2037008 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

NOVELS ROOM

part6

―7th Spirit ~part6 過去 前編~―



魂のカケラは後1つとなった。しかし、最後の魂のカケラが、どこにいるのかさっぱり検討がつかないのである。今まで、カケラ達は俺の成長過程のもとにいた。
現在、俺の年齢は19だ。どう考えても、今通ってる学校にはいない。
そうなると、また一から探さなくちゃならないのか。そう思うと、鬱になる。時間もないわけだし・・・鬱になっている暇なんてないんだが・・・。
平次郎に乗ったまま、そんな事をずっと考えていた。

そういえば、俺は何でトラックにはねられたんだっけ?

ふと、そんな思考が頭を過ぎる。
俺は、トラックにはねられたことをリースからきいて、試練を与えてやるとか言われて、その誘いにのってここまできているわけなんだが、肝心の理由がどこかにいっていた。もちろん、すべての魂のカケラを集めて復帰しなければならない。まだ、死ぬわけにはいかないんだ。

・・・何のために・・・?

あれ・・・生き返るためだよな。
でも、他にも理由が・・・。

ぐちゃぐちゃになる思考をうまく整理して、何のためかとかはねられた理由とかを考えてみた。というより、記憶を探り出すと言った方が正しいのかも知れない。
いったん平次郎に止まってくれるように言って、とある場所に向かった。その場所は、俺がリースと出会った場所だ。大きな換気扇が、今でもゴーっという小さな音をだして稼動している。換気扇だもんな。24時間動いてなきゃ、意味ないわけだし。リースが壊した柵も、未だに壊れたままだ。いろんな怪奇現象として、ホントにニュースになりそうな勢いだ。

とりあえず、壊れていない柵に手をかけ、下を見る。
風景は、いたって変わらない。こんな時間だから、車なんて指で数えられるぐらいしか走っていない。遠くのほうでは「ウーッ」っとパトカーの音がなっている。何か事件でもあったのだろうか。そのパトカーの音が段々近づいて行き、俺がトラックにはねられた道を、猛スピード突っ走っていく・・・と思ったら、最初にバイク2台ほど通ってから、パトカーが通った。
何だ、スピード違反やら信号無視した奴らを追ってるのか。

そんな風景をよそ目に、俺はぼーっと記憶を探り出した。






―午後7時―

「あ~!約束の時間まであと2時間しかねぇよ!!」

確か、誰かと何かを約束してたっけ。
でも、何を誰と?

―ピンポーン!

「あ、はい!今行きます!」

焦りながら、周りに散らばった荷物や服を隅に寄せ、玄関へと駆け込んだ。
除き穴から誰なのかを見ると、姉貴がそこに立っていた。何しにきたんだ、こんな非常時に。何故か慌てて「今俺はいませーん!」と叫び、鍵をかけた。ちなみに、普通に鍵をしめるほうではなく、チェーンで引っ掛けて固定するようなものである。

「何が『いませーん!』よ!いるじゃないのよ!」

扉の向こうから、姉貴の声がする。かと思ったら、扉を開けてきた。しかし、チェーンで繋がっているので、扉は5cmぐらいしか開かない。
「開けなさいよ!」と、無理矢理開けようとする姉貴に、俺は焦る。チェーンがいっぱいいっぱいに張っているから、今にも切れそうな予感がしてならないからだ。
姉貴の形相に負けた俺は、しぶしぶ扉を開けるはめになった。
姉貴は入ってくるなり、部屋の散らかりにケチつける。姉貴だってたいして綺麗にしてないくせに、よく人の事が言えたものだ。
ちなみに、俺は一人暮し。安い(といっても、そんなに安くもない)マンションに住んでいるが、部屋自体は結構綺麗だ。さすがに家具とかは自分で買ったが。
場所は3階にあり、階段をのぼって一番奥に位置している。

「で、何しに来たんだよ。」
「もちろん、可愛い弟が初デートだから、からかいにきたに決まってるじゃない♪」
「だったら帰れ。今すぐ帰れ。」

ルンルン気分に言う姉貴の発言に、俺は呆れた顔で即答してやった。
そしてすぐに玄関のほうに押しやる。

あ、デートだったのか。
つーか、誰から聞いたんだよこの姉貴は。

「ごめんごめん!嘘だってば!」
「嘘だとしても、帰っていただく。」
「×××お願い許して~!」

あ、あれ・・・今、姉貴なんて言った?

