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無尽の鎖 第11話

無尽の鎖 第11話「炎の記憶 ―Brown Side―」
作者:倉麻るみ子(PN&HN)

―2006年 イタリア―
ここは、とあるパン屋。
特に大繁盛でもしているわけではない、普通のパン屋。
それでも、お客は来ている。だがそれは、平均して一日に、4~5人程度来るだけである。
そこを、夫婦で経営しているのだ。

だが今、妻は妊娠中。
パンを作れる状態じゃなかった。だからこそ、夫が必死で頑張っているのだ。

妻「クウザ・・・。」
夫「エナ!何やっているんだ!寝ていろと言っただろ?」
エナ(=妻)「ごめんなさい・・・でも、クウザも疲れたでしょ?少し休んだら?」
クウザ(=夫)「そうしたいのも山々だが、これも仕事だ。止めるわけにもいかない。
それに、少しでも多くのお客が入るように、新作の美味しいパンを作らなければならないからな・・・。」
エナ「でも・・・。」
クウザ「大丈夫だ。こんな事で倒れる俺じゃない。エナはもう少し休んでいてくれ・・・。」
エナ「判ったわ。もう少し寝ているわね・・・。」

エナは、寝室のほうへと足を運んだ。
その時だった。突然エナが倒れ、苦しそうに悲鳴をあげたのだ。
クウザは、作っていたパン生地をそのままにし、すぐさま病院へと車をとばした。

クウザ「待っていろ、今病院へ連れてってやるからな・・・!!」

だが、車をとばしたのは良いのだが、運が悪い事に渋滞にはまってしまったのだ。

クウザ「くそ・・・何で今日に限って・・・急患なのに・・・!!」

エナは、さっきよりも酷く悲鳴をあげている。それを横目で心配そうに見るクウザ。
だが、良く見ると、子供の頭が見えていたのだ!
クウザは、どうしたら良いのか焦った。

クウザ「(このままでは、ここで生まれてしまう!!
しかし、この渋滞だ・・・どうしたらいいんだ・・・。)」

クウザは、焦りながらも考え、そしてこう、決心した。

クウザ「(仕方ない・・・ここで生ませるしかない!!)」

ちょうど道沿いの道路を走っていたので、クウザは車からおり、何故か車の中にあったバスタオルを道に敷き、そこにエナを寝かせた。
そして、こう叫ぶ。

クウザ「誰かここに、医師はいませんか!?私の妻の子が生まれそうなんです!!
お願いです!!!助けてください!!!」

しかし、すぐには現れるはずもなかった。
エナの体調は、悪くなるばかりだ。
だが、クウザは何度も叫んだ。

すると・・・、

医師「私は医師です。お手伝いさせていただきましょう。」

と、一人の男性がやってきた。

クウザ「医師・・ですか!!お、お願いします!!妻が・・子供が・・・!!」
医師「判りました。落ち着いてください。まずは少し安定剤を打って置きましょう。」

そういって、急いで鞄から注射を出しエナに安定剤を打った。
エナは、少し落ち着きを取り戻す。

医師「奥さん、苦しいかもしれませんが、これを乗り切れば、子供さんと出会えますよ。」
エナ「は、はい・・・。」
医師「では、お父さん・・もう頭は出掛かっています。あとは、うまく引っ張るだけです。」
クウザ「はい。」

二人は、エナを励ましながら、その子供を引っ張り出す。

―30分後―
ようやく、その子供は生まれた。
元気な産声をあげている。

どうやら、渋滞も空いたようで、急いで病院へと急いだ。
そして、そのまた数分後に、クウザはエナが寝ている病室に向かった。

クウザ「大丈夫か?」
エナ「えぇ・・・クウザとあの医師のおかげよ・・・。」

一息ついて・・・、

エナ「・・ねぇ、この子私の髪の色に似ているわ。」
クウザ「本当だ・・・目の辺りは俺にそっくりだ。」
エナ「えぇ・・・。」
クウザ「こいつの名前、何にするんだ?」
エナ「『ブラウン』よ。この子が生まれてすぐに、思いついたの・・・。」
クウザ「そうか。じゃ、『ブラウン』で決定だな」

数日後、エナは退院し、彼―ブラウンを育て始めた。

それから数年後のある日の事。

ブラウンが、5歳になった時である。
クウザは、いつもの様にパン生地を練っていた。
なかなか上手くいかず、一から作り直す。
するとそこに、ブラウンがやってきた。
ブラウンは、自分もやってみたいと、クウザにすがりよってきた。

クウザ「ダメだ。これは遊びじゃないんだぞ?」
ブラウン「だって・・・、暇なんだもん・・・。僕にやらせてよ!」
クウザ「無理だって!・・・エナ・・お前も何か言ってくれよ~(汗」
エナ「・・・やらせてあげたら?」
クウザ「エナ・・・、それはないだろう・・・。」
エナ「知っている?こういう年の子は考えている事が未知なのよ?
やらせてみたら、きっと新しいパンを作るヒントが見つかるかもしれないわよ?」
クウザ「でもなぁ・・・。」
ブラウン「お願い、父さん・・やらせて~。」
クウザ「・・・はぁ・・・、・・・判った。OK、やってみな。」
ブラウン「やったぁ!!」

