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テーマ:格差問題(9)
カテゴリ:読書感想
私:昨日に引き続き、格差街道を進む。 この本を読んでいくうちに、この著者は男の人かなという錯覚を覚えたね。 A氏:何故? 私:文章が自己主張型だからだ。 本の最後の「おわりに」を読んでその理由がわかった。 著者は英文を書くスタイルでこの本を書いたとある。 原稿を一通り書いたところで数人の友人に見てもらったところ、「原稿から受ける印象と著者の印象とのギャップが凄まじい」と言われたという。 著者は一つには英語には関係代名詞があるから階層構造であるが、日本語にはないから、短文で切って並べるようになるという。 そうなると断定的な文章が並ぶことになる。 日本語と英語の裏にある文化の違いだね。 A氏:主語を最初に押し出す発想だね。 この本の宣伝を見ると著者はニューヨークとシリコンバレーで日本人初女性エコノミスト、証券アナリスト、コンサルタントとしてアメリカで26年間活躍してきたというね。 だから、英語発想になっているんだね。 そういう人が語るアメリカはまさに現場体験の真実だね。 ところでアメリカの格差の実態はどうだね? 私:著者はその体験からアメリカは4つの階層に分かれているという。 「特権階層」「プロフェッショナル階層」「貧困階層」「落ちこぼれ」だという。 そして、メーカーなどで働いていた中産階級の大半は「貧困層」へと落ちているというね。 いわゆる、俺たちが理想としたアメリカの豊かな市民生活をしていた中産階級が崩壊してきたのが、1970年代からだという。 A氏:君が「アメリカの没落」で指摘したことだね。 私:この本はアメリカ建国からの歴史を経済的な視点で説明しているので、この俺たちが白黒のハリウッド映画で見た中流階級のアメリカが中心だった時代は、稀な時代であることがわかるね。 A氏:日本も中流階層が出現したのは、戦後の高度成長時代だけだろうね。 それ以前は、格差はかなりあったからね。 私:アメリカは戦争などで他国に征服されていないから、「特権階層」は固定されている。 それにアメリカを動かしている頭脳として、世界から集まった多くのエリート集団がいる。 その一つに「フーバー研究所」があり、この研究所のフェローに就任できた日本人は“ミラーマン”だけだという。 A氏:ミラーマン? 私:植草教授のことだよ。 A氏:ところでアメリカはクリントンのときに財政黒字になったのではないの? 私:2000年度に1年だけ1960年以来初めて、わずかながら黒字を計上した。 しかし、その後、史上、最悪の膨大な赤字になる。 それでトラストファンドまで手を出す。 A氏:トラストファンド? 私:国民から預かった社会保障用の資金だよ。 これに手を出すがこげつきだす。 A氏:日本の財投に似ているね。 私:そして、老人医療補助の削減となる。 ガソリン税なんかこの10年間に4.6倍に増えたという。 いずれも貧乏人には厳しいね。 A氏:しかし、貧困階層が多数なら、選挙でもっと政策で反映されるのではないの。 私:その点、アメリカの民主主義は「特権階層」ががっちり握り、うまくコントロールしている。 それに貧困階層でも努力すれば、成功できる道はあるから、希望はある。 それに日本より職場間の流動性が高い。 これは安部首相のいう「再チャレンジ」システムが、アメリカではすでにかなりあるんだね。 A氏:アメリカの政治が問題をかかえていることはケネディ暗殺で明らかだね。 私:貧困階層に落ちる人は、日本と違って、アメリカ人は明るい、というようなことを著者は言っている。 しかし、「アメリカの没落」では、メーカーにつとめていた中流の従業員が貧困階層に転落していく姿を「気が重い」「人の生活を踏みにじった」「ひどい仕打ち」という暗い言葉で描写しているね。 著者はシリコンバレーやニューヨークに暮らしていたようだから、デトロイトやピッツバーグのような工業地帯が崩壊していく状況はあまり密接に体験していないのかもしれないね。 日本の格差の暗さはこのデトロイトやピッツバーグの暗さではないのかね。 A氏:まぁ、それは1970年から80年にかけての日本製品の進出とも関係するね。 デトロイトの自動車労働者が日本車をハンマーで壊しているのをテレビで放映していたものね。 よほど、頭にきたらしいね。 私:しかし、俺が知的興味をひいたのは、日米の格差の性質の違いだね。 著者は、日本の格差は「労働報酬格差」だという。 