「俺は優しいからな。今回だけは許す。」
「ありがとう~♪」

姉貴は部屋に戻り、大人しく椅子に座る。
でも、引っ掛かる。「お願い許して」の前に何て言ったんだ?

「で、本当は何しに来たんだ?」
「アドバイスに決まってるでしょ?あんた、普段着でさえ白シャツなんだから、たまにはパンク系とかクール系とか着なさいよ!」
「(´・д・`) ヤダ」

携帯で「やだ」と打ったら、あの顔文字がでてきたのて、それを姉貴に見せた。まさに気分はふざけモードだ。
「真面目に聞きなさいよ!」と怒鳴られたが、特に怖くないのでそっぽを向く。
とりあえず、俺は俺なりに考えさせてもらいたい。が、やっぱり悩む。

「そうそう、あんたのために服買っておいてあげたのよ♪」

余計なお世話だ。どうせ、あとでお金を返せとか言うんだろ。
断ろうとしたら、姉貴はちょっとおしゃれな紙袋から服を数枚取り出してきた。

「これどう?」

白シャツになんかセーターっぽいのがついてて、赤いチェックのネクタイもついている。
俺は女じゃねぇといいたいぐらいの服だ。だから、

「俺は女じゃねぇ。」

はっきり言っておく。
「もともと女顔してるから、別に似合うと思うのになぁ。」と不満そうに服をしまう姉貴。
女顔って、俺、そんなに女に見えるか?

次は、黒っぽい服を出した。
黒いジャケットで、なかは黒白のボーダー。これ、誰かが着ていたような気がする。
とにかく、これもスルー。
他にも、服は出てきたが、どれもこれも俺が合うものでもなかった。
時計を見ると、8時35分。そんなに時間がかかるものかと疑問されれば、そうと答えるのが妥当。そりゃ、会話混じりに服選びしてれば、それほど時間がかかるのは当たり前だろ?まぁ、ほとんど姉貴ばかりしゃべっていたんだが。

と、のんきに描写をしている場合か!!

「姉貴の馬鹿野郎!!あと25分しかないじゃないか!!待ち合わせ場所、ここから30分以上かかるんだぞ!!」
「馬鹿とは何よ!あんたのために、あたし必死だったんだからね!!」
「知るか!!」

俺は携帯をポケットにいれ、急いで外に出た。
とりあえず、他の荷物なんて持ち出す余裕なんてなかった。ただ、手に持っていた携帯だけを持っていくのがやっとだった。
後ろから姉貴が「財布とか他の荷物忘れてるわよ!」と言っていたが、戻る余裕なんてない。
エレベーターを待っていたがなかなか来ないので、タイムロス。階段を駆け降りる。駆け降りながら、彼女に電話をかけた。3コールで彼女が出た。早い。

「もしもし、里実?」
『何、×××君?』

くそ、まただ。俺の名前を呼んでいるみたいだが、全く聞こえない。
そもそも、俺は何て名前なんだ?判らない。思い出せない。

ようやく階段を駆け降りて、道路に向かって走り出す。
この時の俺は、左からトラックが来ていたことなんて、まだ気付いていなかった。

「ごめん、遅れるかもしれ・・・!」

―プァアアアアアアァァァアア!!

激しいクラクションの音。俺はようやくトラックの存在に気付いた。
目の前にいるトラックが、まるでスローモーションのように迫ってきていた。しかし、俺の体は動かなかった。

―ダンッ!!

鈍い音。一瞬の出来事が、長い時間に感じられた。
俺はトラックにはねられ、その衝撃で地面にたたき付けられた。
動けない。視界が血に染まっていく。もう、何も・・・何も見えなくなっていく・・・。

「×××けぇ~!!!」

最期に聞こえたのは、俺の名を叫ぶ姉貴の声と、一緒に吹き飛んだ携帯から聞こえる、「き×××君?」と何度も呼ぶ里実の声だった。
そして俺の視界は真っ暗になった。






「・・・で、今に至る・・・ってわけか。」

はねられた理由は判った。しかし、判らないことが出てきた。俺の名前だ。
俺の名前はどんなものなんだ。何度も思考をめぐらせても、思い出せない。むしろ俺の存在自体が判らなくなってきそうだ。
考えるのが嫌になって、頭を掻きむしる。そんな俺を、平次郎は心配そうに見つめていた。しゃがみ込み「ごめん、何でもない。」と言って、平次郎の頭を撫でてやる。

