こんなものを買った~食事券19万円分
3月のこと。胃腸カゼというものにかかった。夜に食べた玄米が翌日になっても胃にもたれている。胃腸がストを起こしたようだった。数日は水分だけ、全がゆを10日間、ふつうの食事がとれるようになるまで2週間かかった。原発事故以降は旅行のような時以外、外食は控えてきた。それ以前も、自分で作る料理は最も自分の好みに近い味にできるから、熱すぎ、甘すぎ、塩辛いケースがほとんどの外食には消極的だった。白米のいちばんおいしい食べ方はお冷やご飯だと思うが外食では食べられない。ジャポニカ米のカレーや丼ものをよろこんで食べる人たちは、わたしにとって異邦人だ。しかし、この2週間の反動で、家で調理をするのがイヤになった。せっかく治ったのだから、かなり節を曲げてできるだけ外食を楽しむことにした。昨年3月、ホテルに泊まると利益が出るという経験をした。今年も同じうまい話があるかと思って検索をかけていたら、ホテルはないが食事券を見つけた。どうせ買えないだろうといくつかオーダーを出していたら、5月末まで有効の1000円食事券を190枚も買ってしまった。1000円×100口、つまり10万円分の商品券もおまけについてきた。この食事券は全国数千店、札幌でも数百店で使うことができる。とはいえ、60日ほどの有効期間内にすべてを使い切るのは不可能に思えたので20枚ほどはふだん世話になっている知人にあげた。学生との飲み会に10数枚使った。試しにとオークションに出してみたら6枚ほど売れた。150枚、15万円分は自分で使い切った。安い食事券だけに一度に1000円分しか使えない、ランチは使用不可、要予約など条件があり、それも店によって運用がバラバラでとまどうことも多かった。しかしほぼ毎日のようにあちこち食べ歩いているうちに、行く店は決まってきた。ランチの時間が長く一度に複数枚使える店、ひとりで入りやすく分煙が徹底している店、WIFIの電波が届く路面店といった条件のほかに、駐輪や駐車がしやすい、従業員の感じがいい、定休日がないか少ないといった店を無意識のうちに選ぶようになっていた。食事の内容としては居酒屋のランチがいいが禁煙や分煙が徹底していないケースが多く、禁煙でも前日のタバコの匂いが残っていたりするので敬遠するようになった。居酒屋ブームのころに青春期だった人間としては残念だが、この業態の未来はあまり明るくないように思えた。天気のいい日の安めのイタリアンは要注意だ。かなりの確率で就学前の子どもを連れたママ友グループに遭遇して不快な思いをする。同じチェーン店でも店によってかなりちがいがあるのには驚いた。高級住宅街にある店はブロンクスな地域よりも料理の味がいいし盛りつけなども(同じメニューなのに)凝っている。一方、ブロンクスな地域の店は同じメニューでも量が多かったりする。個人経営の店は、それなりに凝っているのだが、調理に時間がかかるケースが多く、若い店主の店ほど塩味が強いのでやはり足が遠のいた。結局、昼食は都心で鮨かイタリアン、夜は近くの中華料理屋で酒とサラダや点心というパターンに落ち着いた。それにしても、雨にもマケズ風にもマケズ毎日外食に歩くのは、ときとして苦行だった。ランチはかなり量が多いので、夜は軽くて済む。おかげで一ヶ月に500グラムずつ体重が減ってきている。思わぬ副産物だった。もうひとつの副産物はあらゆる出費の減少。冷蔵庫をほとんど使わなくなったせいか電力使用量が前年同月比で30%減った。食品の買い物は80%減ったしゴミもほとんど出なくなった。19万円分の食事(と10万円の商品券)のコストは33713円でこれが2ヶ月分。6月分は5万円分を6956円で手に入れることができたが7月分は3万円分を7240円と少しコストが上昇してきている。商品券では海苔や珈琲や乾麺のような食品と、SDカードやLEDライトといった雑貨を大量に手に入れ、一部は換金したのでこれを勘定に入れると家計の減少分を除いても実質無料で食事ができたことになる。苦行に耐えた甲斐があったというものだ。週末にしか料理をしなくなると、新しい料理に挑戦しようという気になる。かえって料理のレパートリーが増えた。外食ではどうしても生野菜や果物が不足するので、以前よりもたくさんそれらをとるようになった。実質タダで手に入れた商品券では、山谷やりべるたんにお茶やジュースなどのカンパをした。もらった方はその量に驚いていることだろう。こんなうまい話は去年のホテルの件同様、長く続くとは思えない。思えないが、できるうちはとことん利用するつもりだ。この調子で行けば、山谷の夏祭りにはそうめんを、越冬闘争にはうどんをそれぞれ200食分くらいは送ることができそうだ。一言で言うと笑いが止まらないが、ほんの少し好奇心と冒険心を発揮するだけで誰でも同じメリットを得られるのに、定価神話を信じる日本人には理解できない案件のようだ。