カテゴリ:読書
読んでいて苦しくなる小説。それが石田衣良の「LAST」だ。
(この記事はネタばれあり) 人には大きく分けて白と黒の2種類がある。 あの巨匠、手塚治虫もファンは「白手塚」「黒手塚」と呼ぶ。 手塚の代表作、「火の鳥」は白と黒の混ざった部分が悲劇的。 それが評判の一因だと私は解釈している。 私が知る限り、石田は白が多かった。 だがこの作品(短編集)は石田の黒い部分を見せている。 今までの石田を高く評価している人でも「LASTは嫌い」と言うかも。 逆に、「今までの石田は嫌いだったがLASTは評価できる」ということもある。 この短編に出でてくる人はみな追われている。 どん底へまっしぐらという場合もある。 「ラストライド」 印刷業している中年の男。彼には多額の借金がある。 ある日、彼は債権を持っているヤクザまがいの会社から選ぶよう言われる。 自殺して保険金で借金を返済するか。 それとも妻と中学生の娘を売るか。回答の期限は1日。 決断に苦しむ男。 だがこの話が冗談ではないということを宮部みゆきは証明している。 嘘だと思うのなら、彼女の小説「火車」を読むといい。 石田が描く以上の悲惨さがそこにはある。 ある意味、怪物や妖怪より人間がもっとも恐ろしい。 「ラストジョブ」 これも32歳の主婦が借金を抱えて困る設定。 最初から読者を思いっきり沈ませてくれる。 彼女は返済に困って出会い系サイトへ。 そこで知り合った若い男は車椅子に乗っていた。 夫はいたが罪悪感は彼女になかった。 その男は自分の友人を紹介した。 その求めに応じる彼女。 やってることは売春なのに話がきれい過ぎる。 それが石田の魅力でもあるが、現実はそんなものじゃないだろう。 このエピソードでひとつ忘れてはならないこと。 それは障害者も性欲があるという当たり前のこと。 石田は教育テレビで障害者と接する番組に出ている。 だからこそこの話を書いたのだろうと私は解釈している。 「ラストコール」 テレクラに入った33歳で独身の男。 電話に出た20歳の女性からいろいろな話を聞く。 彼女の話は面白く、現在社会を象徴している。 いじめ、ネグレクト、売春など読んでいると苦しい。 そして衝撃のラストが待っている。 話の内容とは関係ないが、このエピソードで気になったフレーズがある。 それがこれだ。 >国民が決断しない国の政治家は、国民と同じように決断しないのだ。 どこかで使えそうな気がする。 「ラストホーム」 膝のケガから失業してホームレスになった40歳の男。 上野でホームレスの仲間に受け入れられる。 そこでの仕事は雑誌集め。 血を売って借金返済する話は「波のうえの魔術師」でも出てきた。 石田はどこかの取材でこの話を聞いたのかもしれない。 以前、日本がまだ献血でなく売血だった時、「黄色い血」という話があった。 「ラストドロー」 これも借金が主人公の背景にある。 中国人グループに「出し子」と呼ばれる仕事を請け負った男。 他人の銀行口座から現金を引き出す役だ。 仕事と返済に困った男は、この役でかなりの収入を得る。 そして最後の取引が始まる。 男は勝負に出る。 「ラストシュート」 このエピソードは話の舞台がベトナム。 優秀らしい医師に雇われたカメラマンの男。 高額の収入に引かれてリゾート地に来る。 そこで男が見たものとは。 この世にはいろんな趣味の人がいる。 それが国内だけでなく、海外にも「輸出」されるようになったら。 日本もおしまい。 だが現実には、日本人が多く売春ツアーに出かけてしまった現実がある。 「ラストバトル」 サラリーマンの街、新橋で街金の看板もちをしている男が主人公。 これも借金のためにそうなったという背景。 あることがきっかけでこの男、人生最大の勝負が行われることになる。 正直、一般人に勝負させるヤクザというのも情けない。 石田の描くヤクザは型が決まっているのか。 希望の残る終わり方だけどすっきりしないものを感じた。 石田の表現力について一言。 彼は美味いことを「舌がしびれるほど」と表現したがる。 だが彼の本を1日複数読む場合。 何回も同じ表現が出てくるのはどうかと思う。 作家は言葉が命。 ならば表現方法もそれなりに考えないと。 *********************** 関連記事 「LAST」石田衣良 LAST / 石田衣良 LAST (ラスト) *********************** ※トラックバックは管理人が承認した後に表示されます。 バナーにクリック願います。 ***トラックバックはテーマに関係するもののみどうぞ。 その場合リンクは必要とはしません。 意見があればメッセージでどうぞ。 ただし荒らしと挨拶できない人はお断りです。 今のところメッセージは全て読んでいます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.10.28 18:10:40
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