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2009.01.21
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カテゴリ:読書
北村薫「スキップ」を読んだ。
(この記事は一部ネタばれ含む)

      

文庫本の付記にあったが、「スキップ」は「ターン」より先に発表された。
だが、「ターン」のほうを先に書くつもりだったと北村は告白している。

「スキップ」の主人公は17歳の女子高生。
「ターン」でもそうだった。
北村が、「実は女性では?」と言われるのもわかる。

舞台は昭和40年代初め。
彼女は25年後に飛ばされてしまう。
肉体は42歳のおばさんにとなって。
女子高生一ノ瀬真理子から高校の国語教師、桜木真理子。
その日から、彼女の新しい生活が始まった。
一言で言えば、「逆バック・トゥ・ザ・フューチャー」というところか。

救いなのは真理子が前向きな女性だということ。
そうでなければ中身が高校生であるにもかかわらず、教壇には立てまい。

「挙動不審な先生」となった真理子。
すでに結婚していて高校生の娘もいる。
年頃の女性としては、鏡を見るのがとても怖かっただろう。
その部分は読んでいて同情した。

感動したのはバレーボールのシーン。
校内大会で決勝まで進んだ真理子のクラス。
エースのニコリを狙う敵チームの戦略に思わぬ苦戦を強いられる。

満足にバレーのルールも知らない真理子はタイムを要求。
選手たちに敵の作戦が5人に向けられていることを伝える。
試合は最終セットにもつれ込む接戦。
私は不覚にもこの場面で涙してしまった。

ニコリはなぜコートに立つ決心をしたか。
心ならずもバレー部を去ったニコリ。
「おまえからバレーを取ったら何が残る」と顧問に訊かれた。
「私が残ります」と答えたニコリ。強い子だ。
そのニコリが出した答。それがバレーコートにあった。
「自尊心」は真理子だけが持つものではない。
ニコリにはニコリの自尊心があった。

この作品は、レトロな一面もある。
昭和40年代を思い出せる人にはまた違った楽しみ方もできるだろう。

テレビでは「てなもんや三度笠」、「シャボン玉ホリデー」が放送された。
作品の中にはドラマ「氷点」や、「白い巨塔」も出てくる。
財前五郎役は佐藤慶。
「タイムショック」の田宮二郎でもなければ唐沢寿明でもない。
他にもGS(グループサウンズ)、ドーナッツ盤、カミナリ族。
テレシコワ、クイズ番組のジェスチャーなどが出てくる。
バレーボールは「東洋の魔女」、そして実質的な日本代表のニチボー貝塚だ。
東京オリンピックでの決勝は何回もビデオで見た。

ご都合主義の部分は確かにある。
しかしそれを差し置いてもこの作品は面白い。
読者は北村ワールドを素直に楽しんでいいんじゃないか。

「スキップ」と「ターン」はともに直木賞の候補になった。
だが彼はどちらの作品でも受賞することができなかった。
北村は、合計5回直木賞候補になった。

最近の受賞作を見ていると、北村が受賞者に劣っているとはとても思えない。
「こんなのが受賞作か?」と思う作品すらある。
芥川賞と直木賞はミステリーだ。
北村が書く小説以上に。

「スキップ」と「ターン」を読んだ。
ということは、次は「リセット」になるのか。

※誤りが見つかったため、11年6月に一部編集しました。


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最終更新日  2011.06.05 10:01:24
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