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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.08.26
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ 携帯用 目次へ

「ギレイ君、ありがとう!」
白が飛びつくようにして、儀礼の胸に抱きついてきた。
お別れの挨拶だ。
儀礼も白の頭を抱きしめる。
「僕の方こそ、ありがとう白。元気でね。」
うん、と大きく頷くと、白は今度は獅子へと抱きつく。

「シシ、ありがとう。ずっと守ってくれて。」
「ああ。これからも剣の訓練忘れるなよ。」
ワシャワシャと、乱暴に白の髪を撫でて、獅子は言う。
獅子との訓練で、白は確実に腕を上げていた。

「ありがとうございました。」
バイバイ、と白が手を振るのに合わせて、ロッドと呼ばれた老人が深々と再びお辞儀をする。
少し不満げにしながらも、エンゲルという騎士も頭を下げた。

「バイバイ、白。」
にっこりと笑ったまま、儀礼は手を振る。
本当なら、泣いてしまいたいくらいな気はするが、そんな恥ずかしいまねはできない。
儀礼はもう一度深く眼鏡を掛け直す。
永遠の別れのわけではない。
アーデス達に頼めば、明日にだって会えることになるだろう。
それなのに、大仰な別れ方をしたのでは恥ずかし過ぎる。

「元気でな。」
獅子が大きく手を振る。
そうして、二人の騎士に連れられて、白は謁見の間から隣の部屋へと歩いていった。

 謁見の間に残された儀礼と獅子。
しかし、与えられた任務は完了である。これ以上長居する理由はない。
あとは、国王から、下がってよいという合図を待つだけである。
「そなたらはご苦労であった。約束の契約の褒賞をあとで届けよう。」
ドルエド王が儀礼達へと再びねぎらいの言葉をかけた。

「ありがとうございます。」
儀礼は深く頭を下げる。
「もう、下がっても良いぞ。」
帰ってもいいとの言葉をいただいたので、儀礼たちは顔を見合わせて、扉へと向かって歩き出す。

「ああ、その前に、ギレイ・マドイといったか。そなた、その眼鏡少し外してもらえんか?」
大様の前で、サングラスは無礼だったかとひやりと背中を冷たくして、儀礼は慌てて色付き眼鏡を外した。
穴兎とのやり取りをしていたために、ずっと外すのを忘れていた。
何かあった時には、一番速い連絡の手段なのだ。

 儀礼の顔を見て、国王はほお、と頷きとも、溜息とも取れるような息を吐いた。 
「……。」
女顔だとは言われ慣れている。
なぜ女でないんだとかも言われなれている。
儀礼はじっと黙って国王を見返した。
その考えを読むために。

「やはり、似ているな。」
出てきた言葉は、儀礼の予想とは違うものだった。
「『蜃気楼』。シャーロットの情報にそなたを上書きさせたのはこの私だ。」
イタズラっぽい笑みを浮かべて、国王は儀礼にそう言った。
「あれは私が命じたのだ。」

 悪びれた様子もなく、ドルエド王はもう一度そう言った。
そのおかげで、儀礼はユートラスという軍事国家から命を狙われることになったというのに。
だが、国家が動いたという『アナザー』の言葉を信じるなら、その可能性がなかったわけではない。
むしろ、十分にありえる話だった。
だが、なぜ、自国の『Sランク』の者を危険に晒したと言うのか。
普通は保護して守ろうとするものである。

「おかげで白を守ることができましたよ。」
嫌味を込めて、にっこりと微笑んで、儀礼はドルエド国王へと言葉を返す。
相手が儀礼を『蜃気楼』と呼ぶならば、立場は同等だ。
『Sランク』それは管理局の王の証。

 それでは、と再び深く眼鏡をかけ直して、儀礼は謁見の間を出ようとした。
儀礼の動きに合わせて、獅子は先に部屋を出て行く。
「シエンの戦士の子。」
ポツリと、国王が呟いた。
その言葉に、儀礼は違和感を覚える。

 儀礼と獅子自身をシエンの戦士と呼ぶなら分かる。
しかし、シエンの戦士の『子』。
儀礼は国王を振り返る。

「『蜃気楼』、あのシエンの戦士の子ならば、アレ位の事、どうということもないだろう。」
にやりと悪意のない笑みを浮かべて楽しむように国王が言う。
「私の妻となる人を奪っていった男のことだ。」

「……。」
儀礼は久し振りに言葉に詰まった。
国王の言う言葉が一瞬理解できなかった。
そして理解できた後には、次々と冷や汗が流れ出てくる。

(父さん……一体何をやったんだ。)
ドルエド国王に対し、苦い笑いを浮かべて、儀礼はただ黙って、部屋を出て行くことくらいしかできなかった。

*****

「姐(あね)さん?!」
城から外に出て、城下町を観光がてらに歩いていた時、儀礼は知らない男に驚いたように声をかけられた。
中年の、がらの悪い男である。

 意味のわからなかった、ドルエド国王からの言葉の意味をもう一度整理し直したくて、儀礼は獅子に頼んで城下町を歩いていたのだ。
お姉さん、とか、お嬢さん、などと呼ばれたことはあるが、『姐さん』。
これは、さすがに初めてのことだった。
しかも、呼びかけてきた男はどう見ても、盗賊崩れとでも言うのだろうか、一応冒険者らしい格好はしているが、乱暴そうな気質が体の外ににじみ出ている40代位の男だ。

 警戒したように、二人の間に獅子が割って入った。
「何の用だ?」
低い声で獅子が威圧する。
「黒い髪、黒い瞳、……お前、まさか、『黒獅子』か?!」
今度は男は獅子に目を留めて、驚いたように目を見開く。

「お頭の息子さんだ!!」
男が叫んだ瞬間に、周囲に人が集まってきた。
「なんだって?」
「どこだ?」
「お頭?!」
誰もが、人相の悪い男達だ。盗賊といわれても違和感のない中年の4、50代の男達。

「お会いできて光栄です!! ぜひ握手してください!」
一人の男が言い出せば、ずるいだの、俺もだの、次々と男達が獅子の周りに群がる。
一体何の集団だろうか。
今日は、訳のわからないことばかり起きる。
左手の手袋のキーを叩きながら、はぁ、と儀礼は大きな溜息を吐いた。

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小説を読もう!「ギレイの旅」
411話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.09.11 16:21:15
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