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ラブレターフロームカナダ

ラブレターフロームカナダ

道子の日記、1~9

第1話、鬼のパンティ

♪鬼~のパンツはいいぱんつ~
強いぞ~強いぞ~

♪何年~履いても破れない~
強いぞ~強いぞ~

♪履こう、履こう鬼のパンツ~

♪履こう 履こう鬼のパンツ、、、、



今から30年も前に幼稚園のグランドで、
何度も親友の花子ちゃん踊ったこの曲、


そう、これは、私の将来を暗示した歌だったに違いない、、





「うわっ、みっちゃん鬼のパンツ踊るの上手だね、カッコいいよ、、」

「そ~お?花ちゃんね、もうちょっと足広げるともっとかっこいいと思うよ、、、」

「恥ずかしいよ~」




彼女は顔を赤くしながら照れ笑いをした。
こういう照れ方をする花ちゃんは、名前の通り華やかで可愛いく、
茶色い髪をいつも三つ編みにして、
その先には決まってかわいいピンクか赤のリボンがついていた。

それに比べ私は名前の通り、道のように地味な顔をしていて、
母親が面倒くさがりだったのか、
髪は男のように短く刈られ、着るものもいつも兄のお古で、
道を歩けば必ず男の子に間違われていたのだ。
そんな容姿に沿うように,
行動もたいそう変だったに違いない。




花ちゃんに踊りを褒められ有頂天になった私は
家に帰って即効母親にこう聞いた。




「お母さん、黒と黄色のマジックある?」

「何に使うの?」

「内緒~」




そうやって私は母親から二つのマジックをもらうと、
母が買い物の行くのを見計らった後、
自分のグンゼの5歳用の軍艦パンツに
鬼のパンツのように、黄色と黒で縞々を描いたのだ。




「これでよしっと、、、」




描き終えたパンツを両手で高々と持ち上げると、
それはまさに本物の鬼のパンツのように見え、
5歳児の私にとっては宝石よりも、
金の塊よりも高価なものに見えていた。



「これで明日花ちゃんを驚かしてあげよ!」



黒と黄色を順番に縞のように描いていくと
股のところがちょうど黒になってしまっていたが、
そんなこと、5歳の私に分かるはずはなかった。
次の日、母親の目を盗んで、私は履いていた白のパンツの上に
その鬼のパンツを履いて、ダブルパンツで幼稚園に行った。




「花ちゃん、踊ろうよ!」



私は勢い勇んで花ちゃんの手をひっぱり、運動場へ連れて行くと
彼女の前で思いっきり鬼のパンツを踊った。




♪履こう 履こう 鬼のパンツ~



花ちゃんの二つの三つ編みが宙に浮いてゆれるのを見ていた。

かわいい花ちゃんがジャンプしながら私の前で踊っている、
たまに私の踊りが面白すぎたのか、
ジャンプを止めてケラケラ笑ったりして、
それがまたたいそう可愛く、
私の変なサービス精神は、
彼女のかわいい笑顔に焚き付けられ、
どんどんとエスカレートしていった。




「花ちゃん見て、このパンツ!」



興奮してしまった私は
スカートのすそを持ち上げて踊りだしていた、、



♪履こう 履こう 鬼のパンツ~




「うわっ、みっちゃん、鬼のパンツ履いてるやん!」

「ええやろ~!」

「うん、すごく格好いい!」




気分は最高だった!

