夢を語る人
隅田川に掛かる中央大橋。中央区側から江東区側に渡った橋のたもとに石川島公園がある。私のランニングコースの折り返し地点。午後の日差しがまぶしい。30分走った分、汗もかいている。公園に入って30秒ほどした頃に後ろから声をかけられた。「歩いてんの」自転車に乗ったおじさん。顔のそばかすが第一印象。少し酔っているようだ。失礼なヤツだな、と思いながらも、「ランニングです」私は走りながら笑顔で応えた。「随分、ゆっくりだね」「長い時間走るんで」「マラソン?」「いえ」「マラソン大会でるの?」「でません」「あの会社さあ」と、突然、川向こうの巨大な倉庫を指さす。「俺が大きくしたの。売上三倍。バブルの時。18年前」おじさんの自慢話は続く。「今はどうなんですか?」ちょっとの間、おじさんが黙った。私は走り続ける。おじさんも走り続ける。「区議会選」にでる。「あれ、俺のマンション」川向こうの白いしゃれたマンションを指さす。「あいつら入れねぇだろうな」「え?」「マンションの奴ら、俺には投票しないな」深くは突っ込まなかった。「民主党からでる」「へえ」「民主党からだよ。小沢一……」最後の一文字が聞き取れなかった。おじさんの本名らしい。こんなところで本名明かしていいのか。「小沢一郎と一字違い。小沢一郎が死んだら、俺が天下を取る」折り返し地点に着いてしまった。私はその場で足踏みを続ける。自転車を止めたおじさんの話がしばらく続く。おじさんの隣のマンションは外務省の寮らしい。おじさんのマンションは3,000万だが、寮の家賃は2万円らしい。「ったく、役人てヤツは」。話題が途切れた。じゃあ、と行こうとした。「ゆっくり走んないとダメだよ。あんまり早く走ると死んじゃうよ」「ハイ」おじさんの自転車がスタートした。私も反対側に走り出した。