風地蔵日記

今回の旅で、

どうしても　胸が痛むことがあった。



悪人の　主人公の家は　空き家でも、セットでもなくって、

実際　人が住んでらっしゃる家を

監督が　ほれ込み、頼み込んで　６日間の　ロケを

された現場でした。



　　　　知らなかった。。　　人が住んでる家だなんて。





家を見つけた喜びに　興奮してたあたし。

壁には　妻夫木さんと深津さんの　映画の写真入りの看板が

とりつけられていて、


その看板には　こう書いてあった。





　　　　　　　　見学の方へ　お願い

　　　　ここで映画｢悪人｣のロケが行われました。
　　　　見学はご自由に結構ですが、家の中をご覧に
　　　　なりたい場合は一言お声をおかけください。

　　　　　　　　　　　　　　　平戸市



私は、この文章を読んで、

「見学は　自由にできる！！」

「家の中まで見れる！」

「家の中を見るときは、誰か係りの人に　声をかければいいんだ！！」



そう、とった。



そして、玄関を　がら～っとあけて


　　　　　　「こんにちわ～～！！

　　　　　　　　　写真とらせてくださ～～い！！」


　　と元気に　声をかけたのだった。






　　　　すると・・・・












中から、休んでらしたもようの　おとうさんが　

家の中で着る格好で　出てこられ、



　　「な～ん、撮るもんは　なかばってん。」
　　　　　　(何にも撮るような　もの（場所）は　ないよ）



私の勢いは、　この家に出逢えた　喜びと、感動でいっぱいで

すっごくハイテンションだったのとは対照的に



　　　　　無愛想に響く声　静かな声だった。



あたりまえだ！！

せっかく　仕事の合間に　家でゴロンと休んでいるのに

どこの誰だか分らん奴が

ずかずかと　屋敷内に入り、

声高だかに　「こんにちわ～～！！！」と

ぶしつけな　声を　張り上げるのだから・・・・。






それでも　笑顔が　そのまんまの私に

少し　目だけは　笑ってくれたのが　救いだった。
　









おかしい・・

なんかおかしい・・


そう思いながらも、上がりきった私のテンションは

帰りの車に乗り込むまで

冷める様子はなかった。。。







　その晩の宿の　平戸のホテルに　ついた。



もやもやは　しながらも、



あしたは　もう一回、呼子のイカと刺身を食べて、

朝市で、スタッフにお土産を買って行こうかと、

寝るまでは思っていた。。











朝になって、チェックアウトをした。

フロントのみなさんは　悪人ロケ地めぐりをするわたしを

気持ちよく送り出してくれた。



かわいい　グランドホステスに

　「私も行ってみます。」そっと耳打ちされた。





平戸大橋を渡る。。






いや・・・　　だめだ・・　　帰れない・・




大きくユーターンをした。




行って謝ろう！！

おじちゃんに　きのうは知らなくって　失礼な訪問で

ごめんなさいと謝ろう！！



そして　あの看板は　あれでいいのか？


私のように勘違いをした人が、これから来るかもしれない。




いろんな人が、家の中に入って来ても、本当にいいのか？


聞いてみようと思った。





　　でも、私の勝手な　思いかもしれない。


　　やっぱり、やめよう。


　　きっと、よけいなおせわだ！！



またわたしは　引き返した。




また　ずいぶん前に走ったはずの　平戸大橋の　赤い鉄橋が見えた。







いや、このまま帰って、後悔してもいいの？




とりあえず、行こう！！

きょうは留守かもしれない。




そうだ！　おじちゃんの好きそうな　焼酎を　買って行こう。




途中の酒屋で　「この辺の人が一番飲むのは何ですか？」

５～６人のお客さんと　「これよね～」

「こっがよかろ～」　話し合う間もなく、全員一致で、


「くろうま」を２本買った。



おばちゃんは　器用にビニール　ひもで縛ってくれて

のし　までつけてくれた。





　　ドキドキした。。



玄関先に　座ってる人影が見えた。


サッシをあける。




おばちゃんだった。(昨日のおじちゃんの奥さん)



「あの・・きのう来たものです。。

あの・・住んでらっしゃるとは知らずに、

わたし、おじちゃんが　寝とらしたとに・・ごめんなさい！！！」




「まあ～　それで、遠かとこば、わざわざ、来てくんなったとですか？」




そして私の心配することを　言った。


「いろんな人がおるけん、あの看板見たら、勘違いしたり、

夜に来たり、いやなこと言ってみたり　されるとは

我慢できん。。。」



誰も、来ないと思ってたそうだ。

もうすでに数人は　来たらしい。

まだ１週間しか　経ってないのに。



これが、ＤＶＤになればどうだろう。。



福岡・佐賀・長崎の観光行政が　ロケ地マップを作り、

ていねいにこの漁村の案内をしてあるのだ。


行こうと思えばすぐ行ける。


そりゃ、この映画も応援したいし、

九州観光だって、全面協力したい！！




けれど、心ない人がいたとして、

この純粋な　人のいいおばちゃんやおじちゃんたちが

いやな思いをするのだけは　何としても嫌だった。





「だいぶお金もらったっだろ？」と　そう言う人もおるらしい。



「まさか！！」


私もそう思う！！


ほんとうに、まさか！！だ！



この映画が当たるか外れるか、撮ってるときには

わからない。そんなにお金を　使えないだろう。



これだけ注目されるとは　思ってなかった。



「わたしが　平戸市の　この看板書いた人に　電話しときます。」


そう、約束をした。









　　わたしたちは　映画の事、人生の事、子どもの事、いっぱい話した。




おばちゃんも　９月１１日に　映画を　平戸市内まで観に行ったこと。

「わたしも　もういっぺん、見たかとばってん。」

おじちゃんは　そんな人じゃないから、見には行かんと。

だから　ＤＶＤが出るのを　待ってると。



いろいろ、映画のロケの様子とかも話してくれた。



妻夫木くんは　すぐオッケ～だった

家の下の道を歩くシーンを

希林さんが　監督さんに

何回も何回も　やり直させられて


「わたしたちはなれとる坂ばってん、かわいそかった～。

足の痛かったろね～。申し訳なかった。」


とおばちゃんは言う。


「夜、遅～まで　撮影の続いた時もあって、

あしたは仕事てから　大丈夫だろうか、」て　思ったこと。



「家の中のセットはタンスからなんから　持ってきてあったけん、」

寝るところの　なかったこと



まわりの人の噂とは　まるで違うことが

わかった。



こうして一般の人の、善意の提供があって、

あの映画が作り上げられたこと。



今、監督や　出演者が、テレビに出て何かしゃべっていればいるほど、

この事を忘れてほしくないと、

強く思うわたしがいる。



「あ～～それ！！どこで買うたっですか？」


いや～、よかよか、よかですよと　遠慮されるおばちゃんに

大垣で来る前に買って、持ってた写真集を

無理やりあげた。(笑)



　　この家が　映っている。



祐一とばあちゃんが生活してるシーンの中の　この家が。




「わたし、この映画見て　自分を　みてるみたいで、

この家が、映画の中だけの家だなんて

思いたくなかったんですよ。本当に嬉しかった。

会えてうれしかったです。」




「車を入れて　写真いっぱい　撮って帰らんね。」




わたしたちは、住所の交換をして　この家を　あとにした。




また遊びに来ますとは　言えなかった。




映画のほとぼりが冷めた数年後、

また逢いに行こう。








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