戦国時代で言えば、天下をとった後の将軍の気持ちと
さほど変わらなかったかもしれない、、




♪履こう 履こう 鬼のパンツ、



ただただ地球は自分を中心に回っていると疑ったことの無い私は、
鬼になりきった自分を「クール」だと思い、
楽しい楽しいひと時を過ごしていた。



♪履こう 履こう 鬼のパンツ~



この世界を誰かと共存しながら生きているなんて、
彼らにこう言われるまで気がつかなかったのだ。




「汚ね~!道子のパンツ、うんことおしっこついてるやんけ~」


クラスの男の子が言い出した。
そしてそれに続くように、


「本当だ~汚ね~、うんこ漏らしやがった~見ろよ、股のところ、
うんこ色してるやんけ~汚ねえなあ~」




そして「鬼のパンツ」の歌は
すぐに次の歌へと変わったのだ、、



♪みっちゃん、道々ババたれて~

紙がないので~手で拭いた~、、、、








これから、純粋を貫き通そうとしていた私の人生の幕開けに、
はたして彼らの大合唱が適当だったのだろうか、、、、

答えはいくら考えても「NO」だが、

皮肉にも、
私は「鬼のパンツ」の歌の通り、破れない、脱げない、
まさに鋼鉄の鬼のパンティを
履き続けることになったのだ。




それはまさに、黄色と黒に彩られた悲しき人生だった。


                                  続く



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第2話、バレンタイン



私の住んでいた学区では
二つの幼稚園が合併し
少々の入れ替わりはあったものの
殆どの子供はそのまま持ち上がるように、
同じ小学校、中学校へと進んだ。

いつの世も、子供というのは残酷なもので、
「面白いから」という理由で
言いにくいことも言ってしまうし、
やりにくいこともやりのけてしまう、

そしてその持ち上がり形式と、子供の残酷さが
見事なまでに絡み合い、
私の純粋な心に
暗い影を落としていった。

あの日、あの事件が会った日、
私はただ普通のパンツに落書きをして履いていただけだったのだ、
それなのに、
小学校に入る頃には、
私は本当にアレをお漏らしした
という事実にすりかえられており、
「ババたれ道子」とあだ名をつけられた私は、
その重い十字架を、中学卒業するまで
背負う事になってしまっていた。



そんなババたれ道子でも、
小学5年の頃には、普通の女の子のように
素敵な男の子に恋心を抱き、
結婚する夢などを見るようになっていた。

授業中、ノートの端に相合傘を書いては、
「三木君、道子」と何度も書いては
書いた回数分消しゴムで消すという
そんなアホなことを繰り返す日々を過ごしていた。


「ねえね、今度のバレンタインさ、道ちゃんは誰にあげるの?」


親友の花ちゃんが聞いてきた。
小学5年生になってやっと同じクラスになれた私達は
相変わらずとても仲が良く、
放課後もどちらかの家によっては
晩御飯の時間まで毎日遊んでいた。

可愛かった彼女の二つの三つ編みは、
その頃にはお洒落なポニーテールに代わり、
彼女の愛らしさは徐々に大人の色気へと変わって
いっていたのを私は敏感に感じていた。

まだその頃、美容院の存在すら知らなかった私は、
母に口答えすることもなく、
毎回、兄のバリカンで髪を短く刈られていた。
再度言及しておくが、私の場合、「髪を短く切られ」ではなく、
「刈られ」が相応しい髪型だったろう。



「そういう花ちゃんは誰にあげるのよ、、」

「私?うふふ、、実はね、三木君!」



三木君というのは、クラスのクラス委員であり、男前で
勉強も出来た。
はきはきした性格と少々悪戯好きな彼は
チョイ悪男前で、
男女問わず人気があり、いつも5,6人の男の子が
彼を取り巻くようにいつも一緒に居た。


「道ちゃんは誰にあげるのよ、、」

「わ、わたし、、?勝田にあげようかな、、、」


勝田とは、三木君の取り巻きの一人で
一人ではどうってことない男の子だったが、
三木君の取り巻きということで少々目立っていた。
顔は悪くは無かったが、家が貧乏だったため
いつも汚い服を着ており、
頭が悪かった。

私は本当は「三木君命」だったはずなのに、
花ちゃんの突然の「三木君にチョコあげる」宣言に、
かなり怖気好き、
勝田ぐらいならば私のチョコを受け取るだろうと
とっさの判断で彼の名前がでてきたのだ。


「え~勝田くん、意外~!」


そりゃ意外だろう今思いついたんだから、
と心でつぶやきながら、
私はその日の内に、
無理矢理花ちゃんにお店に連れていかれ、
月のおこずかいの半分の700円も使い、
どうでもいい勝田の為にチョコを買ったのである。