アメリカの格差は「資産格差」が大きいという。 アメリカでは資産家は、資産を運用してその運用益を形成して、雪だるま式に資産を増やし、資本分布の格差を拡大する。 その圧力であらゆる企業は人件費を極力下げる努力をする。 日本はその世界的な枠組みの中で「労働報酬格差」が発生しているが、この問題と「資産格差」は分けるべきで、「労働報酬格差」のほうが対策は立てやすいというね。 A氏:そうすると日銀の福井総裁は1千万を村上ファンドに投資して1千万余ほど稼いだと日本では騒いでいるが、これはまだ、福井総裁のサラリーマンとしての「労働報酬格差」レベルの話だね。 アメリカでは、このくらいのクラスは、何億円という投資で、何倍の利益を得る階層の話だから、その点、福井総裁の話はミミッチイね。 アメリカの「資産格差」は途方もなくスケールが大きいようだね。 私:そして、特権階層は余った金を芸術など文化活動に提供する。 まさに、かっての王朝時代のようだね。 日本の特権階層にはまだ、それだけの余裕はないようだね。 著者は、アメリカは資本の偏在と粗末な公共基礎教育が根底にあるので格差社会の解消への道は程遠いという。 A氏:「資産格差」は新市場主義とからんでアメリカだけでなく世界を駆け巡り、利益をむさぼるのかね。 私:残念ながら、この本はアメリカの新市場主義(新保守主義) との関係にふれていないが、「資産格差」の展開はそれを示しているね。 新市場主義(新保守主義)との関係を強調している内橋氏の「悪夢のサイクル」と併読するとよいと思うね。 A氏:しかし、一方で多くの問題を抱えながらアメリカの成長があるのは、創造力を重視する社会体制だね。 格差があってもやる気があればチャンスはあるから、「心地よい」というわけだね。 私:これは、余談だが、著者がアメリカで学んだとき、友人たちとすぐに仲良くなったが、会話は日常的な軽い話で、政治、経済、人生論などの話は一切なかったという。 そして、勉強の目的はより多くの金を得るためだね。 イギリスから来た学生もそれを感じ「アメリカはまだ歴史が浅いからだ」といったというね。 著者は、アメリカは文化の多様性がある反面、公表される意見や目に見える行動はおどろくほど、標準化しているという。 「人種差別が悪い」となると反対意見は姿を消して、その原因を突き止めて問題を解決しようとする努力も停止するという。 A氏:禁煙もダイエットもすごいね。 標準化しているね。 戦後、共産主義に対するマッカーシズムがあったが、あれもすごかったね。 私:まぁ、イラク戦争もアメリカの階層構造との関係から理解することもできる。 今のアメリカを全体として知るにはいい本だね。 そして、著者が言うように、アメリカの真実を知って、日本ははるかに長い伝統文化を持っているのだから、よく足元を見るべきだね。 A氏:しかし、時代の流れとして、これから日本にも「資産格差」が生まれるのかね。 それとも朝日新聞で先週、連載していた「ファンド列島・うごめく巨大マネー」にあるように、今後、10年くらいで約1500兆円の日本の個人資産を狙って、アメリカのファンドが日本の資産を飲み込み、国際的な「資産格差」に拡大するのだろうかね。 並行して、「労働報酬格差」もアメリカ並みに拡大するのだろうか。 一方では、日本では大企業の増益と、派遣社員、偽装下請、パート、外国人労働者などの間では「労働報酬格差」が始まってはいるが――――。 日本の株式市場でのアメリカファンドの動きには目を放せないね。 「資産格差」の前兆か? 君の日記につぎのような文があるね。 「グローバリゼーションは、国を征服するよりも、市場を征服しようとするものである。 この近代的権力の狙いは、大々的な侵略が行われた植民地時代のような領土の征服ではなく、 冨の所有権の奪取である。 この新たな征服には圧倒的な破壊がともなう」 「この地球上の全人口のうち、最も豊かな5分の1が80% の資源を所有し、もっとも貧しい5分の1は、0.5% 以下の資源しか所有していない」 新しい金融植民地化の拡大による「資産格差」の拡大か? そして、日本は伝統文化を忘れ、アメリカ並みの軽い文化的なノリで過ごすようになるのかね。 私:―――――。格差街道も終点か。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.12.11 07:25:30
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