クウザがほんの少し手を加えたパン生地を、ブラウンに手渡し、ブラウンはそれを練り始めた。
手つきは、クウザほどではないが、何とかパンを練っていた。
よく見ると、パンの発酵が異様に早く感じ取れる。
そして、出来上がると、綺麗なドーム型の形になっていた。
そして、そのパン生地に向かって手を翳した。
すると、ろうそくに火をともすぐらいの大きさの炎が、パンの周りを囲み、普通に釜戸で焼いているように、パンに焦げ目がついてきたのだ。
二人は呆然とそれを見る。

数分後、パンはふっくらと焼きあがった。

クウザ「・・ブラウン・・・・何だ、その力は・・・?」
ブラウン「・・・わかんない、何かこの力に今気付いたよ。凄いね♪」

ブラウンはとにかく、「食べてみて」とクウザ&エナに言う。
二人は、一口サイズにちぎり、口に運ぶ。

クウザ「・・・・・う、美味い!!俺がいつも作るパンよりも美味いぞ!!」
エナ「えぇ・・・」
ブラウン「ホント?」

ブラウンはそう言って、自分も食べる。

ブラウン「ホントだぁ!美味しいww」
クウザ「ブラウン。」
ブラウン「何?」
クウザ「お前のこの力があれば、この店にお客が増えるかもしれないぞ。」
ブラウン「ホント!?」
クウザ「あぁ、本当だ。」

それからというもの、パン作りを店の前でパフォーマンスし、そのすぐ出来たパンを、お客達に売った。
もちろん、商売繁盛。前の何倍ものお客がその店に入って来るようになったのだ。
最初はほんの10人程度だったが、この店の噂を聞きつけて、わざわざ遠くから来る人たちもいるのである。
今では、客入りが4、50人も増え、店の前には長蛇の列が。
おかげで、毎日大忙し。予約もいっぱいであった。

だが、「物事には必ず終わりがある」とも言う。
そう、その家族に悲劇が訪れたのである・・・。

2015年に軍事政権が民主政権を倒し、徴兵制が成立した。
徴兵制とはイタリアにいる子供は13歳から徴兵にならなければならないという制度だったのだ。

その年は、ブラウンはまだ9歳。当然、免れた。
だが、成立されたからには、この4年後にブラウンは徴兵にならなければならないのだ。

ブラウンが13歳になっても、クウザとエナは否定し続けた。
だが、それも運のつき・・・、

ブラウンが16歳になったある日の事、政府の者がラファール家にやってきた。

政府の人「お前達・・・、いい加減にしろ。あれから3年も待っているんだぞ?
何故徴兵に出さない!?」
クウザ「この子は、俺たちにとって大切な子供だ。そんな大事な子供を戦争とかに巻き込みたくはない!!」
エナ「そうよ!!あの子、『徴兵になんか絶対になりたくない』って言っているわ!!」
政府の人「そんな事言っても、徴兵制は成立されたんだ!!
徴兵にしてないのは、お前達のとこだけなんだぞ!?さぁ、とっととガキをだしな!!」

クウザ「・・・エナ、・・・ブラウン、・・・こうなったら・・・逃げるしかないぞ!」

クウザは、政府の者を突き飛ばし、走って逃げた。
しかし・・・、

追っ手が来ていた。

クウザ「ちっ・・・」

クウザは、舌打ちをする。

クウザ「ブラウン!ここは俺とエナで食い止める!お前は遠くに逃げるんだ!!」
ブラウン「で、でも、父さんは!?」
クウザ「あとで必ず追いつく!!」
エナ「ブラウン!早く逃げて!!!」
ブラウン「・・・絶対だよ!!絶対追いついてよ!!!!」

ブラウンは遠くへ走っていった。

追っ手の人数は、延べ20人。到底二人じゃ、なんとも出来やしない。

クウザ「・・・すまないな、ブラウン・・・追いつきそうもない・・・。」

そう、クウザはポツリと呟き、二人はその追っ手におさえられ、逮捕されてしまった。


ブラウン「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・ここまで来れば・・・大丈夫・・・かな・・?」

ブラウンは息を切らして立ち止まる。
ブラウンは、遠くの森まで走ってきていたのだ。

ブラウン「父さん・・・、母さん・・・、大丈夫かな・・・。」

ブラウンは、数分待った。
だが、何分待っても、クウザとエナは現れなかった。
そこで、ブラウンは判った。両親は捕まってしまったのだと・・・。
ブラウンは、自分を責めた。
自分が、ちゃんとこの制度に従っていれば、こんな事にはならなかったのだと。

???「そこの君、両親を助けたいか?」

と、何処からか声が聞こえた。
ブラウンは、声のしたほうに向く。
すると、茂みの中から、空色に近い髪の色をした青年が現れた。

ブラウン「誰?」
???(=プラノズ)「これは失礼。私の名はプラノズ。君のように能力を持つ者だ。」
ブラウン「で、オレに何の用?」
プラノズ「さっきも言っただろう。『両親を助けたいか?』って・・・。」
ブラウン「助けたいよ・・・。オレのせいで、父さんと母さんは・・・。」
プラノズ「ならば、私の隠れ家へ案内しよう。」

そう言って、自分とブラウンを光に包み、プラノズと名乗った青年の隠れ家へと瞬間移動した。

ブラウン「いつか、この国を変えてみせる。そして、父さんと母さんを、絶対に助け出す。
絶対に・・・。」

その時から、ブラウンはそう決心した。


第12話へと続く。



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