そして来る2月14日に、
私はそのどうでもいい男のカバンに
チョコをそっと忍ばせることとなってしまったのである。





小学5年生の時点で、
既に曲がり角を曲がり間違えていた愚かな私は、
ババなどたれたこともないのに

「ババたれ道子」

と名づけられた
可愛そうな女でもあった、、、。





                         続く


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第3話、どいつもこいつも


2月14日に、
どでもいい勝田にカードを添えて
彼のカバンにチョコを忍ばせた。



カードにはご存知のように何も書く気がなく、
もちろん好きでもなんでも
ない男に

「好きす」

なんて口が裂けても言える、、いや、手が腐ろうと
書けるはずはなく、
ただ、

「道子より」

とだけ書いた。


それからが大変だったのだ、、、。
チョコを渡したその日から、どうでもいい勝田が
気になり始めていた。
向こうも向こうで妙に意識し始め、
少しの勝利がにじみでていているような顔つきで
私を遠巻きに見たりしていた。
勝田の周りの友達も、
勝田にひじで突きながら何やらニヤニヤ
私の方をもながらヒソヒソと話をしたりしていた。



そう私は勝田に惚れた女の子として
あのグループ内で噂になりはじめていたのだ。



私が同じ運動場に居合わせたりすると
勝田は急に張り切りながら、サッカーボールを
蹴ったり、大声を出したりして、
妙に私の気を引くような仕草が目立ち始めていた。
そんな彼の勝ち誇った態度に私はむかつき、
心では、

「おまえにあげたくてあのチョコあげたんちゃうわ~!」

と叫びながら、
絶対目を合わせないようにする毎日が続いた。

そして3月14日のホワイトデーが1週間後に迫ったごろには
お互いの緊張はピークに達していた。

勝田ぐらいならばいけるだろう、という私のあの勝ち誇った
自信は徐々に崩れていき、
最後は、

「もしもらえなければどうしよう、もう二度と学校に行けない、」

などとかなり気弱になっていた。





そしてそんな私の気弱心と共に、
ホワイトデーはやってきたのである。


「みっちゃん、見てこれ!」

花ちゃんが何やらこそこそしながら走ってきた。

「これ、今ね、カバンの中に入っていたの、、」

花ちゃんの手にはピンクの可愛いハンカチがあった。
よく見るとサンリオのパティ&ジミーで、
私の一番好きなキャラだった。

「どうしたの?これ、、」

「ホワイトデーのお返しに三木君がくれたみたいなの~」

「ちょ、ちょっと、、ちょっと触らして、、」

「駄目~大事なものなんだもん、」



途中まで出しかけた自分の手が宙に浮いていた。
愛しの三木君からのハンカチが自分の手の届く
範囲にある、、、もし神様が1分だけ時間を止めてくれたならば、
そのハンカチを花ちゃんからすこしばかり拝借し、
自分の手でもちながら顔にさすってみたかった。


「それよりも、勝田君からは、、」

「うん、、何も返事ない、、」

「そっかあ、、、あ、みっちゃん名前書き忘れたんちゃう?」

「ちゃんと名前書いたわ、でももうええねん、
あんまり好きじゃなかったし、、、」


「もうちょっと待ってみる?」

「ううん、もうええ、帰ろ、早よ帰って遊ぼ、、」



かなり強がっていたが、
この一ヶ月間の緊張は、
勝田から何ももらえなかったという事実によって
かなりの疲労に変わりはじめていた。

少し放心状態で、ウキウキ花ちゃんと肩をならべ
下校しようと門を出たところだった。

木の向こうに三木君グループが居たのである。



「俺は花子にハンカチあげたで、あいつ可愛いし、
おまえはどうしてん、ババたれになんかあげたんか?」


三木君だった。

「おまえ何言うてんねん、
ババたれ道子になんかに
なんで俺があげやなあかんねん、
あいつ男みたいな顔して、
男の服着て、いっこもかわいないやんけ、、」



それを聞いた花ちゃんが彼らに駆け寄った。


「あんたら何言うてんのよ~酷いわ~!」


叫んだ。
そしてその叫び声に彼らはびっくりして
飛び上がり、その不細工な状況を取り繕うために、
彼らは、花ちゃんの後ろに隠れるように立っていた
私に中傷したのだ。