待てよ、ここから俺の事故現場が見えるって事は、ここって俺のすんでるマンションの屋上!?何かの施設か何かだとずっと思ってた・・・ちょっと気付くの遅いな・・・。
そんな事を思っていると・・・

「やぁ、元気してる?」
「!!」

背後から突然声が聞こえた。
振り返ると、そこには小さな少年。そう、リースがいたのだ。
話すときは相変わらず無表情だ。

「時間がだんだんなくなってきたね。」
「う、うるせぇ!」
「あ、そうそう、真相を話す約束だったよね。」

そういえば、そんな事言っていたような気がする。しかし、真相を聞いている余裕なんて、ないに等しいだろ。
時計を見れば、3時。あと1時間しかない。

「時間を気にしているみたいだね。でも、大丈夫。僕が時間を止めてあげるよ。」
「なっ!?」

おい、今何て言った。時間を止める?
それは、俺にとっちゃ都合のいい話だが、これはどういう風の吹き回しだ?というか、死神がそんな事していいのかよ!?

「勘違いしてるみたいだけど、僕は君のために時間を止めてあげるわけじゃないんだよ。僕自信が楽しむためだ。」

最後の台詞だけ、不気味な笑顔で強調しながらそう言った。
ま、それもそうだ。リースは人より、自分を優先させるやつだからな。

「フフフ・・・楽しみだなぁ・・・君と戦うの♪」
「ちょ、不気味。早く話せ。」
「解ってるよ。」

リースはそう言って、指をパチンと鳴らした。周りを見てご覧と言わんばかりに、顔は違う方へ、しかし目はこちらを向けた。
柵に手をかけ下を覗く。一辺変わった様子もない・・・と思い気や、さっきのバイクがこっちに戻って来ている様子だった。赤信号でもないに、バイクの人は乗ったまま停止している。後ろのパトカーも停止。
ついでに、自分が付けている時計も確認してみる。デザインがシンプルなデジタル時計は、「3:01 25」と表示されたまま秒数が進んでいなかった。
とにかく、本当に時間が止まっていることは判った。

「ね、止まってるでしょ。」
「あぁ、止まってるな。つーことで、真相を洗いざらい話してもらおうか。あんたが人間だという事、何で死神になった事。」

俺がそう言い放つと、リースは「いいよ、解った。」と言って話し出した。

「そう、これは君がまだ生まれる前の話。」






僕の名は、藤沢浩太郎(ふじさわこうたろう)。この名を思い出すたび、忌ま忌ましい記憶が蘇る。話したくはないけど、約束だからね。
僕は普通に生まれ、小学校にあがるまで何の異常もなく育っていった。
そして、小学校入学した途端、悲劇の序章とも言える出来事がおこり始めた。

初日、緊張していた僕は、周りの人と慣れるのが出来なかった。

「(ど、どうしよう・・・話し掛けなきゃ友達出来ないのに・・・でも、どうやって話し掛けたら・・・。)」

僕は席についたまま、視界だけを動かして、クラスメイト達を見ていた。みんな、すぐに話しかけたりして、仲良くなっていた。話すきっかけを見つけるものや、直接話し掛けるもの、勝手にアピールするやつだっていた。
もともと内気だった僕は、そんな大それた事なんて出来るはずなかった。幼稚園児の時に唯一仲がよかった子は、残念な事に違う学校に入学した。だから、同じ幼稚園に行っていた奴らとも仲良くないわけだし、今の僕には友達なんていなかった。

結局、誰にも話し掛けることが出来ずに、その日は終わってしまった。

「(やっぱり、こんな僕に友達をつくるなんて、無理があるんだよ・・・。)」

そう思っていると、誰かが話しかけてきた。
一瞬、嬉しくて顔をあげたのだが、相手の表情は嫌味な笑顔だった。つまり・・・からかいにきたわけだ。
やつらは3人でやってきて、次々にからかいの言葉を言ってきた。何て言っていたのか、正直覚えていない。でも、僕の嫌がるような事ばかり言っていたのは覚えてる。

ようやく奴らがどこかへ行って、嫌な気持ちを抱きながら、自宅に帰った。当時の僕には、これが悲劇の序章だなんてわからなかった。

次の日から、僕に対して嫌がる事ばかり言う奴が増えていった。あの3人が、周りに言い触らしたんだろう。
でも、やっぱり辛かった。ほぼ、クラス全体から言われていて・・・。
しかし、僕は耐えた。何を言われようが、耐えるしかないと思ったからだ。こっちが何もしなければ、いつかは諦めてくれるだろう・・・そう思ったのが、運の付きだったのかもしれない。

