう一度儀礼の瞳を覗き込んだ。
焦点の合った、真っ直ぐな瞳で。

 儀礼に促されて、女性はゆっくりと立ち上がる。
「間違えて、傷つけてしまった人に、一緒に謝ろう。僕も一緒にいるから。」
震える足で立ち上がり、女性は支えられるようにして、怪我をして倒れていた男性達の元へと歩いていった。
男たちは、白が魔法で傷を癒していた。
幸い、深い傷にはならないで済んだ様だった。

 すぐに、警備兵がやってきたが、事情を察したことにより、また、被害者達が軽い傷で済んだことと、白の手当てによりすぐに回復したことなどから、この女性の罰は軽いものへと移行された。

「おまえはっ!」
すべてが済んでようやく、我に帰ったように、ディセードが儀礼の元に走り寄る。
「なんだってあんな危ないことするんだっ!」
犯人の前に立った儀礼への驚きと、銃声と共に感じた全身を走り抜けた凍りつくような冷たい感覚。
またも、自分の命を軽んじるような行動に出た儀礼に、ディセードは、首を傾げる少年の白い衣を乱暴に掴み上げた。

「大丈夫だよ。」
そんな、乱暴なディセードの行為にすら、慣れた様子で儀礼は答える。

「トーラの守りは最強だって、僕信じてるから♪」
そう、嬉しそうに笑って、儀礼は紫色の宝石に唇を付ける。
「獅子が避けたら誰かに当たるかもしれないし、ディー達には向けさせられないし、僕にはトーラがあるから。」
紫色の宝石が強い光を放つ。

 それが、魔力の波であることは底辺魔法使いのディセードにも分かった。
無意識の行動なのだろうとディセードは思う。
魔力に関して何も知らない儀礼の行為は、魔法石に大量の魔力を流し込んでいた。

◎トーラの夕飯もごちそうです♪

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小説を読もう!「ギレイの旅」
375話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.07.22 14:40:07
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