マラーホフの「眠れる森の美女」
マラーホフによる新演出だそうで、本拠地であるベルリン国立歌劇場で昨年上演された作品を東京バレエ団が再演したのだ。構成は、プロローグからオーロラが16歳の誕生日に薔薇の棘(糸巻きではない)で眠りにつくまでを一幕、王子の登場からオーロラが目覚め二人が結婚式を挙げるところまでを二幕としてコンパクトにまとめられていた。ただ、これは東バで上演されている眠りとほぼ同じ構成なので好みの問題は別として違和感は無かった。物語の全篇を通じてリラの精とカラボスがオーロラにからむようになっていたのが新しい視点かな。振り付けにはあまり大きな変更はなかった。あまり評判の宜しくない薔薇の生垣のセットはシンプルで美しく良かったと思う。ただ、衣裳がね・・・。大変奇抜でハッキリ言って日本人には全く似合わない。特に、男性は気の毒なほど滑稽だ。オーロラの衣裳も何だか若い女の子のサマードレスみたいで私の好みではない。主役のオーロラ姫を踊ったのは吉岡美佳さん。痩せてる・・・。でも、貧相に感じてしまったのは多分それだけではないと思う。安定感もいまひとつでグランの時のフィッシュダイブなど落ちるのではないかとハラハラした。マラーホフも焦って抱え込んでいるように見えたぞ。素晴らしかったのはリラの精の上野水香さん。昨夜の妙な衣裳を着こなしていたのは彼女だけではないだろうか。やはり、身体そのものの美しさが物を言うのだなと実感した。長身で手足が長く頭が小さいという有利さに加え反張膝の足、怖いぐらいにカーブする足裏と甲。そういう彼女の身体的な優位さが昨日は存分に活きた。堂々とした立ち姿とマイムも別格の雰囲気。いつもは違和感のある個性的な顔立ちさえプラスに働いていて彼女に目が釘付けだった。フロリナ王女の小出領子さんも安心して見ていられた。可愛らしくてファンも多いようだ。今回、衣裳が妙だったので男性ダンサーには酷な舞台だったが、ソリスト陣は結構見られる代物だったのはさすが東バと言うべきか。マラーホフのたっての希望でカラボス演じた芝岡紀斗さんなど日本人離れした容姿の良さでとってもさまになっていた。お目当てのマラーホフだが、「眠り」はもともと王子のしどころの無い演目の上に二幕の狩りの場面は大幅にカットされており演出として意図されたものかどうか分からないが何だか頼りない王子(笑)だったこともあり、王子さまオーラがキラキラという雰囲気ではなかった。でも、話に聞いていたジャンプして着地する時音がしないというマラーホフの繊細な踊りは十分堪能できた。とにかく、何気なく自然に振舞っているのに品が良い。ダンスールノーブルとはかくあるべきというお手本だ。