3年生にあがり、未だにいじめは続いていた。いつの間にか、悪口から荷物持ちとかに発展していた。それでも耐えたつもりだった。

「うわっ!」

下校中、何も段差もない、綺麗に整備されたコンクリートに、僕は転んだ。立ち上がろうとしたところを、足で踏み付けられ、妨害されてしまった。残念な事に、周りに目撃者はいない。

「おっと悪いねぇ~!手が滑ってさ!」

―ドカッ!

非常な事に、僕は腹を蹴られた。しかし、相手は一人ではなかった。何人だったのかはわからない。結構たくさんいたと思う。
とりあえず犯人はクラスの奴らだ。こんな事をするのは、クラスの奴らしかいない。しかし、誰なのかわらない。そいつら、似たような声をしていた感じにしか聞こえなかったから。
とにかく、僕はうずくまって、ただ身を守ることしか出来なかった。
僕はどんどん傷付けられていく。しかし、そんな事になろうとも、周りに大人などはいないし助けもいない。
奴らはある程度僕を傷つけた後、いつの間にかいなくなっていた。ボロボロになった僕は、人が通らないほうの道を歩き、何とか自宅に到着した。

「ただいま・・・。」
「おかえ・・・ちょっとどうしたの!?」

母が、とても心配そうな顔でたずねた。

「い、いつもと違うところ通って帰ってたら、転んじゃったんだ。」
「そう・・・大丈夫?」
「うん。」

いつもと違う場所を通ったのは本当の事。だけど、転んだのは嘘。母に「いじめられた」なんて言えるわけもない。だって、心配なんてかけたくなかったから・・・。
しかし、そんな暴力が毎日続くなんて、思ってもみなかった。だから、さすがに母も気付き始める。

「ねぇ、ホントはいじめられてるんでしょ?」
「ち、違うよ・・・。」
「ホントの事を言って。」
「違うって言ってるでしょ!!ほっといてよ!!」

母にそう怒鳴ってしまい、部屋にこもった。


僕って消えたほうがマシなのかな。死んだほうがいいのかな。
そうだとしたのならば、今すぐにでも死にたい。
でも、どうやって・・・?


そんな思考を巡らせながら、僕はベッドに横になり、天井を見上げた。いつもと変わらない、綺麗な天井。証明はパネルタイプで、家の屋根に設置してあるソーラーパネルで充電が可能。結構高度で、1時間充電すれば軽く1ヶ月もつ・・・多分。
部屋の広さは6畳半。出入口となっている扉は左右に引くタイプだ。勉強机は、廊下側から扉を開けるとしたら、右に置いてあり、そのまた右には少し小さめのケース型の洋服ダンスがある。

反対側には、押し入れがある。扉はスライド式だ。特にといったものはしまっていないが、中を開けると結構な縫いぐるみが入っている。
僕は昔から、縫いぐるみと戯れるのが好きだった。保育園に行っているときも、縫いぐるみを抱いていたのを覚えている。「男のくせに縫いぐるみ抱いているなんて、女みたいだな。」とからかわれていたが、その唯一仲のよかった子が、いつもかばってくれたから、問題にはならなかった。
だが、小学校にあがるとなると、縫いぐるみははずかしいだろうと言われ、今まであった縫いぐるみはほとんどしまってしまった。
それから全然開けていなかったが、久しぶりに開けてみるとする。

扉を開けると、縫いぐるみは綺麗に並べられていた。動物類の縫いぐるみが結構ある。とある幼児アニメの縫いぐるみもあった。
ふと違う方に目をやると、黒い熊の縫いぐるみが横たわっていた。目は血のような真紅の色をしている。横たわってる時点で無気味なのだが、僕はこの縫いぐるみの事を一番に大事にしていた。おもちゃ屋で、不思議と1人(1個)取り残されていて、可哀相に思えた僕が、親にねだって買ってもらったものだ。家に持ち帰り、他の縫いぐるみと一緒に並べた。
しかし不思議な事に、その縫いぐるみは、次の日になると一人ぼっちになったかのように、他の縫いぐるみから離れていた。不思議に思いながらも、また縫いぐるみ達と一緒にしてやると、やっぱり一人ぼっちになっていた。そしてそれは何度やっても、同じ事が続いた。だから、今度は自分で抱いて寝ることにした。
するとどうだろう、黒い熊の縫いぐるみは、僕が抱いていると一人ぼっちになんかならなかった。当時寝癖が悪かった僕は、縫いぐるみを抱いて寝ていると、必ず違う方にいってしまうのだ。しかし、この縫いぐるみは、ちゃんと僕の隣にいたのだ。意思があるのかと思って、ずっと持ち歩いていたっけ・・・。それに、名前も付けた。確か「クロア」って。