「あ~ババたれ道子や~汚ね~」


最後まで聞かずに、
私は何も言わず走り出した。
追っかけてくる花ちゃんを振り切って、
家に向かって永遠と走った。


「なんでやねん、お母さん、なんで私の髪は
こんな短いねん、
なんで私はお兄ちゃんのお古のシャツばっかり着てんねん、、」



目から鼻から涙が溢れていた。
男のように育てた母親を責めることで
なんとか怒りの持って行き場ができていた。

家に入る前に泣き止むことも出来ず、
私はそのまま玄関で急いで靴を脱ぐと、
母の顔も見ずに自分の部屋へと急いだ。

部屋に入ると
小学6年の兄は一足先に家に帰っていた。
いつもならば「お帰り」の一言があるはずなのに、
兄は私に見向きもせず
自分の机に向かったままでいた。

私はその兄の奇妙な行動を不思議に思い覗き込むと、
兄は机の上に並べてあるチョコを眺めていた。



そして兄はゆっくりと私の方に振り向くと、
満悦の笑顔でこう言った。





「道子、どうや、、、チョコレート屋さんできそうやろ、、
でもな、こんだけチョコあったら
誰にもらったわ忘れてしもて、ホワイトデー誰にも
あげれんかったわ、、、」






その夜に一人誓った。


どんな男前が私の前に現れても、
そしてその男前が「Yes」という言葉を
私に言う予定だったとしても、

2度と2度と男には告白しないと、、、。


                         続く


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第4話、鉛筆パンツ


中学に入ると私は、
母親に抵抗し、
少しだけ髪を伸ばし始めた。



伸ばしたと言っても肩に付くか付かないぐらいの長さで、
それでも街を歩けば
もう男の子に間違われることは無くなっていた。


それに母も中学になった私に
兄のお古を着せることはなくなり、
もちろん学校へ行くときは、
制服というものがあったりして、、
兄のお古ではなく、
女の子の服を着て出かけるようになっていた。



やっとのことで、
「兄のお古撲滅運動」に勝利したものの、
まだまだ大きな難関は残っていた。


私の通っていた中学では、校庭の隅に
25Mの長さのプールがあり、
夏になれば体育の時間は殆どがプールで、
あのくそ熱い日本の夏に、
殆どの子供は体育の時間になると、
歓喜の声を上げて騒いでいたのに
私だけはいつも憂鬱だった。


そう、
パンツがまだグンゼの軍艦だったのだ、、、。
それも白で縦の長さは余裕でおへそを隠していた。





その頃クラスでは
イケている、とされる殆どの女の子は
幅の狭い柄入りのパンツを履いていた。
幅の狭いと言っても、
8~10センチぐらいはあり、
今でこそイケてないと思われるような
お尻に熊さんの絵が大きくプリントされているものや
色んなローマ字が書かれているものを皆履いており、
それでもその時の私には、
フランス製の高級シルクで出来た厭らし過ぎるパンティよりも
手の届かない物のように思えていた。


その時にもらっていた月々のおこずかいで、
パンツの一枚ぐらいは余裕で買えたのだが、
パンツは履いた後、
洗わないといけないく、
隠す事が出来ないこともあり、
やはり母に相談して可愛い幅の狭いのを買ってもらおうと
無い知恵を絞り計画していた。


ある日、私は母と二人でニチイに行った。
これはチャンスだと思い
母にこう切り出した。


「お母さん、もうプールも始まってるし、
新しいパンツ新調したいな~」


「そうねえ、あなたのもう古くなってたわね、
じゃ、パンツ売り場に行きましょうか、、」



これはやったと思い、
何が何でも、
母がレジの前に立ったとき、
彼女の手に持つグンゼの軍艦パンツの中に
かわいいのを一枚忍ばせて買わせようと思っていた。
そして家に帰った後、
これもお母さんが買ったんだから、私履くよ、と
O型の母を煙に巻こうとしていた。

案の定母は下着売り場に着くと
他に見向きもせず、
真っ先にグンゼの売り場へ突き進んでいた。
そして私はその途中にある「1枚398円」のワゴンに立ち止まり、
そんなに幅の狭くない、
そうあのプールの着替えの時間で観察しまくった
同じような形のパンツを物色し始めたのである。

そして見つけたのは
幅が10センチぐらいはあっただろうか、
かわいい鉛筆柄のパンツを選んだ。
そしてつかさず母の買い物かごにそれを
ほおり込むと
何も無かったように
母と一緒にグンゼのパンツを物色したのである。

