『名探偵ホームズ全集 第1巻』山中峯太郎:作品社
昔、学校の図書館に必ず置いてあったポプラ社のミステリ叢書が三つあった。ひとつは江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ。これには一番お世話になった。「一寸法師」「人間豹」など、大人向けの本のリライトもあって、現在刊行されているシリーズからは外されているけれども、そのおどろおどろしさが気持ち悪くも快感であった。それから南洋一郎の「怪盗ルパン」シリーズ。わがはい、と語る主人公が魅力的だった。今思えば子供向きのリライトではあるのだけれど、確かな文体があったと思う。確かな文体と言えば、山中峯太郎の「ホームズ」もそうだった。その頃は『事件簿』がまだ翻訳されていなかったから、「土人の毒矢」などを初めて読んだのは山中版の翻案が初めてだったと思う。ホームズがライヘンバッハの滝に落ちて死んだ、という話を読んだときには、とてもショックだったことを憶えている。さて、本書はその山中版「ホームズ」全集の第一巻である。四つの長編の内『緋色の研究』(深夜の謎)、『恐怖の谷』『四つの署名』(怪盗の宝)の三つをおさめ、「まだらの紐」「銀星号事件」など十二編の短編を収めている。短編はすべて、『四つの署名』で登場したメアリが、ワトソンの口述を筆記する形式。まるで逆『千一夜物語』のようである。タイトルから原題がわからないものも多い。「怪女の鼻目がね」(「金縁の鼻眼鏡」)はともかく、「スパイ王者」が「海軍条約文書事件」だなんてどうしてわかるだろう。読んでいてあらためて気がついた(忘れていた)ことだが、山中版「ホームズ」にはいくつかの特徴がある。まず、キャラクターだが、ホームズが大食漢である。快活である。コカインをしないのは教育上の見地からだろう。ワトソンもホームズのパートナーとしていかんなく推理力を発揮する。登場する美人に銀髪が多い。教育上の見地と言えば、不倫などを暗示する文章は翻案では一掃。またドイルはシリーズ全体の整合性には興味がなかったようで、シャーロキアンによってさまざまな矛盾が指摘されているが、翻案ではなるべくそういうものが目立たないように書き換えられている。また「語られざる事件」が全くなく、全ての物語が数珠つなぎというか、長編も含めてオムニバス形式の連作になっているのも特徴である。ちくま文庫の全集にみられるような年代記ではないが、これはこれで面白い。さて、第2巻はどうであろうか。名探偵ホームズ全集 第一巻 深夜の謎 恐怖の谷 怪盗の宝 まだらの紐 スパイ王者 銀星号事件 謎屋敷の怪 [ コナン・ドイル ]【中古】 深夜の謎 名探偵ホームズ / コナン・ドイル, 岩井 泰三, 山中 峯太郎 / ポプラ社 [新書]【宅配便出荷】【中古】 恐怖の谷 名探偵ホームズ / コナン・ドイル, 箕輪 宗広, 山中 峯太郎 / ポプラ社 [新書]【メール便送料無料】【あす楽対応】【中古】 スパイ王者 名探偵ホームズ / コナン・ドイル, 岩淵 慶造, 山中 峯太郎 / ポプラ社 [文庫]【宅配便出荷】