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カテゴリ:ノンフィクション・現代社会
『猫城記』を読んだ際、作者である老舎の死について詳しく書いてあると解説にあったので図書館から借りた本。目次を見るとのっけから郭沫若の死についての項があったので、ああやっぱりその手の文学関係のノンフィクションかと思ったら、違った。『複合汚染』の著者は、中国の人民公社をつぶさに見学に来たのであった。
中国人は遠方から来た日本人をお客様扱いしようとする。それに抵抗して、あくまで人民公社をと言い張る有吉オバサン。農業の現場はさまざまであった。アメリカや日本ではとっくに使われなくなったBHCやDDTなど毒性の高い農薬を、ありがたがって使っている新興農業地域もあれば、疑問も感じつつも用いている地域、「高いから」使わないという地域。どこへ行っても、有吉さんは半ば通訳に説得されながら、講演を行う。内容はおなじみレイチェル・カーンの『沈黙の春』、農薬の毒性、副作用、精神障害、食物連鎖、生体濃縮、病害虫の耐性問題(今問題になっている薬剤耐性菌と根っこは同じだ)、解法としてのマルチ農法などである。 どこへ行っても講演は成功し、熱心にメモをとる姿が見られたという。特に驚かれたのは、近代農業の普及の結果、日本の食糧自給率が30%にまで下がってしまったというくだりであった。もっとも異論を言わせていただければ、それは食生活の変化のせいもあるのであって、またいかに工業が環境汚染を撒き散らかし農家から人手を簒奪するからといって、「工業は農業の敵」とまで言い切るのは極論だと思う。なお、本書を読んで、有吉さんがインドネシアで生まれ育った地主の孫娘だと初めて知った。 しかし、何しろ30年前のレポートである。中国野菜が農薬だらけで危険だ、というのはいまや「常識」になっている。中国といっても広いから、いささか過剰反応かもしれないが、このレポートを読んで、あのころから中国はどのように変わったのだろうか、と考え込んでしまった。 ちなみに、肝心の老舎の死については、自殺説もあるが、遺族は否定しておられた。入水したにしては腹部か膨れていなかったし、靴もぬれていなかった。何より、中学生に半死半生の目に遭わされたくらいで自殺するような弱い人ではない、というのだ。おそらくそのとおりなのだろう。しかし、それでも真相は、なお藪の中である。… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.09.19 10:38:10
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