作戦は成功した。
母は何も考えずに私の鉛筆パンツを買ったのだ。

明日はプールの時間、
今までのようにこそこそ脱ぐんじゃなく、
このパンツを見せるべく
堂々と皆の前で脱いでやろうじゃないかと
勢い勇んでいた。






その夜、風呂に入った後、
自分の下着が入った引き出しをあけ
あの鉛筆パンツを探していた、、、



「無い、、、」



そう私には早すぎると言う理由で
母が隠してしまったのだ、、、。




次の日、
あの夢のパンツを隠されたまま、
私はグンゼのパンツを履いていく気になれず、
ノーパンで学校に行った。
ノーパンといえど、
そのときの私達の慣わしでは、
パンツの上にブルマを履く習慣になっていて
そう、
私はノーパンにブルマで行ったのだ。




そして待ちに待っていたはずのプールの時間に
私はいつものように更衣室の隅に行き、
コソコソとブルマを脱ぎ始めた。



「え?みっちゃん、なんでパンツはかんと
ブルマ二枚もはいてんの?」




そう私は、
パンツの変わりにブルマを履いた、
そしてその上にブルマを履き、
実はダブルブルマだったのだ、、、。




「え、えっと、、その、、、」




恥ずかしかった。
そしてその恥ずかしさは怒りへと変わり、
きっと家でおせんべいでもかじりながら
のほほんとテレビでも見てるだろうと思われる母へと
向かった、、。







子供の頃の経験が
私がこれから歩もうとしていた人生に
大きな影響を与えようとしていた。


もしこのときに、
あのかわいいパンツが簡単に手に入っていたならば、
きっとここまでパンツに執着する
大人にはならなかっただろう、、





世の中のお母さん、


いくら子供といえど、
何事も程ほどがよいのではないでしょうか、、、、?



                           続く

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第5話、お初なこと


早ければ小学校の中頃から、
遅くても中学3年までには殆どの女の子に
あるものがやってくる。

そしてそのあるものは
空へと伸びていく
私達女の子の身長を止めるかわりに
彫刻等で削るように
色んなところに丸みをつけてくれる、
そう、
私達は徐々に女性の体へと変化していったのである。


中学3年になると、
花ちゃんの色気は留まるところを知らず、
どんどん花咲きだしていた。
彼女の美しさと色気は
私達の町でも評判になり、
隣の学区からでも
人目花ちゃんを見ようと待ち伏せしている男の子達もいた。

そしてそんな男達を、鳩を追う払うように
私は花ちゃんの横を離れず彼らをにらみつけるのが
私の役目になっていた。

ブスに美人、
私達は漫才でも出来そうなぐらい正反対で、
私は彼女の美しさを認め、
花ちゃんは私を一番の親友として扱ってくれた。

彼女は私の自慢の友達だった。



そして花ちゃんはそのモテぶりを楽しんでいた。
ある日、いつも待ち伏せしていた
隣町の男の子と付き合い始めたのだ。
相手は高校生で、
格好良い代わりに頭が悪かった。
ちょい悪でも頭のよかった三木君で、
彼女も手を討っておけばよかったのに、
まじめすぎた彼では物足りなかったのだろうか、、、?