僕は、熊の縫いぐるみ――クロアを抱き上げた。

「ごめんね、クロア。ずっと一人にさせて。」

そう呟いたときだった。

「別に一人なんかじゃなかったぜ。」

クロアが喋った。もともと意思があったこの縫いぐるみ、いつか喋ることだろうと思っていたが、まさか本当に喋るなんて思ってもみなかった。

「何驚いてるんだ?あ、そうか。姿見せてないから、縫いぐるみが喋ったのかと思ったのか。」

そういうと、僕の目の前に、黒いフード付きマントを付けた白髪で長髪の男が、スーッと現れた。さらに驚きすぎて、声もでない。

「あれ?さらに驚いたって感じか?わりぃわりぃ!」

白髪で長髪の男はそういって、僕の頭を撫でた。知らない人に頭撫でられるなんて、何か変な感じだ。
彼はヴァリスと名乗った。死神なんだとか。


そう、これが僕とヴァリスとの出会いとなるわけさ。


「し、死神?」
「そ、死神。」
「僕、ノート拾ってないよ?」
「どこの死神だ。」
「あ、じゃ、アメ食べる?コーラ味だけど。」
「だから、どこの死神だ!」
「冗談だよ。で、死神が僕に何の用?」

急に声色を変えてみたら、ヴァリスと名乗った死神が驚いていた。

「お前、死にたそうにしてるからさ。死なせてやろうかと思って。」
「へぇ~・・・つまり僕を殺してくれるんだね。嬉しいよ。」
「お前珍しいやつだな。今まで死にたそうにしてるやつ見てきたけど、お前みたいなやつ始めてみた。」

それもそうだろ。普通ならば、例え死にたそうにしていても、嘘でも拒むはずだ。
僕みたいに最初から「嬉しい」だなんて言う奴なんかいない。
しかし、どうやって殺してくれるのだろうか。
そんな感じのような事を、ヴァリスに問い掛けた。

「俺は殺さない。お前が本当に死ぬのか見るだけ。」
「何だよ。死神のくせに人間1人殺せないのかよ。使えない奴だな。」

ヴァリスに生意気ぶってみせたら、やっぱり怒った。でも、それほど怖くはなかった。
そんなそぶりをしてると、

「生意気ぶってんのもいい加減にしろ!」

やっぱりこういわれるわけだ。
仕方ない、僕、実は性格にギャップがある人間だからね。

「とにかくだ、死にたいんだったらさっさと死ねばいいさ。でもいいのか?母親、お前の事すごく心配してたじゃないか。」

そう言われて、僕はクロアを軽く抱きしめた。
母は、僕の事を一番に大切にしてくれている、とても、とても優しい人。そんな母の事を、僕は大好きでいる。
しかし、いつものように心配して来てくれた母に、突き放すような感じで言ってしまった。もう、母に会わす顔などない。

「いいんだ。僕は死ぬ事を選んだ。気持ちは変わらない。」

僕はそういって、クロアをよりいっそうに抱きしめた。
しかし、ヴァリスが殺してくれないとなると、ここで窒息死するか、カッターで首を切るか刺すか・・・部屋を見渡すと、結構なほど死ぬ方法が見つかる。何ならここから飛び降りたっていい。

飛び降りる・・・?

「フフフ・・・そっかぁ・・・。」

そうだ、何でこんな事に気付かなかったのだろう。

「え、ちょ、何だよ、突然笑い出したりして?」

ヴァリスは、突然クスクスと笑う僕に驚いていた。たぶん、僕の表情が不気味だったのかもしれない。自分じゃよくわからないけど。
そんな、不気味かもしれない表情で、ヴァリスにこう言った。

「ヴァリス・・・連れていってほしいところがあるんだ。」

ヴァリスいわく、顔の表情はより悪に満ちていたという。


―現在時刻 3時1分 タイムリミットまで 後59分―


続・・・


© Rakuten Group, Inc.