カテゴリ:読書
北村薫「スキップ」を読んだ。
(この記事は一部ネタばれ含む) 文庫本の付記にあったが、「スキップ」は「ターン」より先に発表された。 だが、「ターン」のほうを先に書くつもりだったと北村は告白している。 「スキップ」の主人公は17歳の女子高生。 「ターン」でもそうだった。 北村が、「実は女性では?」と言われるのもわかる。 舞台は昭和40年代初め。 彼女は25年後に飛ばされてしまう。 肉体は42歳のおばさんにとなって。 女子高生一ノ瀬真理子から高校の国語教師、桜木真理子。 その日から、彼女の新しい生活が始まった。 一言で言えば、「逆バック・トゥ・ザ・フューチャー」というところか。 救いなのは真理子が前向きな女性だということ。 そうでなければ中身が高校生であるにもかかわらず、教壇には立てまい。 「挙動不審な先生」となった真理子。 すでに結婚していて高校生の娘もいる。 年頃の女性としては、鏡を見るのがとても怖かっただろう。 その部分は読んでいて同情した。 感動したのはバレーボールのシーン。 校内大会で決勝まで進んだ真理子のクラス。 エースのニコリを狙う敵チームの戦略に思わぬ苦戦を強いられる。 満足にバレーのルールも知らない真理子はタイムを要求。 選手たちに敵の作戦が5人に向けられていることを伝える。 試合は最終セットにもつれ込む接戦。 私は不覚にもこの場面で涙してしまった。 ニコリはなぜコートに立つ決心をしたか。 心ならずもバレー部を去ったニコリ。 「おまえからバレーを取ったら何が残る」と顧問に訊かれた。 「私が残ります」と答えたニコリ。強い子だ。 そのニコリが出した答。それがバレーコートにあった。 「自尊心」は真理子だけが持つものではない。 ニコリにはニコリの自尊心があった。 この作品は、レトロな一面もある。 昭和40年代を思い出せる人にはまた違った楽しみ方もできるだろう。 テレビでは「てなもんや三度笠」、「シャボン玉ホリデー」が放送された。 作品の中にはドラマ「氷点」や、「白い巨塔」も出てくる。 財前五郎役は佐藤慶。 「タイムショック」の田宮二郎でもなければ唐沢寿明でもない。 他にもGS(グループサウンズ)、ドーナッツ盤、カミナリ族。 テレシコワ、クイズ番組のジェスチャーなどが出てくる。 バレーボールは「東洋の魔女」、そして実質的な日本代表のニチボー貝塚だ。 東京オリンピックでの決勝は何回もビデオで見た。 ご都合主義の部分は確かにある。 しかしそれを差し置いてもこの作品は面白い。 読者は北村ワールドを素直に楽しんでいいんじゃないか。 「スキップ」と「ターン」はともに直木賞の候補になった。 だが彼はどちらの作品でも受賞することができなかった。 北村は、合計5回直木賞候補になった。 最近の受賞作を見ていると、北村が受賞者に劣っているとはとても思えない。 「こんなのが受賞作か?」と思う作品すらある。 芥川賞と直木賞はミステリーだ。 北村が書く小説以上に。 「スキップ」と「ターン」を読んだ。 ということは、次は「リセット」になるのか。 ※誤りが見つかったため、11年6月に一部編集しました。 バナーにクリック願います。 ***トラックバックはテーマに関係するもののみどうぞ。 その場合リンクは必要とはしません。 意見があればメッセージでどうぞ。 ただし荒らしと挨拶できない人はお断りです。 今のところメッセージは全て読んでいます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.06.05 10:01:24
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