かなり危なっかしそうな相手に
私は付き合うのを止めたらと何度も彼女に言ってみたが、
当の本人は
強引な彼にどんどん流されていった。



「昨日ね、彼にキスされたの、、、」

「え?どうやって?」

「どうやってって、、
私がな、こうやって自転車にもたれてたら、
急に彼の顔が近くなってきて、ほんで、、、
気がついたら
口と口が触れ合っててん、、、」




花ちゃんの顔は少し赤らんでいた。



「でさ、よく言うやん、レモンの味とか、小梅キャンディの味とか、
ミントとか、、どんな味やったん?」



私は未知の世界に興味深々だった。
花ちゃんは、きっととんでもなくすごい味を言うことを
期待しながら
息を呑んで彼女の答えを待っていた。


「何の味もしなかったわ、、」


私は絶句した、、
きっと
食べたこともない果物の味とか、
例えばキウイパパイヤマンゴだね~
なんて言うんじゃないかと思っていた、、、

そしてその落胆ぶりを隠せずにいた。





その週末、
自分の部屋においてある鏡に向かってみた。

よくドラマで見るキスシーンを思い出しながら、
唇を尖らせ、
鏡に向かって自分の顔を近づけたりしていた。



「鼻があるからやっぱり斜め向かなあかんかな、、
目はつぶらなあかんな、、」




などど独り言を言いながら
薄目を開けながら鏡にキスをし、
いつか来るだろうその時の為に
練習していた。

今思えば、
その日が来るのはそれから20年も後のことなのに、
私は明日来るかもしれない勢いで
延々と鏡に向かってキスをしていた、、。



私が鏡にむかって初めて初キスを終えた日、
花ちゃんは付き合っていた男性と
初体験を済ませていた。


学校の帰りによった公園で、
私は花ちゃんの話を聞いていた。

そんなつもりは無かったのに、
行きがかり上そうなってしまったと
花ちゃんは泣いていた。





そしてその日を境に
花ちゃんはどんどんと
私の手の届かないところへ行こうとしていた。

早すぎたお初体験は
彼女の人生を変えてしまった。


続く


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第6話、虹色の親友


もうすぐ高校受験を控えた頃、
花ちゃんの生活はどんどん派手になっていった。

そしていつまでたっても
何も変わらない私を
彼女はじれったく思っていたのではないだろうか、

私達は一緒に遊ぶことはおろか、
学校から一緒に帰ることもなくなってしまっていた。

花ちゃんの付き合っていた高校生がよく門の辺りで
花ちゃんを待っていて、
私はそんな彼を横目にみながら
一人で帰る日々をすごしていた。

新しい世界に飛び込むように
急いで大人への階段を
駆け上がろうとしている花ちゃんを
近所のおばさんたちは色々と噂し始めていた。




そして私の母もその一人だった。




「ねえ、道子、聞いた?」


「何を?」


「花ちゃんの家ね、昨日大変やったらしいよ、、

夜中にね泥棒入ったと思って
花ちゃんのお父さんが110番したら、
花ちゃん部屋に男連れ込んでいたらしいわ、、、

その花ちゃんの男が壁よじ登って窓に入るのを
近所の人も見てたらしくてな、

ほら、竹内さんの家犬おるやろ、
かなり吠えたらしいで、

近所の人みんな気持ち悪がっているわ、、、」






母が使った「男」という言葉にかなり腹を立てていた。


母がその言葉を使うことによって、
花ちゃんがかなりふしだらな女になってしまっていたからだ。

もう遊ばなくなったといえど、
花ちゃんは私の大事な親友、
その親友の悪口を言う
自分の母親に嫌悪さえ感じていた。


大人から見れば花ちゃんはふしだらだったかもしれない、
でも、
きっと花ちゃんはその高校生を愛していたのだ。

愛があれば一緒にいたい、
そう思うのは自然なことだと、
人を愛したこともない私でも簡単に
分かることなのに、
周りの大人は、

やれ、男を連れ込んだ、
やれ、付き合うのは早すぎる、
やれ、やれ、やれ、、、







「もう花ちゃんと遊ぶの止めなさいよ、、、」






母の言葉に返事をせずに自分の部屋へいった。

花ちゃんに置き去りにされてしまった
孤独さと、
大人が理解してくれない子供の世界にいる自分に
腹が立っていた。


ただただ自分の若さに苛立ち
早く大人になって
自由に人と付き合いたい、
人の意見に左右されず
色んなものを自分の目で判断して
本物の色をみつけたい、、



大人たちがどんなことを言おうが、
私は花ちゃんの中にある
綺麗な色を知っている、、、

そしてそれを知ろうとする心を
私は大人になっても絶対忘れはしないと

握りこぶしを天にかざし、
二流俳優さながらの演技で
涙を流し、
心に固く誓っていた。





子供は、

大人が思う以上に色んな事を考えて、
自分自身の信念を持っている、



それに気がついたのは、
子供の時じゃなく、


自分が
子供を見下ろせるぐらいの
大人になってからだった。
  


       続く


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第7話、涙のサイン帳


花ちゃんの

「彼氏夜這い事件」

の噂は一気に学校中に知れ渡り、
クラスでもどんどんと孤立するように
なっていった彼女は、
学校を無断欠席する日も
多くなってきていた。


そんな中、
私は、行きたかった高校にもうかり
卒業までの間は
かなりのんびりした時間を過ごしていた。
いや、私だけではなく、
殆どのクラスメートは、進学先が決まり、
残るは卒業だけと
心に将来の夢を少しばかり期待しながら、
皆で過ごす最後の時を楽しんでいた。

そして、
恒例のように
クラスの子、全員に最後の一言を書きとめてもらうために
男も女も全員、素敵なサイン帳を買っていた。






その日は自習が多く、
私達はこぞってサイン帳を回しあいをしていた。

クラスの誰一人として勉強の本も開かずに
次々とサイン帳を回していく姿は、
どう見ても工場の流れ的作業で、
隠すというよりも
開き直ったという有様に、
きっと自習担当の先生も黙認していたのだろう。

中学3年生になってもパティ&ジミーのファンだった
私は、
彼らの絵の載った黄色いサイン帳を回した。

そしてそのサイン帳が
久しぶりに学校に顔をだした
花ちゃんの所に届いたときだった。

もう話すことの無くなった私達の
最後の会話でもあるサイン帳に
彼女が何をかいてくれるか
かなり楽しみにしていた。


すると、


「誰よ、こんなん書いたん!」


花ちゃんだった。

急に席を立った花ちゃんは
ある一定方向を向きながら
大声を張り上げていた。
そして彼女の目線の先には
勝田がいた。


「勝田、あんたやろ!
道子のサイン帳にこんな悪戯したの!」



勝田はびっくりしたように
花ちゃんの方を振り向いた。
そして小声で、、


「ち、、違うわ、、俺ちゃうわ、、」

「じゃ、誰やねん!」

「三木や、、、」

「俺もちゃうわ、、」


「あ~最低!自分のしたこと隠さなあかんやったら
最初からせ~へんかったらええねん、最低やわ、あんたら!」






私の日記帳のパティとジミーに
トラのパンツが描かれてあったのだ。



そして
お決まりのように
パティとジミーはウン子をもらしていたのである。


「ババたれ道子」


と呼ばれ続け
慣れていたつもりだったのに、
強気な私から涙が溢れた。



「止めなさい!」



先生だった。



「全部今書いているサイン帳、先生に渡しなさい、
暫くあずかります!」


「ええ~~!」



皆が一声に抗議の声を漏らした。



「ええ、じゃない!こんなこと授業中にするもんじゃありません!」


先生は
机の上の置かれてあった全てのサイン帳を回収しだした。
そしてもちろん
私のサイン帳も、
花ちゃんが何かを書く前に回収されたのである。



私は暫く泣き続けていた、
泣いている私を周りの女の子は
気遣ってくれ、
優しい女の子達は
花ちゃんのあの一声に担がれたのか、
勝田と三木に怒りの声を上げながら
私のために口々に抗議してくれた。



「ほんまや、ひどいわ、
サイン帳にあんなん描くなんて最低やわ、、、」



しばらく女の子対勝田、三木で
喧嘩らしきものが続いたが、

それでも花ちゃんは
私のところへは来なかった。





私が泣いていたのは、


「ババたれ道子」


と言われ続けたからじゃなく、


久しぶりに



花ちゃんの暖かい心に触れたのが


たまらなく嬉しかった


ただそれだけだったのである。




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第8話、花よ蝶よと、、


知っての通り、
私は小さい頃から兄のお古を着、髪もバリカンで短くかられ、
一つも女の子らしくない
幼少期をすごしていた。



私のその男らしい風貌からだろうか、
よく男の子に間違われていた。

もちろん
女の子としての褒め言葉など
皆無に等しく、
親も、大事な一人娘を
そんな男の子に接するような扱いで
育てたものだから、
本人の中に


「女」


としての色気を起こそう、
というよりも

起こしてはいけないものだと
自分を戒めていた。



今思えば、
なぜ両親は、普通の両親のように
一人娘を
蝶よ花よと育てなかったのだろうか?

一般的に、
人間として、
女として自信のある人たちは、
両親の愛情をいっぱい受けながら育っている。

だから彼女達は迷うことなく
好きになった男性に、自分の心をさらけ出し、
それが100%受け止めてもらえると
信じて疑わない、


もし受け止められなければ、



「自分には全く非がない」



のだ。

そう、いわゆる、自信に満ち溢れている人々で
一度でいいから
こういう人々になり、
こういう行動をとってみたかったが、

私には絶対になれない人々であった。




私は花ちゃんのことを
ずっと蝶よ花よと育てられた女の子だと
信じて疑わなかった。

彼女の可愛かった服装、
愛らしさがあふれ出る笑顔からは
彼女の名の通り、


「花」



以外、何も連想させるものはなかったのだ。






ある事件をきっかけに
花ちゃんは私の元から、
いや、皆の前から姿を消した。

その当時の私には、
彼女がどうしてそういう行動に走ったのか
理解できるはずもなく、

ただただ
彼女が帰ってくるのを待ちながらも
時には彼女を疑ったり責めたりもしていた。



そして
大人になって色んな人々に出会い
働きだした後は、
仕事の中では色んな義務と責任をもちながら
色んなジレンマに葛藤し続け、

恋愛でも
色んな悩みを持ち、
人並みに心傷ついた後、


再び花ちゃんを思い出していた、、、。



十数年もかけて
やっとのことで
どうして花ちゃんがそういう行動にでたのかが
すこしだけだがアウトラインが見えてきたのだ。




もしこれが事実で、

人はいろんな経験をして傷ついた分
人のことが理解できる
そんな
器の大きな人間になれるとしたならば、



傷つく人生も
また意味のあるものだと思うのだ、、、。


そう前向きに考えるならば

「ババたれ道子」

の思い出も、

満更悪くは無い、
と、
大人になってから思うようになった。



                          続く


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第9話、卒業式


卒業式も終わり、
やっと春休みに入った。




花ちゃんはあの日、
教室で大声を張り上げて以来、
学校を休み続けていた。


花ちゃん無しの卒業式は
私にとって
言ってみれば
中学を卒業するというよりは
花ちゃんからの卒業式だったのかもしれない。

クラスの皆とも涙ながらの
別れの言葉を交わした後、
父親から借りた
カメラで
皆の姿を写真に収めたりした。

皆で和気藹々と最後の時を楽しんでいた。

今まで一言しか交わさなかった
友とも、
肩を組み合ったり
腕を組んだりしながら
写真を撮り、皆で笑い、

こんなに楽しいのなら
どうしてもっと早く
心を開いて
仲良く遊ばなかったのかと
少しばかりの後悔もしていた。





「皆、こっち向いて~」


先生が私達に向かって叫んだ声とともに
私達は一斉に先生の方を向いた。


明日からは離れ離れになる友たちと、
記念になるだろう一枚を先生が
撮ろうとしていたのだ。

すると、
急に誰かが
私の肩を抱き寄せた。
きつくきつく抱き寄せられた。



「ハイ、チーズ!」


一瞬の出来事は
その強引な手を払いのける事が出来ず
私はその誰かにもたれる様に
写真に納まった。

恐々ながらも
ゆっくり振り向くと、
そこには勝田がいた。

勝田が強引に
私の肩を抱き寄せたのだ。

彼は私と目が合うと
少し照れたように下を向き、
何も言わずに立ち去った。



卵が先か?
鶏が先か?




私のあげたチョコで私が気になり始めたのか?
チョコをあげる前から私が気になっていたのか?




その謎は
私達が30歳になったときの
同窓会まで
闇に包まれたままだった。


式が終った後も、
勝田の腕の温かさと
男の力強さを忘れる事ができず、
自分の部屋で
写真の中の彼の顔を眺めては
自分で自分の肩を抱き
これから彼に会えないのだと思うと
何故だか
寂しさが心からあふれ出るように
涙が頬をつたった。



卒業式を終え、
皆に会えないのを寂しいと思いながらも


やっと


「ババたれ道子」

から逃れて暮らせる
高校生活を少し夢見たりして、
そんな数日を過ごしていた頃、
花ちゃんから電話が入ったのだ。



「道子、花ちゃんかた電話だけど、出る?」


母は少し怪訝そうな顔つきで聞いてきた。


私は何も言わず、
ただ
コクリと頷き、
電話口まで走った。



「もしもし?花ちゃん?」


「うん、みっちゃん、
今時間いい?」






そう、
これから始まろうとすることが、
前回の日記で述べた

「事件」

だったのだ。


私は花ちゃんを信じていた、
信じていたから


何も疑わなかった。


そして、
彼女の嘘がばれた後は、


私が彼女の代わりに嘘をついた。


                          続く



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